「WWⅢを起こさせない」という米統合参謀本部議長の仕事―――フォーリン・アフェアーズのインタビューより

1 はじめに
  「アメリカ合衆国の制服組トップである統合参謀本部議長(Chairman of Joint Chiefs of Staff)が果たすべき役割のうち、最も大事なものは何か。」―――その一端が垣間見えたインタビューがYouTubeに投稿されたことから、その主旨に私見を交えて紹介する。

2 米統合参謀本部議長の仕事
  本インタビューでも述べられているように、米統合参謀本部議長は、「大統領のアドバイザー」である。そのアドバイサーの仕事を少し掘り下げて言うと、「安全保障に関わる問題において、大統領にその解決のための軍事オプションを提示する」ことであるが、おそらく実際は、オプション提示に加えて最良のオプションをリコメンド(提示)し、それを執行する(確実に成功させるよう監督指導する)ことまで含まれている。
  今回のインタビューは、「大国間戦争を如何に回避するか」と題されている。しかし、その内容を聴いた上で御題に戻ると、本稿の表題にした「第3次世界大戦(WWⅢ)を起こさせないために、統参議長として何をしているか」の方がインタビュー内容に適合しているように思う。第1次大戦・第2次大戦の歴史の文脈で現在・将来の世界と米国を捉えた視点からミリー大将は受け答えをしており、何より統参議長が核戦力を含めて世界最大の軍事能力を有する米軍をつかさどる立場にあることを考えれば、その軍事力を第3次世界大戦を起こさせないために使用している/能力開発をしている、との言い方は、米統参議長の仕事を簡潔に表現したものと言える。無論、米国の国益を守ることがその前提にある。

3 第3次世界大戦を起こさせないために取り組んでいること
  インタビューはウクライナ戦争と台湾有事に関するやり取りであるが、その内容を踏まえると、ミリー統参議長の頭の中は、以下のように整理されているのではないかと考える。

   大国:米国、中国、ロシア
   第3次世界大戦の契機になり得る問題:ウクライナ戦争、台湾有事
   ウクライナ戦争の処し方:ウ・露2国間戦争に局限した形(エスカレーションさせない形、特に大国を直接介入させない形)での戦争終結
   台湾関連情勢の対処方針:抑止(「武力統一を試みたら、代償が成果を上回る」と中国に思わせるようにすること。)
   上記を踏まえ取り組んでいること:①各種の動きを注視し処する、特に中露の対米軍事共闘化に至る動きをけん制する。②最適化された軍事力を整備する(勝つのは困難と思わせる部隊を造成・強化する)。

  ①は、対象国のハイブリッド戦等を含む軍事活動に係る異変を早期に察知・対応(軍事的又は外交的に対応)することで対象国の試みの初動をけん制する、ということであると思われる。ウクライナ戦争においても実践されているもので、約2年前に米シンクタンクCSBA(Center for Strategic & Budgetary Assessment)が発表した「行動察知による抑止(Implementing Deterrence by Detection)」は、米軍や同盟国が行う「けん制」の仕方等を示したものと捉えて良いだろう。
  ②の「軍事力の最適化」は、次の戦争を起こさせない(次の戦争に勝つための)軍事戦略を策定し、軍事力を整備する仕事を担う者の使命である。具体的には、現在から将来にわたり対象国に対し優勢を保つため、陸・海(海上・海中)・空・宇宙・サイバー等の複合的な戦闘領域(ドメイン)において、ロボティクス(無人兵器)・AI・長射程精密誘導等の技術を駆使し、多岐にわたり得るエリア・機能を最適化した能力・部隊(マルチドメイン・フォース)を整備する、とのことがミリー大将から述べられた。

4 おわりに(雑感)
  第1次世界大戦のような戦争を防ぐために国際連盟が組織され、第2次世界大戦のような事態の再発を防ぐために国際連合が組織された。国連のみならず様々な主体・リーダーが世界大戦の再発の予防に関わっているが、第2次世界大戦以降、実質的に米国中心の大戦封じ込め態勢が継続している実態を踏まえると、米統参議長が大戦再発予防において果たしている役割の大きさ、そのスケールの大きさをあらためて実感する。
  他方、上記①、②の仕事いずれにおいても、統参議長の立場はマネジメントであり、彼の部下である多くの実務者・中間管理者がそれぞれの機能・立場において企画・立案や、実行等の実務を行う。例えば、昨年2月下旬にウクライナ戦争が勃発した時、米国の紛争対処方針は数か月前に大統領の口から述べられたが、そこに至る、少なくとも大統領発言の数か月前に、その方針は起案され、議論され、決定していたのであろうし、ウクライナ正面以外の正面で当該紛争が波及等しないよう処されていることを踏まえると、大戦再発予防態勢が組織として機能していることもあらためて実感する。
  そういった雑感までに留めて、初稿を終える。

【引用】
l  The Foreign Affairs Interview, ”General Mark Milley: How to Avoid a Great-Power War(マーク・ミリー大将:大国間戦争を如何に回避するか)”

上記インタビューの文字起こし(Transcript)---フォーリン・アフェアーズのホームページより
https://www.foreignaffairs.com/podcasts/how-to-avoid-great-power-war-mark-milley

l  Thomas G. Mahnken, Travis Sharp, Chris Bassler, Bryan W. Durkee, “STUDIES: Implementing Deterrence by Detection: Innovative Capabilities, Processes, and Organizations for Situational Awareness in the Indo-Pacific Region,” July 14, 2021;
https://csbaonline.org/uploads/documents/CSBA8269_(Implementing_Deterrence_By_Detection)_FINAL_web.pdf


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