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金とき
2020年12月23日 18:29
ぷしゅーっとドアが開いて、何人か、僕の横を通り抜けた。冷たい空気が入り込んで少し震える。ぼんやりと、ドアの外を眺める。陽の落ちたばかりの青藍の空に、ぽつぽつと、白い光の粒が舞い始めていた。 狭いバスの車内は、なんだかいつもよりいい香りがする。女のひとのヒールはいつもより細いし、男のひとの髪の毛はぴしっとあがっている。小さな子どもはぽんぽんのついた帽子を被って、鼻を赤く染めて笑う。僕はおろした
2020年12月14日 18:26
しろい、まんなかに穴のあいたおおきな陶器のボウルの縁に、何人ものひとが立っている。まっしろの空間なのにとても暗かった。すっと撫でると、陶器はひやりとする。僕は少したじろいで、穴を見つめる。「お兄さん」 時計の音が聴こえてくる。それから、どたばたと、足音。 いろんなひとが飛び込んでいった。なんの感情もなくすっと落ちていくひと。ぐるぐると回りながら、ゆっくりと落ちていくひと。縁にしがみつ
2020年12月7日 18:33
ごおおお、と頭上から音が降ってきて、髪の生え際が熱い。おでこに伸ばしたパックに前髪が付きそうになって、慌てて手で押さえる。「ちょっと、前髪は分けてって言ったじゃない」「はいはい」 暁斗がドライヤーを止めて、私の前髪を真っ二つに分けながら手鏡を覗き込んでくる。「あはは、なんで顔に泥塗ってんの」「泥じゃないもん、パックだもん」 私は少し頬を膨らませてむくれてみせる。乾きかけて
2020年12月3日 18:35
さぁぁぁぁっと音がして、隣のミキが寝返りをうった。あたしはそれをじっと見ている。ミキは突然顔を大きくしかめて、ぱっと目を開けた。「えっ今何時?」しばらく目をぱちぱちさせてから、ミキが聞いた。「三時くらいかな」「三時って」もちろん、朝の三時だ。カーテンの外はまだ真っ暗闇で、ふたつのベッドの間にデジタル時計が微かに光っている。「ハルはいつから起きてたの」「あたしもさっき起