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【未邦訳小説】『STAR WARS: Rebel Rising』感想

2016年に公開されたスター・ウォーズ初の実写スピンオフ映画『ローグ・ワン』。その前日譚であるドラマ『キャシアン・アンドー』が大絶賛のままシーズン1最終回を迎えたこともあって、6年ぶりに再び注目が集まっている。
そしてそんな中、『ローグ・ワン』関連作品といえばこれを忘れちゃいけないぜとばかりに名前が上がってきたのがこの小説『Rebel Rising』(著:Beth Revis)だ。

これは『ローグ・ワン』冒頭で幼いジン・アーソが両親を失ってソウ・ゲレラに保護される場面から始まり、時が経って収監されていた刑務所から反乱同盟軍に助け出される場面に至るまでの、映画では描かれなかった期間を余すことなく描いてくれる補完ストーリーである。
ただでさえ未邦訳なのに加え、新品の状態ではほぼ市場に流通しておらず日本ではKindle版すら買えないという、端的に言ってほぼ入手不可能に近い代物なのだが、スター・ウォーズファン、特に『ローグ・ワン』や『キャシアン・アンドー』が好きな人は多少無理をしてでも手に入れて読むべき一冊だと思う。(ちなみにオーディオブックは割と簡単に買える。なんでオーディオブックだけあるんだよ。)
未邦訳作品だがヤングアダルト小説なので、英語のレベルに関しては他と比べるとかなり低い方だからそこは安心していい。

Rebelion is built on hope.

映画『ローグ・ワン』のテーマを象徴する印象的なセリフだ。このセリフが表す通り、この映画の中では “hope” (希望)を託し託され、最後には「新たなる希望」に受け継がれる直前で物語は幕を閉じる。
そんな『ローグ・ワン』の前日譚的な位置付けにある本作では何が描かれるのか、お察しの通り、ジンが着々と「希望」を失ってゆき、映画開始時点での無気力感と不信感に覆われた姿になってゆくまでの詳細な過程である。

目の前で母を殺され、父は敵方につき、保護者となってくれたソウ・ゲレラにも任務中のトラブルによって見捨てられ、そして独りになったジンが出会った新しい “家族” も戦争に巻き込まれて死に、とうとう全てを喪い気力も失なったジンは、ファミーネームどころかファーストネームすらも捨てて「リアナ・ハリク」として収監されることを受け入れてしまう。
ここに至るまでのジンの心の動きが本当に詳細で丁寧で、特に中盤から終盤にかけてはジンに感情移入し過ぎて読むのが辛いほどだった。そしてこれを踏まえることで、しばしば退屈だと言われがちな『ローグ・ワン』前半部分におけるジンの動向に大きく深みが増してくる。なぜジンは反乱軍に対して非協力的だったのか、なぜ父親やソウに会うことを拒んでいたのか、これを読めば全てが腑に落ちると思う。

また、『ローグ・ワン』やアニメ『反乱者たち』で断片的に語られた、反乱同盟本隊がドン引きする過激派ソウ・ゲレラの姿をたっぷり堪能できるのもいい。
特に印象的に描かれるのが、Inusagiという惑星で開かれたsakoola blossom festival(サクーラを見る会?)の爆破テロだ。現地の住民にとって大切な意味を持ったお祭りを、反乱という大義名分で無慈悲にぶち壊して大勢の犠牲を出すソウたちの姿は、文章越しながらあまりにも恐ろしい。また、このエピソード内では反乱同盟軍のシンボルにもなったスターバードの伝承が語られたり(しかもそこにはスターダスト(星屑)も絡んでくる)と、短いながらもシリーズ全体に関わる重要エピソードだ。

そして何より、このタイミングだと、ドラマ『キャシアン・アンドー』とのリンクを見出すのも楽しい。

ディズニー買収以後のスター・ウォーズでは、様々なキャラクターや作品同士で、どうやら意図的と思われる対比構造がしょっちゅう見られる。一番の代表例はシークエル・トリロジーにおけるレイとカイロ・レンで、それにちなんで一部のファンの間ではこれらの対比構造全般が「ダイアド」と呼ばれている。
そしてドラマ『キャシアン・アンドー』ひいては主人公キャシアンとダイアドの関係になっていると見られているのが、この『Rebel Rising』とその主人公ジンだ。

2人はどちらも本来の故郷や実の親を失っており、養父母は熱心な「自由の戦士」なところとか、本人は帝国にも反乱にも嫌気がさして背を向けてしまったところとか、偽名で帝国の刑務所に収監されているときの様子とか、意識して見てみると、両作品は驚くほど構造が対比されている様子が感じられる。
そして、こんなに対比的な道筋を歩んできたジンとキャシアンが、『ローグ・ワン』のラストでは共に同じ思いを共有して2人見つめ合いながら命を落とすのだ。この文脈が一つ追加されるだけで、あの映画に対する見方も大きく変わってくる。これこそスピンオフの魅力である。

冒頭にも書いたが、これはガチのマジで入手困難な代物だ。本来$9.99のはずのペーパーバック版を、結局なんだかんだで送料込み$31くらいで買う羽目になった。しかし、読み終わった今だからこそ断言するが、それだけの価値は十分にあった。みんなも、まだ辛うじて手に入るうちに急いでゲットして欲しい。

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