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「生命とは何か 物理的にみた生細胞」(シュレーティンガー著、岡小天・鎮目恭夫訳、岩波書店)

読了日: 2024/3/20

 文系脳の小生には、数学、物理などは特にに難しく完全理解には到達できそうもありません。ゆえに本書のような説明書を読もうとするのですが、本書においても弊理解は空中を漂っているようで、着地しようとしている地点への目測を誤っているとも感じます。
 シュレーティンガー著の本書の存在を知ってはいましたが、手に取ろうと思ったきかっけは『WHAT IS LIFE? 生命とは何か』(ポール・ナース著、竹内薫訳、ダイヤモンド社)でした。

本書の『生命とは何か(ホワット・イズ・ライフ?)』という題名は、物理学者エルヴィン・シュレーディンガーの著者へのオマージュだ。彼は1944年に同書を出版したが、その影響は大きかった。
シュレーディンガーは、生命のある重要な側面に焦点を当てていた。熱力学の第二法則によれば、つねに無秩序や混沌へと向かってゆく神羅万謝雨の中で、生き物たちが、どうやって、こんなにも見事な秩序と均一性を何世代にもわたって保っていられるのか。これが大問題であることを、シュレーディンガーはて近くに捉えていた。彼は、世代間で忠実に受け継がれてゆく「遺伝」を理解することが鍵だと考えたのだ。

『WHAT IS LIFE? 生命とは何か』まえがき より

 量子論研究で有名なシュレーティンガーが生命についてペンを取ろうと考えた背景は以下のようです。

ただ1人の人間の頭脳が、学問全体の中の一つの小さな専門領域以上のものを十分に支配することは、ほとんど不可能に近くなってしまったのです。この矛盾を切り抜けるには(われわれの真の目的が永久に失われてしまわないようにするためには)、われわれの中の誰かが、諸々の事実や理論を総合する仕事に思い切って手をつけるより他には道がないと思います。たとえその事実や理論の若干については、又聞きで不完全にしか知らなくとも、また物笑いの種になる危険を冒しても、そうするより他に道はないと思うのです。

本書まえがき より

 生物体の内部でおこっている空間的・時間的な事象を物理的、科学的に明らかにしようとする試みとあります。生物を扱う専門分野は生物学、遺伝学の研究では明らかになっていない事象を明らかにしようとするようです。
 生物は親からの生殖細胞を介して遺伝子を代々取り込んでゆきますが、どこかで突然変異が起き、その取り込みと組合せによって生物の多様性が生まれ、また無方向な変異と組合せにより環境に比較的適合した生体が子孫を残し(適合性の遺伝子を子孫に渡し)、比較的に環境適用が難しい生体は徐々に数を減らしてゆく偶然性によって成り立っています。
では、なぜある程度の頻度で突然変異が起きるのか、生殖活動により子に遺伝子を受け渡すまで生体が生き続けられるのはなぜか、についての考察が本書の要旨と思います。

 なぜある程度の頻度で突然変異が起きるのかについては、量子論(量子飛躍と非周期性)をもとに語られます。また、生殖活動により子に遺伝子を受け渡すまで生体が生き続けられるのはなぜかについては、エントロピーの原理(熱力学の第二法則)によって説明されています。完全な平衡状態(生物として死んでしまうこと)を避けるため”「負のエントロピー」を食べて生きている”ということのようです。

 ポール・ナース著の『WHAT IS LIFE? 生命とは何か』はより一般向けに書かれた本で、比較的(本書との比較)理解しやすかったように思いますが、シュレーティンガー著の『生命とは何か』はかなり難しかったです。量子論とエントロピーの原理を用いて生命を考えた、ということのみは知りえました。

 原著は、1943年ダブリンで行われた公開公演をもとに1944年ケンブリッジ大学出版より初版が出版されました。
WW2戦時下、ナチスによる空襲でイギリス、アイルランドともに大きな被害がありました。思い出されるのは、「MASTERキートン」(屋根の上の巴里)のユーリー・スコット教授によるナチスのロンドン空襲直後の瓦礫の中での講義です。ユーリー教授(オックスフォード大学の考古学者の設定)のモデルはシュレーディンガーではないと思いますが、同時期に“生命とは何か“を問うこと、考えることは本書内容とは別の意義があるようにも想像します。


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