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ICT×探究 平井聡一郎×藤原さと対談1/3

6/12(土)に【ICT×探究 平井聡一郎×藤原さと対談】というイベントを企画しました。観覧申し込み枠はあっという間に埋まり、期待の高さが伺えました。
2時間強にわたった対談を何回かに分けてnoteにレポートをアップしていこうと思います。

それでは第1回、平井さんと藤原さんの自己紹介とハイテックハイの実践をご紹介します。
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平井
こんにちは、平井です。もともと茨城県の教員でしたが、その後、11年間教育委員会で仕事をしました。退職後、自分で会社を立ち上げたり、文科省のICT活用教育アドバイザー、総務省の地域情報化アドバイザーをやりながら経産省の産業構造審議会に参画しています。

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教育が変われ変われと言われていますが、なぜでしょう。仕事が変わっていくからです。AIやロボットはマニュアル的な作業、ルーティンが行う作業が得意です。人間が行う仕事ではなくなる職業が増えるでしょう。

それ自体は流れもありますからしょうがないのですが、これからの仕事はコミュニケーション、クリエイティビティ、スペシャリティを求められます。オンラインのコミュニケーション力が求められたり、マニュアル、ルーティンの仕事がなくなるのでクリエイティビティも必要になるでしょう。知識伝達型の授業だとこのような力は育みにくいと考えています。

そういう意味で、学力調査の問題も変わってきています。国語では文章を書いて答える問題が増えたり、数学では答えを出すだけでなく、そのプロセスを大切にする問題も増えました。以下に自分の考えを持って、それを表現するか、ということが問われるようになりました。今までの問題と価値観が変わってきたことを感じます。

そんな中で興味深い同じ平行四辺形の面積を求める問題もA問題(公式を当てはめる問題)は96%の正答率でしたが、B問題(応用問題)では18.2%でした。同じ公式を使っているにも関わらず、です。

A問題のような公式に数字を当てはめるような問題は「浅い問い」と言えるでしょう。知識をリンクさせて考えさせるようにできないとこれからは太刀打ちできません。
今までの授業では先生から教えられたこと、インプットをそのまま出す作業が求められていました。これからはアウトプットのある学びが必要です。探究もアウトプットがありますよね。

調べ学習も調べたことを再構築してアウトプットしますが、なぜアウトプットが大切かというと、アウトプットする際に思考をするからです。思考を伴うアウトプットが「深い学び」といえるでしょう。

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今の授業は先生(インプット)7:学習者(アウトプット)3のバランスで先生のほうが活動が多いです。この活動バランスを先生3:学習者7にして行くのがいいのではないでしょうか。

また、アウトプットして終わりではなく、フィードバックが大事です。アウトプットを垂れ流してしまう状態から外部から視点を得てやり直したりすることもあるでしょう。学習者がお互い学び合うことで、ある子のアウトプットが誰かのインプットになるし、誰かのインプットのために誰かがアウトプットすることもあるでしょう。インプット、アウトプット、フィードバックがぐるぐると回る授業になればと思います。

今日は藤原さんからハイテックハイ(以下、HTH)を中心とした海外の事例なども話しでくれることでしょうし、そういった中から学べることも多いです。GIGAスクールも進んでいく中で、ただタブレットをいれればいい、ということではありません。「何のために今変わらなければいけないのか」を考えることが大切です。そんな中で今日は日本の方向性を考えられたらいいなと思います。

藤原

本日はよろしくお願いします。「こたえのない学校」の藤原と申します。教育に入ったきっかけは、自分の娘が通っていた地元の公立保育園の父母会長になったことです。そのときにママ友と「こたえのない学校」を立ち上げました。その後、家族の仕事の都合でアメリカで3年生活しました。

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娘は現地の学校に通い、私は現地の教職課程を受講し、さまざまな学校を見学していました。 事業としては、2016年に教育者研修を行うLearning Creator’s Lab(以下、LCL)をスタートし、2018年には経産省の「未来の教室」事業で、米国ハイテックハイの研修導入事業に携わりました。

