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『鬼滅の刃』と『千の顔をもつ英雄』

※この記事は『鬼滅の刃』のネタバレをめちゃくちゃ含みます
俺ちゃんと書いたかんね!頼むよ!


昨日、丸一日かけて『鬼滅の刃』を全巻読みました。非常にテンポがよく、少年漫画を滅多に読まない俺でも一息に読み切れたほど面白かったです。本作には他作品のオマージュがたくさん散りばめられていて、「あのコマはあの漫画のここから取ってるよね」といった元ネタ探しがTwitterなどで散見されて、へえ、面白いなあと思ったりしたんだけど、もっとメタ的に作品を見ると、神話学者ジョセフ・キャンベル著『千の顔をもつ英雄』の影響が大きいのではないかと、俺は推測しています。今日はそんな話。

まあ俺ごときが頭で思うことなんて、きっと他の誰かが先に気づいて文章化しているだろうと思ってTwitterやGoogleで【鬼滅の刃 ジョセフキャンベル】【鬼滅の刃 千の顔をもつ英雄】とかで検索してみたら案の定何件かヒットはしたんだけど、個人ブログや単発のツイートでさらっと触れられていたりしただけだったので、じゃあ俺が書いてみようかなと思ってこの文章を打ち込んでいます。

Joseph Campbell(ジョーゼフ・キャンベル、ジョセフ・キャンベル、以後ジョセフ・キャンベルと書きます、俺が読みやすいので)も彼の著書『千の顔をもつ英雄』(The Hero with a Thousand Faces,1949)もとても有名ですし、彼と彼の著書を既に知ってる方にとっては肩透かしのような内容かもしれないので、そういう方はこのnoteを閉じてもらって大丈夫です。読むならマジでお手柔らかに、マジで。

ということで、まずはキャンベルと彼の著書の説明から始めます。
比較神話学者、比較宗教学者として知られるジョセフ・キャンベルは著書『千の顔をもつ英雄』で数え切れないほどの神話や民話を分析することで、魅力的な物語が一貫して持つ、共通したパターンのようなものを導き出しました。つまり「古今東西、世界中には色々な物語があって色々な主人公がいるけど、実はそのストーリーって、骨組みとしてはあんまり変わらないし、主人公がやってることも、実はあんまり変わらないんじゃね?」ということです。

キャンベルはまず大雑把に物語を3段階に分けます。

①セパレーション(旅立ち)→②イニシエーション(通過儀礼)→③リターン(帰還)


です。もう少し少し細かく書くと

①セパレーション(旅立ち)
主人公はまず、慣れ親しんだ故郷や生まれ育った場所を離れて、今までの常識が通用しない、危険で謎に包まれた未知の世界へ旅に出ます。
②イニシエーション(通過儀礼)
その旅の中で絶対に敵わないような超人的な力との対決を余儀なくされ、様々な困難に襲われるものの、最後は勝利します。
③リターン(帰還)
主人公は、しばしば勝利の褒美を持って(何も持っていないこともある)最後は長旅から出発した場所へ帰ってきます。

とまあ大体こんな感じです。鬼滅の刃を読んだ方は、どれだけこの漫画の進み方が、キャンベルがここで提示した神話の基本構造に近いかがわかると思います。

キャンベルはこの3段階をさらに細かく分析しました。ここからは、俺が思う『鬼滅の刃』のこの部分はキャンベルの言うここに合致する、といった具体例の提示とともに、キャンベルの分析を紹介したいと思います。



①セパレーション(旅立ち)の詳細(鬼滅における1,2巻)

・「冒険への召命」=冒険への使命、主人公が旅に出る理由が与えられる
鬼滅に例えると→鬼によって家族が殺される、妹が鬼にされる
・「超越的な援助」=超自然的なもの(妖精や先祖、霊)が主人公を助ける
運命を受け入れて努力する主人公に幸運や加護がもたらされる
鬼滅に例えると→鱗滝さんとの修行シーンですでに死んでいる錆兎と真菰が修行を手助けしてくれる
・「越境」=主人公は最初の越境をする(未知の世界へと飛び込む)、そこで試験のようなものを課されて、なんとか乗り越える
鬼滅に例えると最終選別で鬼を倒し、鬼殺隊の一員になる


②イニシエーション(通過儀礼)の詳細(鬼滅における3巻から最終巻)

・「試練の道」=試練が次々に続く、主人公が英雄になるためのプロセス
鬼滅に例えると森、無限列車、遊郭、里、無限城での戦い
・「女神との遭遇」=エネルギーの回復期、主人公は女神と出会い、その力に包まれ、「回復期」する、しばしば将来の結婚相手と出会う
鬼滅に例えると4巻と6巻における回復パート、胡蝶しのぶ=女神、栗花落カナヲ=将来の妻
・「父との一体化」=父、もしくはそれに準ずるメンター(尊敬する人)の過去や言動を理解する。主人公が成熟しつつあることのサイン。ここで主人公はこれまでの試練の意味を悟り、戦う理由を得る
鬼滅に例えると煉獄さんの死、煉獄さんが使っていた刀の鍔を引き継ぐ(一体化の暗示)
・「アナザー・ワールド」=主人公は父、もしくは祖先の真実を知って驚くとともに、過去を追体験する
鬼滅に例えると→炭治郎が先祖の記憶を見て、縁壱や無惨の過去を知る
・「終局の恩恵」=主人公は勝利する。物語の終息
鬼滅に例えると→無惨を倒す、禰豆子が人間に戻る


③リターン(帰還)の詳細(鬼滅における最終巻の後半)

・「呪的逃走」=主人公は敵による最後の攻撃=呪いを振り払って逃走する
鬼滅に例えると→炭治郎は無惨によって一度は鬼にされる
・「外界からの救出」=英雄の逃走が進むには、ときにそこに外部的な超常力が加わる必要がある
鬼滅に例えると→鬼になった炭治郎は仲間の助けで人間に戻る
・「自由と本性」=主人公が故郷に戻ると、そこには新しい共同体ができ、婚姻が進み、財産が配分される→クライマックス
鬼滅に例えると→無惨を倒したあと、後日譚としての現代編

めちゃくちゃかいつまんでますが、ざっとこんな感じです。
 
それにしてもこうして見てみると、鬼滅の刃がどれだけキャンベルの提唱する魅力的な物語の基本構造や特質をおさえたエンタメかわかるのではないでしょうか。作者か編集の人は『千の顔をもつ英雄』読んだのかなー。

これはいい悪いではなくて、ある意味この物語構造は鬼滅の映画が興行収入で迫っている『千と千尋の神隠し』でも用いられていると言われているので、ヒットする作品ってある意味レシピがあると言うか、もちろんそれだけで売れるわけじゃないんだけど、抑えるべきポイントってあるのかもね、みたいな話です。

こんな感じでパパッと書きましたが、これを読んでくれた人がこれから物語に触れるときの新しい視点というか、ちょっと面白い見方的なものを紹介できてたら嬉しいです。

おしまい


ちなみに『千の顔をもつ英雄』についての批評は以下に詳しく、俺のこのnoteもこちらを参考にしてます。

松岡正剛の千夜千冊704夜『千の顔をもつ英雄』ジョセフ・キャンベル https://1000ya.isis.ne.jp/0704.html


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