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VISA発給停止の大統領令と様々な反応

アメリカ現地時間6/22に、アメリカのトランプ大統領がアメリカでの就労を目的としたVISAの発行を停止する旨の大統領令にサインをしました。これは海外からの多くの留学生をエンジニアとして雇用しているアメリカのテック企業にとっては大きなインパクトがでる可能性があります(アメリカ就職とビザの話はこのNoteにも書きました)。私自身も移民として永住権をとってアメリカで暮らしている身なので、色々と気になってニュースなどを読んでいました。テック企業のExecutiveのツイートや、TechCrunchの記事についたコメントなど、興味深い内容もあったので、こちらで紹介したいと思います。

1.テック企業やExecutiveの反応一覧

a. Sundar Pichai (Googleを傘下にもつAlphabetのCEO)

(訳)移民政策はアメリカの経済的な繁栄に莫大な貢献をし、アメリカをテクノロジー業界でのリーダーにし、そしてGoogleを現在の姿にした。今日の声明にはがっかりした。我々は移民とともにあり、全ての人の機会を最大化するように努力する。

b. Amazon
Business Insiderによると、以下の声明をBusiness Insiderに対して出したそうです。

"We oppose the Administration's short-sighted action. Preventing high skilled professionals from entering the country and contributing to America's economic recovery puts American's global competitiveness at risk. The value of high-skilled visa programs is clear, and we are grateful for the many Amazon employees from around the world that have come to the U.S. to innovate new products and services for our customers. Welcoming the best and the brightest global talent to the U.S. is more important than ever, and we will continue to support efforts that will preserve their ability to strengthen our economy."

(訳)我々は現政権の近視眼的な行動に反対する。高度技能を有する人材の入国を防ぎ、アメリカの経済回復への貢献をできないようにすることは、アメリカの国際的な競争力をリスクに晒す。高度技能を有する人向けのVISAプログラムの価値は明白であり、我々は世界中からアメリカに来て、顧客のために新しい製品やサービスを開発している多くのアマゾン従業員に感謝をしている。優れたグローバルタレントをアメリカに向かい入れることは今までよりもさらに重要度を増しており、我々は引き続きこういった人々がアメリカの経済を強くするための活動ができるように努力をしていく。

c. Brad Smith (Microsoft President)

(訳)今は、世界中からのタレントを排除したり、不透明性や不安を生じさせる時ではない。移民は我々の会社で重要な役割を果たしており、我々の国の極めて重要なインフラをサポートしている。移民の人たちは、我々がいま最も必要としているまさにその時、この国に対して貢献をしている。

d. Elon Musk (TeslaやSpace X CEO)

(訳)今回の行動には全く賛同できない。私の経験上、こういった高度なスキルは寧ろ雇用を創出する。VISAシステムの改革はわかるが、今回のものは影響が広範すぎる。

2.TechCrunchの記事に対するコメント

TechCrunchも記事を出しました。基本的には大統領令のインパクトの分析になっていますが、個人的に興味をもったのは、この記事に対してついていたコメントです。ご存知の方も多いと思いますが、TechCrunchはテクノロジーやスタートアップにほぼ特化したニュースメディアであり、読者層もそういったものに興味がある人が多いと思います。いくつかのコメントの一部を抜粋します。

Starting in the is 90s, I was a divorced mother of 4 trying to support my family. IT was my skillset and I'd had a ton of recent training to hit the ground running. But every year it was harder and harder to find openings to apply for. I also kept running into Americans who'd been forced out of IT and were now working in other jobs.

(訳)90年代から、私は離婚した四人の子供の母として家庭を支えてきた。私はITのスキルがあり、トレーニングを受けて、前に進むことができた。でも最近は応募できる職を見つけるのはどんどん難しくなってきていた。私はIT業界から出ていかざるを得ないアメリカ人の一部となり、他の業界で働いている。

This article is insulting. The author keeps quoting 'lack of talent' as the reason they go offshore which is simply isn't the truth. The truth is you can get three offshore people for the price of one American.

(訳)この記事は侮辱的だ。筆者はlack of talent - タレント不足を海外人材の雇用の理由としているが、それは真実ではない。真実は、アメリカ人一人分の給料で、三人の外国人を雇えるからだ。

The H1b program was meant to hire talent from other countries when it was scarce or unavailable in the U.S. It quickly turned into a scam where big Indian bodyshops like Tata, Cognizant, and Wipro would import substandard programmers with fake credentials at rock-bottom prices.

(訳)H1bビザのプログラムは、アメリカにいなかったり不足していたりするタレントを海外から雇用することが目的だった。このプログラムはすぐに詐欺行為に代わり、Tata、CognizantやWiproといったインドの大きな人材派遣会社が、水準以下のプログラマーを偽りの能力証明でもって、安い賃金でアメリカに連れてくるようになった。

Thank you Mr. President but it's not enough. You must revoke existing visas. I am a recently laid off engineer. Can't find a job while companies are openly advertising for an H1B visa applicants. It's disgusting!!! My own government is against me!!!

(訳)大統領、有難う。でもこれは十分ではない。既存のビザも無効にすべきだ。私は最近解雇されたエンジニアだ。仕事が見つからないのに、企業はH1bビザの応募者に向けて広告を打っている。最悪だ。私の政府なのに助けてくれないなんて!

少量のサンプルなので、これをもってアメリカ人のセンチメントとするつもりは一切ありません。実際に、僕の周りではおそらく1で紹介したテクノロジー企業寄りの反応をする人が大多数だと思います。ですが、今回の大統領令を好意的に受け取っている人がいるというのもおそらくまた事実でしょう。COVID-19(コロナウイルス)の影響を受けて苦しんでいる人が沢山いるのは間違いなく(5月の失業率は13.3%)、そういった人たちが状況の改善を少しでも願って、今回の大統領令を支持しているのかもしれません。元々移民政策には否定的なトランプ大統領、今年の選挙で再選があれば、噂されていたVISAシステムの改正など、本格的に動き出す可能性がありますね。

3.実際に今回の大統領令で何が起きるのか

私もVISAで働くチームメンバーがいる立場なので、少し調べてみました。勿論、移民法弁護士でもない私が調べた内容なので、ご自身に影響がある場合はかならず弁護士にご相談下さい。尚、おそらくアメリカでVISAプロセスをやったことのある方なら知っている人も多いと思うImmigration GirlのEmily氏も一連のツイートで影響を纏めています。

a.今回の大統領令は、新規の発行がターゲット。既にVISAのスタンプをパスポートに押されている(即ちVISAが既に発行されている)場合はインパクトがなく、アメリカに普通にVISAで入国できる。噂されていたような再入国の禁止、といった措置はとられていない。
b.対象になったVISAは、H-1b、H-2b、L、Jの各種。LやJは日本からの駐在で使われることも多い。期限は12/31/2020まで。
c.留学生用のFとそれに付随するOPTに対しては言及がないのでインパクトがない模様。
d.いくつかの例外事項があり、アメリカのFood Supply Chainに従事している場合は発給停止の対象外になる模様(Food Supply Chainが何を意味するかはよくわからない)。同様に、国家的な利益になると見做された場合も対象外。

アメリカに来る予定、乃至は現在VISAでアメリカに滞在している人は、今後の動向に注視する必要があります。また、前回の入国禁止措置の時のように、最高裁などがどういった司法判断を下すのか(また差し止めなどがありうるのか)、という点も注目すべきポイントかと思います。

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