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米国MBA良いとこ悪いとこ

(5/24 - 誤解を招かぬよう、タイトルに米国をつけました)

MBAはMaster of Business Administrationのことで日本語だと経営学修士と訳されることが多い。卒業後のお給料がよいので、アメリカでも人気の学位であり、日本でも米国でMBAをとられた方はそれなりの数いると思う。日本だと、HarvardやStanfordを筆頭とするM7と呼ばれるエリート校をはじめ、私の母校のHaasやTuck、Yale SOM、Darden、Fuquaといったランキングが高い学校にスポットライトがあたることが多く、よってエリート登竜門的なイメージがある気がするのだが、実はMBAを提供している大学はアメリカだけでもかなりの数あり、アメリカに住んでいるとMBAを持っている人とはそれなりの頻度で遭遇する。

MBAを持っていると色々な人からMBAに行った方がよいのか、という相談を受けるのだが、これは結構難しい問題である。そもそも、私が留学した2013年と現在とは大きく状況が異なる。当時はGFCから景気が回復しはじめ、アメリカ経済が成長の軌道に乗ってきたタイミングであった。その流れの中心にいたのがFAANGなどと呼ばれ、日本ではみんな大好きGAFAなどと呼ばれる会社を含むテクノロジー産業だと思うのだが、当時のアマゾンの株価は$300弱、良くも悪くもまだ牧歌的な時代である。いずれにせよ、この勢いを経験したかった私は、西海岸のMBAに行きたくて、そしてHaasに進学した。これは今振り返ってみるとてもよい決断で、結果として今アメリカで働いているという事実につながっているのだが、さて、いま留学しようと思った場合に同じ決断をするだろうか。

ということでいつもの通り自分の整理も兼ねてちょっとNoteに纏めてみようと思う。

良いところ1. MBAは門戸が広い

MBAは修士なのに門戸が広い。入学審査で問われるのはGMATとTOEFLの点数、それに加えて自分が今まで何を頑張ったかというエッセイである。これが他の修士課程だとそうはいかない。例えばCS系の修士を取ろうとしたら、学部レベルのCSの知識や、授業についていくための数学の知識といったものが問われる。自然に、進学できるだけのPrerequisiteを満たす人というのは限られてくるだろう。が、MBAはそうではない。どんなバックグラウンドの人でも、GMATとTOEFLの点数がそこそこで、エッセイにかけるネタがあれば入学のチャンスがある。トップ校はそこそこ激しい戦いにはなるけれど。

これは結構大事なポイントで、MBAが人気の理由の一つだと思う。学部時代の専攻をミスった、と思っている人も、MBAをとってキャリアスイッチをすることが可能なのだ。僕も法学部に行ったことを社会人になって若干後悔したので(法学部が悪いと言っているのではなく、単純に、自分のキャリアに余り学位として役立っていないというだけ)、MBAを取れたのはとてもよかった。因みに、昨今のSTEM需要に鑑み、CS系でも未経験の人を募集するような学部はいくつかできてきている。

良いところ2. アメリカで仕事をするお作法を教えてくれる

MBAは就職予備校としての側面が非常に強い。勿論、就職だけではなくて沢山ためになることも教えてくれるが、MBAに来る人のほとんどはよいキャリアを、という思いでくるので、どうしても就職活動というのはMBAにおける一つのハイライトにならざるを得ない。従って、学校側も就職活動にむけた様々なセミナーや勉強会やイベントなどを用意してくれている。

これはアメリカで働く現在、かなり役にたっていると思う。大人数でのパーティなどでの振る舞い方、人に何かお願いをするのときのやり方、角をたてない断り方、初対面の人への印象の残し方…特にHaasでは、当時アメリカ就職を目指すInternational Student向け講座、みたいのがあり、とても参考になった。こういったアメリカで生まれ育った人にとってはある意味常識のようなお作法をきちんと学べたのはとてもよかったなと思う。

良いところ3. Credibilityは上がる

自虐的に言うなら、私はどうあがいても怪しい英語を駆使する謎の東洋人である。You Know連発どころの騒ぎではない。そこにCredibilityのカケラを与えてくれるものがあるとすれば、UC Berkeley Haas School of Businessというアメリカのトップ校の一つを卒業しているという事実である。

私はProduct Managerに職種を変えてからはマネージャーパスにはいないはずなのだが、なぜかチームを任されることが多い。最近もチームの立ち上げをやっている(興味のあるソフトウェアエンジニアの方はお気軽にご連絡ください)。怪しい日本人の私にすら、チームを任せようといった多少のCredibilityを与えてくれるHaasとMBAという学位には頭が上がらない。

良いところ4. アメリカ国内におけるネットワーク

MBAはネットワークである、という話をよく聞く。確かに日本にいる時もMBA卒の先輩方が同窓生のネットワークなどを使って人と会っている姿をみたのだが、今一つピンときていなかった。が、最近アメリカでBtoBのビジネスをやっていて思うのだが、MBAのネットワークは凄まじく効果的だ。MBAの1学年を見ると、日本人の数は多くて~10人くらいで、殆どはアメリカ人、乃至は卒業後アメリカに残る生徒だ。当たり前だがアメリカ国内における卒業生の数はとても多い。これを駆使してBtoBの関係を積み上げていくというのは、何もないところからPitchしたりCold Callしたりするのとは桁違いに効率が良い。コンサルや投資銀行でMBA卒の人をたくさん取るのも納得である。

