雑記宇宙港-空中発射ロケットや洋上打上げが経済的なわけないじゃんJK-大分空港など

 打上機界隈を賑わす空中発射式打上機(軌道投入機)について書き散らしたメモの破片のようなコタツ記事です。全編にわたって恐ろしく雑な仮定と計算に基づきます。居酒屋トークです。出所がマトモなものを読みたい方はこちらでもどうぞ。

http://www.pp.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2016/03/GraSPP-P-15-001.pdf

https://www.meti.go.jp/policy/tech_evaluation/c00/C0000000H27/151216_ucyu1/ucyu1_siryou5l.pdf

先にまとめ

 射場安全の面では既存設備に相乗りでき、更にスペースポート付近に落下物の警戒区域を設けずに済むため、この点では比較的低コストで済む可能性がある。
 しかしシステム総体としては所謂垂直打上げよりも複雑であり、開発難度、運用難度ともに高い。この点は高コスト要因である。
 空中発射母機の大きさの限界により、打上機の規模の限界も低く、既存の地上打上方式に比べて軌道投入できる力積が小さい。二乗三乗の法則により打上機は大きいほど有利なので、大型打上機に対してコストで勝つのは無理だ。

フライトの想定

画像1

 飛行環境を仮定する。いかなる公式発表にも基づかない。外野が勝手に作ったお絵かきである。当然2022年1月現在発表された近年中の打上運用予定とも関係ない

 SSO 98度軌道(500km程度)へ投入する場合、下段分離および飛行中断に伴う落下物がフィリピンに影響を及ぼさないため、紀伊水道南で高度打上機を分離する。上図は赤線は打上母機の、黄線は打上機のおおまかな飛行経路である。
 種子島射場や肝属射場から打上げは非常に効率が悪いのに対し、串本、大樹、そして大分の空中発射システムはそのロスが非常に少ない。

画像2

 飛行距離は片道概ね400km。往復800kmである。打上のための打上準備および打上マニューバ(レーストラック飛行)は概ね1時間である。
 レーストラックの飛行高度は31,000ftである。420ktで周回飛行を行い、打上準備を行う。打上時は510kt程度まで水平加速した後、高度40,000ft程度へ向けて急上昇しながら打上機を切り離す。この高度は国内線の飛行高度と国際線の飛行高度の間程度であり、とりわけ高いということはない。切り離し直前の急上昇は離陸直後の上昇率に匹敵し、その点は特殊な飛行と言える。
 RJT-X23空域をはじめとした米軍訓練空域および国際線航空機、国内線航空機(那覇便など)の飛行経路に干渉するため、調整が必要と思われる。むしろ訓練空域としてリザーブされた実績のある領域のため、使いやすいのではないか。
 代替飛行場を関西国際空港とし、更に30分間分の予備燃料をあわせて250分間分の燃料を搭載して離陸すると仮定する。搭載燃料質量は46,200kgとなる。打上運用全体での飛行時間は約170分となる。

安全条件みたな

 本邦はスペースポートを法的に定義していない(今後数年内に状況が変わる可能性はある)。そのためスペースポート特有の規制も存在しない。そのため事業者は既存規制をクリアすればそれ以外部分は任意に計画活動できる。既存規制とは可燃物や火工品の管理運用、電波、航空安全、海上安全、打上安全そして労働安全などである。

 空中打上を洋上で行う場合の射場安全に関しては、規制区域を打上げ機飛行経路下に設定する必要がある。打上機飛行経路下の設定については基幹ロケットなど既存打上機と同様である。

 地上気象条件は空港と打上母機の能力に依存し、上空気象条件は射点付近の状況の制約を受ける。地上気象条件に関しては、一般的に打上機よりも打上母機の方が悪天候に強く、気象条件由来の打上延期を回避しやすいと考えられる。

 時間的制約は主にエアライナー等のスケジュールと空港運用時間の干渉を受ける。大分空港の運用時間は7時30分から22時30分である。
 なお大樹射場(HOSPO)は主に帯広空港離着陸機の制限を受け、串本射場は中部国際空港着陸機の経路と干渉する。

参考) 大分空港供用規程

 射場安全域を確保するためには広い地域(多くの場合、法規制に比して過大な)を確保する必要があり、スペースポートが所在する地域自治体との調整が必要になるが、大分空港の場合には単なる可燃物の運搬であると考えれば過大にとる必要はないだろう。つまるところ新規に安全域を確保せずとも、既存の航空機(エアライナー)運用の為に広くとられている規制領域に相乗りすれば事足りる

