「自殺帳」(春日武彦著、晶文社)
読了日: 2023/12/13
自殺をテーマとしてあつかう場合には、十分な配慮が必要とされるのが一般的だろうか。自殺は推奨されるべきではなく、何としても抑止し自死せずに生き続けるべきであり、”いのちをムダにしてはならない”と訴えるべきである、という定説に世界は満たされていなければならないという雰囲気を小生も感じるし、著者も感じているのかもしれません。
故に、「はじめに」が2バージョン付されていると思います。
一応の世間に対する配慮ののち「はじめに(別バージョン)」にて本書のテーマの扱い方、方向性が示されています。
自殺の発動要因を7つのパンターンにわけて以降の章立てとなっています。「美学・哲学に殉じた自殺」、「虚無感の果てに生ずる自殺」、「気の迷いや衝動としての自殺」、「懊悩の究極としての自殺」、「命と引き換えのメッセージとしての自殺」、「完璧な逃亡としての自殺」、「精神疾患ないしは異常な精神状態による自殺」
自殺に至らせる要因はいかなるものか、なぜその人は自死にいたることとしたのかを小説、ニュース報道、過去文献(「自殺に關する研究」山名正太郎著、1933/6/10刊、大同館書店、ほか)、著者の経験(著者は精神科医であり、担当患者が残念ながら自死した経験も持つ)を渉りながらめぐってゆきます。
結論的には、要因が重複するものも含め7つのパターンにあてがわれるのですが、それでそれぞれに対する解決策が明確になることはありません。そのように感じました。けれども、それが仕事として不十分であったとは感じず、(言わずもがなですが)自殺の理由は人それぞれであって最終トリガーがなんであったかはもはや確認することもできず、周囲の人間による推察にとどまるしかない、というころになろうかと思います。
けれども、生来的に自殺を目的に、もしくは自身の命を自殺によって終わらせることを目的に生まれてくる生命はないはずで(生物学に明るいわけではないので、これが絶対であるかはわかりません)、本人としてもやむを得ずの選択を実行したとの理解におさまるしかないのかもしれません。ただ著者は「自殺体質というか、自殺親和性の精神は比較的珍しいが確実に存在し、」との指摘もあります。本書を読めばその理解もありそうです。
自殺はなければそれに越したことはないし、そうあれば本人含めてだれも苦しむことはない(対象を自殺に限定すれば)と思います。けれもど現実は異なります。令和5年の自殺者数は21,881名(「令和4年中における自殺の状況」警察庁より)でした。同年の死亡者数は1,568,961人(「令和4年(2022) 人口動態統計月報年計(概況)の概況」厚生労働省より)厚生労働省で割合は約1.39%になります。
決して少ない数字ではないと思います。この数字を減らしてゆくには、「命をムダにしないで」と発する自己評価を高めるための言葉ではなく、真っ向から向き合おうとする行為がより解決策に近いように感じました。
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