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NFT活用においてフランチャイザーが本当に検討すべきこと

NFTの登場時から触ってきた身として、毎日のように多くの事業主体からの相談が舞い込んでくる。

その中で、日本でいうところのいわゆるIPホルダー、それだとBabyMetalやPerfumeの例はどうなってしまうんだという話と海外ではIPと言われても全くピンと来ない方が多いので、ここではフランチャイザーという呼び方をするが、そういった方々の興味はどのプラットフォーム(ブロックチェーンやマーケット・プレイス)を選定するかという点に膠着してしまっているように感じている。

その動きに呼応するかたちで、プラットフォーマー側もやれビジネス条件だだの環境負荷がどうのだののマーケティングで、フランチャイザーの囲い込みに必死なわけであるが、どんどん、ブロックチェーンやNFTというもののオープン性や保有者の自由というコンセプトから外れていっているようにも感じる。

ローカルのターミナルでスクリプトを走らせてNFTをミントしたら、即時にOpenSea上で売買可能になっていることに感動したという経験を忘れた、あるいは知りもしない関係者が増えたのだろう。

さて一方のブロックチェーン自体のトレンドは、Kusamaパラチェーンオークションに象徴的なように、チェーン間の相互運用性やアセットのポータビリティに完全に移行しつつあると見てよいのではないだろうか。

何よりも、早晩来るであろう、Ethereumの2.0への統合という王の帰還が控えている中で、プラットフォームの選定に頭を悩ますことは愚の骨頂にしか見えない。

フランチャイザー側が本当に検討すべき点は、プラットフォームが乱立する中でのアセットのポータビリティのあり方ではないかと思う。

その観点で個人的に早急に整理すべき点は以下の2つだと考えている。

A. Polygonのブリッジのように異なるチェーン間でNFTが(概念上)移動した際にフランチャイズのライセンスの取り扱いはどうなるのか?あるいはどう取り扱うべきか?

B. Aの論点を含め、ノンファンジブルであるが故の紛争の事後解決可能性にどのように取り組むべきか?

Aに関して、現状知る限り、フランチャイザーとプラットフォーム間の契約は極めて大雑把なものであり、ブロックチェーンを跨いだ概念上の移動や他のスマートコントラクトでwrapされた場合の取り扱いは定義されていないことが大半なのではないかと思う。

一方で、PolygonのPoS Bridgeに代表されるようにブロックチェーンを跨いだ移動は今そこにある現実である。

ちなみに、移動とは言っても、実際には移動元のチェーンの特定のスマートコントラクトにNFTがロックされ、移動先で対応する新たなNFTがミントされるという方法となる。移動といいながら、移動元のNFTの存在がなくなるわけではないため、実際にはコピーというかたちに近い

PolygonはToken Mapperというかたちで、アセットがロックされるトークンのアドレスと名称を公開している。このリストをアプリケーション側でブラックリスト的に用い移動元のNFTを実際にはなきものとして取り扱うことで、移動という概念を実現することは可能だ。

このような対応を行わない場合、移動元のチェーンの特定のスマートコントラクトのアドレスが多数のNFTの保有者となるという現象が起きるわけであるが、アプリケーションの設計によっては致命的な問題を引き起こしかねない今そこにある危機となっている。

端的に言うと、フランチャイザー側から見るとブロックチェーンを跨いだ概念的な移動が発生した場合の移動前のNFTと移動後のNFTのライセンスの取り扱いのビジネス上とアプリケーション上、どちらともの取り決めが必要となるという話だ。

逆に言うとその点のみを明確に定義しておけば(アプリケーションに関しては実務上はイタチごっこになると思われるが)、プラットフォームの選定はどうでもいいことではないだろうか。よほど、継続性やコンセンサス・アルゴリズムのセキュリティに問題のあるチェーンでない限り、足下のビジネスのやり安さやコスト、環境負荷の点あたりだけの比較で選定すればいいだけの話ではないだろうか。

Bに関して、個人的にあまり議論にならないことが不思議でならないのだが、その名の通り、NFTはノンファンジブルなので、ブロックチェーン上で履歴を完全に捕捉することが可能だ。

例えば、何らかのかたちでNFTが盗難にあった場合、そのNFTは盗品であるということを半永久的にマーキングすることが可能なのである。これはファンジブルなトークン、例えば、BTCやETHと比べると決定的な違いである。

過激なブロックチェーン信奉者であれば、盗まれたことは持ち主の自己責任であって盗まれたNFTこそを本来のNFTとして取り扱うべきと主張するのであろうが、常識的なビジネスの考え方としては、柔軟に事後解決できる可能性としてしか見えない。

要は盗まれたと十分に証明可能なNFTはサービス上無効(注1)とし、盗難被害を受けた元々の保有者に同じメタデータのNFTを再発行することが可能(注2)という話である。

例えば、日々舞い込んでくる相談の中にはセキュリティを異常に気にするものも多いが、現状の枯れたブロックチェーン利用の中で最大のセキュリティリスクはエンドユーザの瑕疵であり、提供者側からはコントロールできないものであるため、事後的な解決が可能であるならば、事前のセキュリティ検証に異常なまでの心血を注ぐことは無意味だ。

そのような構造は何もブロックチェーンに限ったことではなく、人類史上、契約に基づいた役務提供が発生した段階から存在するもので、直近のインターネットのパラダイムにおいては、例えば、ユーザーがパスワードを忘れた場合は再設定するというような救済が用意されている。サービス提供者側の瑕疵の場合も同様だ。

大切な点としては、このような観点での議論や取り決めは今後本市場でのビジネスがどのように展開したとしても無駄にはならないということだ。

一方で、事後解決が可能なことが周知された場合、例え利用者の瑕疵による権利喪失であっても、利用者による集団訴訟などの経済的な損失の可能性もあり得る。いくらNFTプラットフォーム側に押し付けるかたちでビジネス上は免責したとしても、フランチャイズの人気が高ければ高いほど、それを失うレピュテーションリスクは免れ得ないだろう。

漫画、アニメ、ゲーム、そして音楽アーティストなどのフランチャイズを擁する日本の事業者も近視眼に陥らず、(せっかく優位に交渉に立てる虎の子があるわけなので)主体性を持って大所高所に立った市場整備を目指してほしいと切に願うところだ。

(注1)提供者側からの権限でNFT自体を取り上げたり、消滅させたりすることを可能とする実装をスマートコントラクトに施すことも可能ではあるが、過激なブロックチェーン信奉者から猛反発を食らうと思われる。

(注2)盗まれたものと知らされる前に第三者に高額で転売される可能性もあるものの、その場合の法的な取り扱いも通常の法体系に準ずるものとすればよいと思われるが、サービス規約にて準拠法や紛争解決の手段について定義しておく必要はあると思われる。

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