必要なモノ - 空中発射母機

(母機本体+システム開発費+アップデート費)/運用回数+運用費

参考)BOEING 747-400 Price and Operating Costs

https://www.aircraftcostcalculator.com/AircraftOperatingCosts/380/Boeing+747-400

運用費には空港使用料、燃料コスト、定期点検コストを含む。

 2021年6月30日の件の打上実績では、打上母機は約101分間飛行した。大分から98度軌道へ投入する場合、前述のとおり往復100分に加えてレーストラック飛行に60分の160分であり、これが正味の燃料消費量となる。B-747-400は約1gal/secの燃料を使うので$4.25/galとした場合、4.25*60*160=$40,800≒4,692,000円(1$=115円換算)となる。この価格は点検コストと飛行クルーの人件費を含まない。

参考)第5章 競争力のある会社へ

 飛行時間当たりのコスト140万円以下を目標としている。この数字を使えば1フライトあたり373.3万円となる。燃料以外に点検コストと飛行クルーの人件費も含むと考える(流れ作業の数字を使うのは適切ではないが)。
 乖離のある2つの数字だが、ここでは4,692,000円以上と考える。

参考)大分空港(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/bj/airport/ooita.htm

 大分空港の着陸料はジェット機101から202tの着陸料は1,650円/tである。
 Boeing 747-41Rの詳細は調べきれなかったが、747-400の乾燥重量は183,523kg。仮定より燃料搭載量は46,200kgである。

参考)Virgin Galactic unveils Cosmic Girl, dedicated LauncherOne aircraft

 LauncherOneの質量は24,947.58 kgとしている。
 よって打上機母機および打上機の離陸重量は183,523+46,200+24,947=254,670kgである。
 着陸料は離陸重量を根拠とするので254,670/1000*1,650=420,205.5円である。
 停留料は乾燥重量に負けて貰うとして、70円/t/24hなので年間4,692,224円。年間最大打上数を現状のところ20回と提示しているため、1回あたり234,611円以上である。

以上のことから1回打上毎にかかる打上母機の運用費は4,692,000+420,205.5+234,611=5,346,816.5円以上である。

必要なモノ - 地上支援設備(GSE)

 一般的な垂直打上に必要なGSEの一部が空中発射母機側に含まれるため、GSEの整備に必要な費用をいくらか減じられる。

 空中発射母機の運用設備(航空燃料/消防/安全域など)は既存エアライナーの設備に相乗りできるだろう。一方で打上機/ペイロード整備棟、打上機用推進剤保管/運用/処理設備、ペイロード用推進剤保管/運用/処理設備、火工品管理/運用といった、打上機の運用に必要な設備は既存空港設備に加えて必要だ。当然それらを運用する人員の為の設備も必要になる。ペイロード側が(実際の危険性のわりにやたらと規制が厳しい)ヒドラジン系の推進剤を用いる場合、外野の余計な干渉を避けるために法的な保安距離を遥かに上回る規制領域が必要になるかもしれない。

 打上事業者が地上設備に関して公表する機会は非常に少ない。発表により企業価値が上がる効果を望みにくいという点は勿論だが、それ以上に宇宙機産業が伝統的に公益に資する目的で発展し、現在もその流れを汲んでいるためであろう。米国においては1960年代に築かれたケネディ宇宙センターやヴァンデンバーグ空軍基地、およびケープカナベラルの巨大で高性能なGSEを更新し続けることで多くの打上に寄与している。SpaceX社のFalcon9やFalcon Heavyはこれらの設備を使用している。

 種子島に関して以下のプレスキット(p.11)によれば、H-II、H-IIA、H-IIBロケット(打上機)の為に建設された「大型ロケット発射場」の総工費は約800億円である。
https://www.jaxa.jp/countdown/h2bf1/pdf/presskit_tnsc_j.pdf

 大樹町はHOSPOのLaunch Complex-1(LC-1)に関する資料を公開してる。この設備では小型打上機の運用を想定しており、土木建築事業費を約2.6億円と概算している。