私はもともとソニーにいたのですが、本社の戦略部門で事業部における海外企業との共同技術開発や共同事業開発を推進・サポートする仕事をしていました。今の法人を立ち上げる直前はヘルスケアのコンサルタントとして、ミャンマー保健省と共同して、乳がん検診システムを同国につくるなど、さまざまなプロジェクトを実施しました。そんなことも今のプロジェクト設計に役立っているのかな、と思います。
法人設立当初は、子ども向けに探究学習の考えを取り入れたキャリアプログラムの開発実施を行なっていました。社会とつながる、という観点から企業や大学、アート・医療・ビジネスなどさまざまな領域におけるプロのみなさんと提携しました。いわゆるテクノロジーに関するプログラムも多く手がけ、バーチャルリアリティ、宇宙量子論、ロボティックスやAIを扱ったプログラムも実施しました。公立学校でも、プログラムを行なっていました。

発明の単元をやると、毎回特許申請をするチームがでますが、今年、いよいよ公園の水飲み水栓の水量を調整するキャップを発明した小学生が特許を取得しました。このプログラムは弁理士さんたちと一緒に開発したのですが、特許評価のAIを使って、本格的に特許開発のプロセスを踏み、改善を繰り返しました。しかし、この活動の目的は「特許を取ること」ではありません。

わたしたちは、プログラムを設計する時に、関わっていただく方に、その仕事で一番大切にしていることをじっくり時間をかけてお伺いします。そのときは、「発明ってなんですか?」と話を聞いた時、「不便を感じる気持ちを大事にすることで、新しいアイディアが生まれるんです」とおっしゃったので、そのことを軸にプログラムを設計しました。なので、子どもたちは学校中を探索し、不便を見つけてきたり、目隠しをして、目が見えない状態で学校を歩き、不便を見つけるというようなワークをして、具体的な経験から発明に入っていきます。

LCLという教育者研修は、年間30名ほどの教育関係者を受け入れています。3月から12月までの年間プログラムで、教師が自分たちで、チームをくみ、プロジェクトを立ち上げます。今年からSocial Emotional Learningのプログラムも始まり、合計で年間60名ほどを受け入れています。

ーー今回はICT×探究での対談ということですが、お二人ともサンディエゴにあるPBL先端校のハイテックハイ(以下HTH)を見学されたと聞いています。まずはHTHのご紹介をしていただけますか。

藤原
HTHは内容だけ見ると「裕福な地域の裕福な家庭の通う先進校」という印象を受ける人もいるかもしれませんが、ヒスパニックが約半数で、親が英語を話せない家庭も多いです。経済的に不利な、具体的には給食費を全額もしくは部分的に免除されている家庭は4割程度あります。
彼らの学校はチャータースクールと呼ばれ、親や教員、地域団体が申請して作られます。チャータースクールは公費によって作られた学校なので公教育の位置付けとなります。

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HTHの調査でPBLで学力を伸ばすことは可能だと言う結果を出しています。HTHの進学率はカリフォルニア州平均と比べて非常に高いのですが、時間割を見ると、ほとんどの時間がプロジェクトにあてられています。

平井
HTHを卒業した生徒は大学卒業率も高いと聞いています。アメリカの大学は入学するより、卒業することが大変です。自分で考えて学ぶことが当たり前になっている生徒が多いので、それだけ力がついているんだろうなぁ、と感じています。

数学は考えのベースになるし、PBLにおいてデータサイエンスが大切になっていくでしょう。日本は「文系だから数学をやらなくていい」という考えもありますが、これから言語と同じように重視していったほうがいいと思います。経済学部の入試には数3Cは必要ない学部もありますが、結局大学に入ってから使いますし。
私が見てきたのはヌエバスクールですが、ものづくりを多くやっている学校でした。コンピュータを使って創作しているのかと思えば、その作品の多くは手を使って作られたものです。自分のイメージを形にしているのを小さな頃からやっています。適当に作っているわけではなく、考えさせながら作ったり、目的に応じた創作、表現というものも目立ちました。ふざけたような創作もありましたが、「何かを表現したい」という気持ちを大切にしているのでしょう。「ものを作りながら考える」というのを大胆にやっていました。

シナプススクールというところでも人体の仕組みを学びながら表現したり、脳科学を学びながら表現することもありました。
工作室の規模もかなり大きく、設備も整っていました。自分も技術家庭科が専門だったので、羨ましくも思いました。スタジオなどもあり、アウトプットする場所があります。
時間割の中にプロジェクトの時間ちゃんと取られていて大切にしてることがわかります。また、コンピュータ上で進捗状況を記録している仕組みもあって効率的でしたね。テクノロジーとアナログのバランスを意識しながら教育活動を行っていました。

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次回はさらに深く突っ込んだHTHの実践、日本の教育の課題についてレポートをupします。
お楽しみに!

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