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読書感想メモ 『弟の夫』『アルジャーノンに花束を』

『弟の夫』

ずっと気になっていて、でもなかなか手が出せずにいた漫画がLINEマンガで全話公開されていたので読んでみた。

月並みな感想ではあるが、考えさせられる漫画だ。しかし、その一方で説教臭さのようなものは皆無で、シンプルにハートフルな交流の物語としてもちゃんと面白い。

LGBTQに対する社会の不理解が問題視され始めてずいぶん経つが、ここ数年でますます急加速したような気がする。自分はそんな社会で暮らす若者だから、そういったマイノリティに対する差別を良くないと思う感情は半ば当然のごとく持ち合わせているのだけど、この漫画を読んで自分は本当に差別をしていないのか自信が持てなくなってきた。

作中、主人公はゲイである弟や“弟の夫”であるマイクのことを“受け入れ”てはいるものの、どうしても“気になってしまう”自分に気付き自己嫌悪に陥るのだが、これって結構あるあるだよなと思ってしまった。しかもLGBTQに限った話でもない。

僕も「差別は悪だ」という価値観の社会で育っているから、「差別は良くないことだし、自分は差別なんてしない」と自信満々に言ってしまうと思う。でも、いざ身近にいたらどうしても本音では“気になって”しまうんだろうな。

それを明確に「差別」と取るべきなのかはわからないけど、少なくともマジョリティの人たちに対してはそんなこと気にもしないのは確かだし、そういう意味では自分は「平等」な人間ではないのかもしれないことを気付かされた。

『アルジャーノンに花束を』

この手の普及の名作って、いろんなところで話題になり、引用され、オマージュされているから、ついつい読んだ気になってしまう。これはいけないと思って手にとってみた。実際読んでみて、やっぱり面白い。

正直なところ、最初は少々不安だった。というのも、本作は終始、実験台である主人公が綴る「経過報告」という体裁で書かれているのだが、序盤の主人公は白痴(当時の言葉)で、簡単な言葉を並べるのさえ精一杯な状態を表現していたために、ぱっと見ではかなり読みづらそうな文章だったからだ。

しかしそこをぐっと堪えて読んでみると、一気に引き込まれた。最初は読みにくいのではないかと思った序盤も、知能に障害を抱え、自分が“普通”ではないことを様々な場面で突きつけられ、「“普通”になりたい」と切実に願いながらも純粋に、懸命に生きる主人公の心の叫びのようなものが、辿々しくも巧みに表現されている。

そして特に面白かったのが終盤だ。もうほとんど古典だからネタバレしちゃうと、主人公が得た高い知能は永続せず、急速に退行してしまうことが終盤で明らかになる。一時はありとあらゆる学問についてトップクラスの知識を保有するほどの“大天才”となった主人公が、徐々に儘ならなくなる自らの運命に苛立ち、絶望し、もがく様子が鬼気迫る文章で描かれていく。そして知能の退行が進むにつれて文章が次第に辿々しくなり、遂には開始当初の状態に戻ってゆくのだが、その過程はノンストップで読み終えてしまった。

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