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夜のお話です。 闇の中、布団の中、月に照らされた中で、昼とは違う一面を見せて大胆になったり、記憶を呼び起こして懐かしんだりするようです。
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2022年11月の記事一覧

好きだったものもの

好きだったものもの

 名前を呼ばれるのが嫌いだった。ハル、と呼ばれるのはなんというかとても、良くて、ふわっとする感じで、だから嫌いだった。ずっと、嫌いだった。

「治也くん」

 ん、と顔を傾けるとすずかが寝ていた。可愛いな、と思う自分に安堵する。まだ平気だ。まだ壊れていない。

 すずかが怖がるせいで常夜灯で寝るのにも慣れた。ぼんやりと浮かぶ黄色い灯りはなんとも平和で、安心感があって、それで落ち着いた。ほんとうはこ

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酔狂

酔狂

 プーさんと目が合う。全然可愛くなかった。朋子さんの持ち物だと思ったら、ちょっと可愛いような気がするけれど、幼馴染の男がUFOキャッチャーで取ってくれたと話した声の高さを思い出すと、やっぱり全然可愛くなかった。

 正直ダメもとだった。サークルの中でも朋子さんは断トツで可愛かったし、みんな一度は好きになる存在で、だからこそ高嶺の花すぎて後輩の僕たちには朝の挨拶すら勇気のいることだった。

「ゆんく

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役不足

役不足

 喋らなければ好みなのに。そう思うことが多々あった。脳内でしかかっこよくない男は案外そこら中に量産されていて、もはや「余計な一言」が巷で流行っているかのようである。

 にこりと笑う。斜め前で孝仁が「あーあ」という顔をする。それからちょっと笑う。

「朋子ちゃんもやってみたらいいよ、意外と難しいから」

「漢検をですか? あたし、一昨年1級取りましたけど」

 にっこり笑えば、きっぱりとサヨナラで

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