良いところ5. 広範な分野をきちんとカバーして実務的な話を教えてくれる

MBAにいくと、とにかく広範な範囲の授業が準備されている。経済学や金融や会計、マーケや戦略論といった基礎的なものに加え、話し方の技術とか社内政治をどう生き残るか、みたいなユニークなものもある。僕は元々興味のあったデザインシンキング系の授業をとったりテック業界に特化したマーケ + 戦略のような授業をとったりした。こういった広範な分野をかちっとカバーしてくれるのは結構就職してからも役に立っていると思っている。例えば、マーケティングとか戦略論的なフレームワークはMBAに来る前は殆ど触れたことがなかったので、授業で聞いたりした実務的な内容が、今でも仕事で議論を組み立てる際の出発点になることも多い。他にもデザインシンキングの授業で使ったいくつかの手法をチームでの議論に適用するなどしている。

よくないところ1. 高い

アメリカの教育機関はどこもお高いわけですが、そう頭ではわかっていても、高いなぁ〜、とぼやきたくなるくらいには高い。投資銀行とファンドでいただいたボーナスは結構吐き出さざるを得ず、卒業後の資産形成的には一からのスタートとなった。私の場合、幸運にも入社した会社の株価が爆上げしたのだが、そういったラッキーなイベントがなかったら、この多額の投資をどこまでPositiveに見ることができたかは微妙なところがあると思う。留学するタイミングが悪かったり、卒業後の入る会社が伸びないと、MBAとったのになんでじゃ、みたいなことになるリスクはある。ただ、以前のツイートではないが、この辺はコントロールがほぼきかない部分なので難しいところ。


よくないところ2. 飛び道具は身につかない

海外で実績を残した日本人アスリートには、周りから抜きん出るような飛び道具を持っていた人も少なくない。私の世代であれば、少年時代に野茂英雄がフォークで相手バッターをきりきり舞いにさせていた姿に興奮した方も少なくないと思う。残念ながらMBAに在籍しても、こういった飛び道具が身につくことはない。良いところ5の裏返しなのだが、MBAは良くも悪くも広く浅く、経営上必要となるお題目について学んでいく場だ。特定の領域に特化したプログラム、例えばCSや、今流行のDSやAnalytics系の修士と比べ、深さという面で戦うのは厳しい。当たり前だがBusiness Intelligenceをやりたい時にMBA出身者よりはMSDSを持っている人を採りたいというのが人情であろう。

もし卒業後にMBA卒という枠でアメリカで就職したい場合、飛び道具はMBAに来る前にすでに持っているか留学中にMBAプログラムの外で身につける必要がある(乃至はそうでないと相当厳しい戦いになる)というのが私の見解だ。私の周りでMBA卒業後にアメリカで就職している人々はそれなりの数いるが、多くの場合、金融・投資、会計、特定業種に関するコンサルや事業会社での深い知見、及びSTEM系(CSなど)の飛び道具をMBA前に獲得されている。

よくないところ3. 英語ができないと辛いし学びが限定的

留学しているのに何を言っているんだね、と思ったみなさん、その通りです。ただ想像してみて頂きたい。留学や駐在経験もない人間が、20代後半でアメリカに放り出され、自分と同じかもうちょっと若い外国人と学校生活を送るのである。最初の方は本当にクラスメイトが何を言っているか全然わからず、冷や汗をかきまくった。教授に質問するクラスメイトの質問が聞き取れないので、その後の授業の展開についていけない。当然だが授業で発言するなどできるはずもなく、私は貝になっていた。MBAは特に座学ではなくて、どちらかといえばクラスでの議論やプロジェクトを通して実践的な知識を身につけていくので、一定の英語力がないと本当に辛い。私はあまり苦労せずにGMATもTOEFLもクリアしたのだが、ペーパーテストの点などに何も意味はないのだと悟った。

今だったらどうするのか?

今でもMBAに行くと思う。アメリカで働くのであれば修士があった方が有利だ。そして、私のバックグラウンド的に、おそらく一流大学で修士をとれる可能性が一番高いのはMBAだと思う。そういった意味で、門戸が広いというのはとてもありがたいのだ。一方で、ちょっとMBAだけだと物足りないなと思う部分もある。正直、アメリカを腕っぷし一つで生きていくにはそれなりの飛び道具が欲しい。僕はAmazonに入った後に色々な偶然が積み重なって今のポジションに流れ着いたけれど、これは再現性があまりないし、はっきり言って入社タイミングとLeadership Programで配属された先がよかった、端的に言えば幸運だった、というだけのことだと思っている。

振り返ってもう少し戦略的に考えるのであれば、エッジを立てるためにDual Degreeのプログラムを検討すると思う。例えば、BerkeleyはMBAとMS EngとのDual Degreeを提供している(私のバックグラウンド的に受かるとは思えないが例として)。両方とも全米でトップクラスのスクールなので、こういったオプションはとても魅力的だ。

BerkeleyだとMPHとのDual Degreeのプログラムがあって、こちらは日本人が定期的に合格されているイメージだ。

他にも有名どころだと、例えばWhartonはUPennのEngineeringといろいろやっている。MCITは確か理系バックグラウンドでなくてもチャンスがあるはず。(UPennのEngineering自体のランキングはそこまで高いわけではないが、Whartonの名前と組み合わさると強烈だろう)

いまちらっと調べただけでもいくつかプログラムが出てくるので、おそらくちゃんと調べたら沢山あるのだと思う。

MBAで学ぶ広範な範囲の知識に加え、確たる自分の強みを作ってくれて、そしてそこに学位という保証をつけてくれるDual Degreeは検討に値するOptionだと思う。

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