僕は自由診療に向いていない。

医学部に入る前は医者って金持ちになれると信じてやまなかった。
大学入学後の病院実習や実際に医者になっていった先輩から給料の話を何度か聞いているうちに、”医者って超お金持ちというよりは小金持ち”なんだと気づいてしまった。
大学入学前は5000万円くらいみんな稼いでいると持っていた。
おそらくそんなに稼いでいるのは開業医くらいなのだろうか。
普通の保険診療の医者たちは1000−2000万円くらいだとおもう。(僕調べ)
実際に初期研修医になってみて、もし1000万円以上も給料があったら困ることなんてそうそうない、ということは体感できた。

僕が勤務医に対して不満をおもうことは待遇面ではなかった。
不満を上げるなら忙しさと残業代だ。

勤務医なんて忙しすぎる!

初期研修医の頃、まあまあ救急車が来るような病院で働いていたのだが、その時の後期研修医以降の先生が忙しそうすぎるように見えた。9割以上の先生が定時帰宅なんてできず平気で2−3時間以上は病院に居残りしていた。
僕にそんな生活ができるのか?と不安だった。

申請できない時間外

僕が研修医の時いた病院では時間外申請ができて時間外手当も支給されておりこれいが給料の半分を占めており非常に重要だった。
でも実際の時間外の全てを手当として支給されなかった。
”○時間までしか時間外は申請できない”というルールがあった。
これは研修医だけではなく病院全体の医者に課されたルールだった。
おそらく労働基準法的な話なのだが僕はこの感覚に全く理解できなかった。
働いた分をきちんと貰えるなら、別に働いてもいい。というような感覚だったが、月に○時間の時間外を越えるとそれ以降の残業はタダ働きになるという状況がすごく嫌だった。

自由診療って楽そうだし給料良いって最高!

大学の同期に美容外科に進んだ人が数人いた。どうやら1年目から2000万は楽に越えるらしい。それに、当直業務などもないとおもうので体力的には一般的な勤務医よりは易しい傾向が強いとおもう。(現状を詳しく知っているわけではない。僕調べ。)
冷静に、考えてみると。こんなに美味しい仕事他にあるだろうか!って感じで大半の医者が美容外科や脱毛の問診など自由診療に流れるような気がする。でも実際はそうではなく現在もマジョリティーは保険診療の勤務医だ。

なぜ後期研修医に進むのが当たり前なのか

僕の研修医の同期も僕を除く100%が後期研修医に進んで〇〇科というのを名乗るような進路に進んだ。
なぜだろうか。
なぜ忙しい、タダ働きの時間もある、そんな進路を選ぶのだろうか。

僕は勝手にこう思ってた。
・レールから外れるのを極端に怖がっている。(まず外れるという選択肢が頭に全くない。)
・純粋に○○科医になりたい。(プロ野球選手になりたいみたいなのと同じ感覚)
・みんながこうしているから、私もこう。
だいたいこの3つなのかなと思っていた。

実際自由診療でバイトをしてみて思ったこと

よく言われているが自由診療はやはり医療よりも商売の側面が強い。
脱毛や二重整形、包茎治療の問診や性病治療の自由診療をしてみて思ったが、少しでも適応がありそうで医学的に問題がなければ少しでも値段が高いものを薦めるのが当たり前だ。
完全な詐欺は全くしていないし間違ったことも言っていないとおもう。
でも、僕はこの商売気質な感覚に完全にハマりきれていない。
インセンティブという概念があり、これは医者だけではなくそのほかの相談員やカウンセラーにもインセンティブがあるためみんな、すこしでも高い商品を買ってもらうように必死だ。問診医の発言が重要である、とカウンセラーから「もっとこういう発言を意識的に言いましょう」など修正されたことも何度もある。
一応、僕もそれに従ってカウンセラーが言ってほしいことを自分なりに取捨選択して発言していたが、毎回自由診療のバイトから帰路に着く時虚しさを感じるのだ。

何となく虚しいのだ。
インセンティブなしでも僕には十分なくらいの時給が発生しているので僕は正直インセンティブに全く目がくらまない。
でも、客になるべくお金を使わせるように加担した自分が虚しくなるのだ。
罪悪感は全くない。何となく虚しい。

多分ここで何も感じず、やりがいを感じられる人が自由診療に向いている人だとおもう。
あと、自由診療のクリニックのスタッフは勝ち気な人が多いと思った。
ゴリゴリの営業マン気質の人が多い。
あまり、自由診療で他の医師と遭遇することはないが、多分自由診療に向いている人も勝ち気な人が多いように予想できる。

立派なことをしているのは保険診療という風潮

おそらく世間的にも保険診療の勤務医は病気の人を治して立派だ、という風潮が強いとおもう。自由診療もQOLやなりたい自分を叶えてあげるという意味で立派な仕事なのは間違いないが、世間的には立派度具合で言えば保険診療に軍配が上がるのが今の風潮だろう。

自由診療でバイトをしてみて、僕には保険診療で忙しく働く方が向いているんじゃないかと思ってきた。
受診したくてきた患者の満足度に応える自由診療より、本当は来たくないけど来た病気の人を勝手に診察して勉強したことを披露する保険診療の方が何となくやってる側の満足度は高い気がした。

それが世間体を気にする僕の性格によるものなのかはまだわからないが。
やはり来年度からは後期研修医に進んでマジョリティー側の勤務医になりたい。
労働時間を搾取される側になることは分かりきっているが、僕は勤務医になりたい。

バイト医をしていると浪人時代を思い出す。

僕は大学受験の際に1年間浪人した。
高校を卒業して周りのみんなが大学生になっている中、予備校に通って1年間勉強する浪人時代は自分が何者なのかわからなくて社会的な孤独をものすごく感じたのを覚えている。大学生になった同期は学生証を持っていて学割を使っているが僕がいつも学割や身分証として使っていたのは予備校の生徒証だった。
それがものすごく虚しかったのを覚えている。

予備校はだいたい繁華街に多い。僕も繁華街にある予備校に通っていたが登下校や昼休みに外を歩くと、サラリーマンや学生風の人など何者かわかる人とすれ違うと虚しい気持ちになっていた。
今、バイト終わりに繁華街を歩いているとその時と同じような感覚に陥っている。

何となく虚しい。多分、すれ違う人より時給はいい。でもものすごく虚しい。仕事の充実感が全くない。

多分、浪人時代と状況が似ていることがそうさせるのだとはおもう。
周りが後期研修医になって僕はバイト医。来年から後期研修医になろうとしている、ある意味後期研修1浪。

周りと違う進路を進むというのは、誰しも孤独感を感じるのだろうか。

この1年間で、はみ出しものは終わり!

この1年間、孤独感を受け入れて最大限にフラフラした生き方を堪能した後は、真面目に働きたい。初期研修医時代に感じていた勤務医への待遇の不満も、昔よりは受け入れながら働くことができるとおもう。

僕もみんなと同じように、待遇に不満を漏らし合いながら渋々やりがいのある仕事に取り組みたい。で、たまにくる休日を楽しむことに精を出したい。

とりあえず残り10ヶ月、バイトをしながらフラフラして海外に行きまくって”真面目に常勤医として働きたい欲ゲージ”を溜めたい。




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