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夕方

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夕方のお話です。 日が暮れていく色、一日が終わってしまう時間に、切なさや人恋しさを感じ、自分の想いに気付くようです。
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2020年9月の記事一覧

思い出すまで

思い出すまで

 つん、とつつかれて、僕はびくんと肩を震わせる。手に持っていた小説を栞を挟むのも忘れて閉じる。振り向くと、バーコードみたいにまっすぐ並んだ長めの前髪の奥で、二重のきれいな女の子が笑った。

 横浜駅のドトール前、平日の午前九時は忙しい人たちでいっぱいだった。文庫本の上で行き交う足をたくさん見た。みんなここではないどこかへ向かっていく、天井の低い空間。左側は白の、右側は黄色の明かりが灯っていた。朝だ

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ボーイフレンド

ボーイフレンド

 いつもなら、夕焼け色の空が広がっている時間だった。予報外れの分厚い雲があるはずの光を遮り、今にもぽつぽつと降り始めそうだ。

 疲れ切った足を動かして、空気の入っていないタイヤを漕ぐ。きい、きい、と一定のリズムで音が鳴る。土手の上の、でこぼこのコンクリートをがたがた揺れながら自転車で走る。

 一つ下の道で、制服を着た男子高校生がブレーキの音を響かせてUターンした。なにか約束を思い出したのだろう

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