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役不足

 喋らなければ好みなのに。そう思うことが多々あった。脳内でしかかっこよくない男は案外そこら中に量産されていて、もはや「余計な一言」が巷で流行っているかのようである。

 にこりと笑う。斜め前で孝仁たかひとが「あーあ」という顔をする。それからちょっと笑う。

朋子ともこちゃんもやってみたらいいよ、意外と難しいから」

「漢検をですか? あたし、一昨年1級取りましたけど」

 にっこり笑えば、きっぱりとサヨナラできる。今回もハズレだ。あたしと釣り合うスペックと謙虚さを求めると、合コンは途端に墓場に化ける。加えてあたしの好みを考えると、まだ「男の子」というものにあたしは出会ったことがなかった。

「トモ、男ってのはね、気になる女の子の前だと背伸びしたくなっちゃう生き物なんだよ」

 孝仁のお説教タイムが始まる。後から合流した治也はるやに「そうなの?」と聞くと、「程度は違うだろうけどね」と頷いた。

「じゃあハルはやっとできた彼女に自慢ばっかり聞かせてるわけ?」

「やっとって何?」

 孝仁は知らないんだった、と口をつぐむ。治也が睨んでくる。

「自慢なんかしないよ、でも、すずかの好きそうな優しい肉食男を演じてる」

「ロールキャベツってやつか」

「そ」

 孝仁がぐっとビールをジョッキの半分まで飲んだ。治也の肩に手を置いてわざとらしくため息をつく。

「羨ましいよ。どうしたらアタックしたくなる相手が見つかるの?」

 あたしはちくっとする。治也がにやりとした。

「さっきトモに説教してたのは何だったんだよ、タカだって理想高いよな」

「高くない、低い、低いのにいない」

「トモでいいじゃん」

「いやいや、僕の彼女なんてトモには役不足でしょ」

 なるほどね、というように治也は「ふうん」と言った。孝仁は自己肯定感が低い。ちゃんとイケメンでちゃんとハイスペックで、これ以上ないほどにあたしの好みなのに。謙虚すぎる。

 孝仁がアタックしてくれたら、絶対付き合うのに。治也に言ったら笑われるだろう。あるいは、小さい頃からずっと三人で仲良くしてきたのは何だったんだと怒るかもしれない。誰にも言えずにここまできた。あなたを超える人に、ひとりも出会えないままに。

「役不足の意味、間違ってんじゃないでしょうね」

 孝仁にはさよならの笑顔ができない。ちっともおもしろくないのに、孝仁は笑い転げている。あたしは最高に可愛くない顔を向けながら、ビールを奪って残りを飲み干す。

「誰かいないかな、可愛くて優しそうな子」

 巷で流行りの「余計な一言」がここにも。自分だって彼女が欲しくて参加してるくせに、あたしが空気をぶち壊した後始末をしてあたしだけを連れて帰るこの男は、あたしと一緒に育ってきた極悪人。

 どうか。

 孝仁に彼女ができませんようにと、願う。

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