 中型打上機に対応したLaunch Complex-2(LC-2)に関しては40億円の建設費用を見込んでいる。LC-1、LC-2ともに町有施設とし、これを施設運用会社に貸与し、施設運用会社が打上事業者等から利用料を徴収する建付けである。
 IST社にせよSpaceX社にせよ、民間単独打上と言われながらも、その功績の裏には公の助けが深く関わっている。

 串本射場の土地は串本町が無償貸与、事業費のうち32億円分は和歌山県の無利子融資制度を使うとしている。詳細は調べきれなかった。
 こちらも自治体の大きな後押しの上に成り立っている計画である。

 計画費や開発費は外部から計算不能である。株主ならうっすらとわかるかもしれない。打上機業界に限らないが、事業立ち上げ時は重要な要素となる開発費とその回収という要素は、事業が回り始めるとその注目度は信じられない程低下する。商品開発スキルの向上は現行商品のみに還元されるものではないため不可算という面もあるが、打上機に関しては更にインフラ事業として政府からの有形無形の支援を取り付けるのが普通なので、計算の困難さに拍車がかかる。またSpaecXほどの規模となるとそこにマネーがあるというだけでマネーを産むため、その価格設定を外から見て合理的だ非合理的だと断じるのは不可能だ。せいぜい「その打上価格では単独で利益にならんだろJK」と言う程度である。

成功率

 何をもって成功とするかの明確な定義は事業者と保険屋さんが議論する範囲だが、一般にペイロードが予定軌道にまったく届かず失われるような事態は失敗と呼べるだろう。そして空中発射型は失敗のリスクが高い

 地上打上と空中発射の大きな違いはエンジン点火前後に起こるトラブルでの再試行(リサイクル)可能性である。多くの地上打上げ機はロケットエンジンに点火後、燃焼が正常に起き、推力が立ち上がった事を確認するまでは打上機を地上から捕縛しておく。ロケットエンジンの点火には幾つもの弁装置や点火装置の動作が正常に行われる必要があり、故障による不点火や異常燃焼による推力不足が起こりうる。加えて他の装置(例えばサターンVではジンバル油圧系の地上圧から機上圧への切り替えなど)の異常や不作動もまた起こりうる問題だ。それらが正常に機能している事を確認してから打上機をリリースすることで失敗可能性を下げられる。もし問題を検知した場合はリサイクルシーケンスへと移行し、問題の解決を行い、再度の打上試行に繋げられる。打上成功率の高さの裏にはリサイクルという"ノーカン"が隠れている
 しかし空中発射母機から打上げ機をリリースした直後にエンジン点火異常などのトラブルが起これば即座にレーストラック下に落下する。地上発射も空中発射もリサイクルが許されるのはリリースまでだが、点火というクリティカルな運用がリリース後に行われる点で空中発射は工学的に不利である

回避できるリスクとコスト

 射点を人家や航路から離れた領域に設定できるため、それらに伴うリスクやコストを回避できる可能性がある。
 地上打上げの打上運用時は射場周辺または飛行経路の道路/鉄路/海路/航空路を事実上封鎖することで発生する経済的不利益およびそれらを実行する為にかかる政治コストと運用(警備/監視)コストがかかる。また事実上の封鎖が破られた際の打上見合わせのリスクがある。封鎖を行わない場合は政治コストが最小になるが、交通を避けてウインドウを設定する必要がある。
 近年では北海道インターステラテクノロジズ社の観測ロケットMOMOが2017年の打上時に、SpaceX社の打上機が2022年に警戒海域へ船舶侵入により打上試行を順延した。
 空中発射ではそれらの制約を減少または完全に回避できる。

