シェア
金とき
2021年5月28日 19:19
汗だくになった先生が、ネクタイを緩めながら上下二つに分かれた黒板を入れ替える。 かち、かちり。ペンを鳴らして、ため息。耳元を羽虫が横切って、不快な音がする。かち、かちり。 ああもう、全然わかんない。まず、先生が黒板に書くゼータとクシーの見分けがつかない。てかなんで、ギリシャ文字なんて使うんだろ。日本人なんだから日本語使いましょうよ、ねえ。 そう言ったら、きっと彼ならにやりと笑って、落
2021年5月14日 18:26
砂利道には、薄いスニーカーで歩くとときどき足裏が痛い程度に石ころが転がっていた。行く手の地平線の先に眩しい太陽が光っていて、帽子を目深に被り直す。走って横を追い越していくひと、同じ速さで歩いていくひと、しゃがんで沿道の小さな花を見つめているひと。そこまで見て初めて、沿道に花が咲いていることに気がつく。 世の中、見えていないことばっかりだなあ。 わたしはのんびりと歩く。風が気持ちいい。どこ
2021年5月11日 18:23
透明の中に、透明が詰まっている。色んな方向に反射が起こって、虹色みたいにきらきら光っている。「隣座っていい?」「あ、うん」 机が微かに揺れて、水がきらきら踊る。ペットボトルの蓋を親指と人差し指でつまんで、くるくると回す。水が流れるように揺れる。私は食い入るように、見つめる。「何してんの」「え、いや、なにも」「なんだそれ」 森田くんは軽く笑って、前の席の子たちと話し始め