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夜のお話です。 闇の中、布団の中、月に照らされた中で、昼とは違う一面を見せて大胆になったり、記憶を呼び起こして懐かしんだりするようです。
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2020年11月の記事一覧

ぬくもり

ぬくもり

 黄色い雰囲気のお店だった。暖かな蜂蜜色の光が上から煌々と落ち、棚や床は木の温もりで輝いていた。売っているのは革の小物や使いやすい文房具。女の子はぶかぶかのブーツを踏み鳴らして、店内をゆっくりと物色していた。

 外はしんしんと雪が降っているのに、このお店はなんとも暖かい。ブーツについた白く柔らかいものは、いつの間にか溶けてなくなってしまっていた。

 女の子はカラフルな文房具を前に足を止める。ボ

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ホームシック

ホームシック

 くすんだ暗い金色のラインをなぞる。日本では少し見かけない趣味の、派手な朱色のベッドスローに肘をついて、右の手のひらに顎をのせる。異国の象の柄に沿って左手を動かす。三日前の夜、胸を弾ませながら塗った爪はもう、先から半分ほど地爪が覗いている。

「飽きたねえ」

ため息混じりに呟く。今なぞっている象は三匹目だ。

「あと二日あるんだけど」

サエが言う。自分だって、さっきからずっと同じ体勢でインスタ

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好きになったら負けゲーム

好きになったら負けゲーム

「好きになったら負けゲームしようよ」

 あたしは意気揚々と、この先絶対負けることのないゲームをもちかける。蓮はびくっとなって、眉間に皺を寄せた。

「一ヶ月毎晩寝落ち電話して、相手に対する感情が変わったほうが負けね。罰ゲームは愛の告白で。どう?」

「一ヶ月も?」

嫌そうな顔をする蓮の背中をばんっと叩く。

「いいじゃん、試しに今日電話してみようよ。絶対楽しいからさ」

 そう言い残して、あた

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匂いが似ている

匂いが似ている

 お風呂からあがったあとに外に出るのは、なんだか悪いことをしているみたいな、それでいてちょっとわくわくするような不思議な気分だ。

 家族で銭湯に行くと、帰りの車に乗り込む直前にいつもそんな気持ちだった。湯冷めしないようにね、なんて弟の手を引きながらお母さんが言って、七つ年下のまだ小さかった弟は眠たくなってぐずっていた。私はお姉さんだから、ひとりで立っていられた。夜の闇は怖かったけれど、髪の毛がま

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