 地上気象による打上条件制限を減らせる可能性がある。空中発射母機の運用空港が打上機搭載状態の空中発射母機の運用気象条件を満たしさえすればよい。

所謂洋上打上げ

 洋上打上げは射場の地理的な制約を減免する目的で射点を水上に求める試みである。洋上打上げの利点は主に3点、射場安全(射点領域)を洋上に求められる点、射場安全(落下域)を洋上に求められる点、それらを国土の外に求められる点である
 これまで打上機を船舶やオイルリグなどの洋上プラットフォームに載せる試みが少なからず構想、計画され、また試みられてきた。静止衛星軌道投入を目的とした低緯度打上げや、再使用段の回収用である(wikipediaのシーローンチの項には「地上発射型に比べ経費を減らす事ができる」などと書かれているが、でまかせもいいところである)。
 本邦においては洋上打上げスタートアップ企業が立ち上がったり、中古客船を用いた洋上打上げの構想が上がったりしているが、目下のところ軌道輸送機の運用に直接的に供された実績はない。
 利点1の射場安全(射点領域)について、日本は海岸総延長こそ長いものの大抵の海岸には居住者がおり、大陸国にあるような十数kmに渡って無人の領域は存在しない。そのため射場設置時には立ち退きや騒音の許容などの調整にコストがかかる。打上運用時には周囲の交通規制も伴う。利点1によりこれらの課題を回避できる。
 利点2の射場安全(落下域)について、日本は太平洋に面しており世界的にみれば射場としてとても恵まれているが大阪よりも西から近年流行りの地球観測衛星を打ち上げる場合、フィリピンが邪魔である。切り離した打上機の一部や飛行中断した場合の打上機全体がフィリピン領内に落下することを許容してもらえるよう補償の交渉を行うか、物理的にフィリピンを避けるかの2択である。種子島のロケットは大きく東方向へ迂回してから西方向に戻るという、政治的に必要かつ力学的に無駄な運用を行っている。ガッデム種子島。
 利点3の国土の外に射点を求められる点について、以上2点の課題解決を行っても限界のある国や地域は多い。例えば近年打上機の開発を行っている韓国は周辺国に地理的に囲まれ、極軌道以外に打ち上げることは困難だ。これを解決する為に洋上打上を検討しているようだ。また同時に打上緯度の選択肢が増える。2014年まではシーローンチ社(Sea Launch)が洋上からの静止軌道衛星打ち上げを行っていた。しかし2022年現在、彼らが商業的な成功を収めたと評価するのは難しいだろう。

 デメリットとして洋上GSEは陸上に比べて規模の確保がそのまま船体の獲得/維持コストに跳ね返り、これは陸上固定式に比べて割高になる。またGSEや打上機またはペイロードに問題が発生した際は、その度合いが重い場合は整備拠点に戻る必要が出る。地上GSEであれば機材や人員を投入すれば数時間から数日で解決可能な問題であっても、洋上プラットフォームが拠点に行くまで数時間から数日という時間的コストを追加で支払うことになる。人家から離れられるというメリットが形を変えてデメリットになっている。

結果「山の上から打ち上げればいい」に近いデメリットを抱えている。もっとも山の上は洋上打上げのメリットを1つも得られず、空中発射ロケットのメリットの一部を共有する程度に留まるため誰もマトモに取り組まないわけだが(火星環境は山の上のようなものという意味で、一周回って最先端企業が計画していると言えなくもなし)。

 空中発射ロケットの打上質量(力積)の限界は船舶式/浮体式/固定式洋上打上げ機よりも数桁低いため一見勝負にならないが、洋上打上げは中/小型打上機でこそ現実的であって、空中発射のライバルと言えるかもしれない。 

つまりはJK

 打上機はわからない事だらけ。空中発射ロケットも当然。
 宇宙港に関わる大分の議員さんとて専門的なツッコミには答えられないだろう。だがそれでも対象を理解し、許容不能なリスクやコストをつっつき、許容可能なリスクを取るのが政治家という立場であるし、政治家を選ぶ選挙民も彼らがちゃんとした判断力を持っているのか否かを判断できる目を養わねばならない。道理の通らない計画には反論し、気分屋の懸念には杞憂だと諫めなければ、止めねばならぬものが止まらず、進められるものも進まない。金銭的ポジショントーク?(頭が痛い)
 占いや宗教や陰謀論にハマっるような頭の悪い人を議員にしてしまったら、困るのは有権者だ。

「ロケット打ち上げは低緯度(赤道)の方が有利という常識」は大昔の地球静止軌道獲得競争時代の常識であり、極軌道や傾斜軌道が花盛りの2022年にそんな事を言っているのは情報のアップデートができていないロートルだ。偉そうなことを言い続けたければ学び続けよう(戒め)。

 政治家や自称有識者の言動が合理的か否かを判断するにはロケット(打上機)に関する知識、専門的とは行かないまでも相場観的なものを養っておく必要はあるだろう。高校数学まで理解できればだいたい何とかなる。その辺を踏まえて常識的に考えれば大きく道を踏み外さずに済むのではないか。
 そう期待しています。


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