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経営における知の重要性

企業における研究マネジメントの考察(4)
企業における研究部門のマネジメントについて考えたことを整理しています。

経営理論で「知」の重要性は、よく指摘されています。そこで、今回は経営理論を簡単に紹介したいと思います。

SECIモデル

1990年代に出版された野中郁次郎の「知識創造企業」では、知を「上手く言葉にできない」暗黙知と「文字や数字で表せる」形式知に分類し、共同化(Socialization:暗黙知→暗黙知)・表出化(Externalization:暗黙知→形式知)・連結化(Conbination:形式知→形式知)・内面化(Internalization:形式知→暗黙知)という4つのプロセス(いわゆるSECIモデル)を循環させることが、企業の競争優位を築いているとしました。この理論は、高度成長期の日本企業の強さを説明する理論として米国で高い評価を得ることに成功しました。

SECIモデル

世界標準の経営理論」(入山章栄著,2019)に、SECIモデルがまとめられているので、外観したいと思います。

共同化
共同化は、”個人が他者との直接対面による共感や、環境との相互作用を通じて暗黙知を獲得する”プロセスです。職人の弟子が師匠の技術を見て盗むような”身体を使った共同体験”や、信条・信念・思考法・直感・思考の感覚などの認知的な暗黙知を共有するた”共感”や”対話”によって、暗黙知を暗黙知として人から人へ伝えます。

表出化
表出化は、”個人間の暗黙知を対話・思索・メタファーなどを通して、概念や図像、仮説などを作り、集団の形式知に変換する”プロセスです。言語化されていない暗黙知を、それに近い比喩(メタファー)や類似(アナロジー)で代替してイメージを共有したり、「Aは、Bなのではないか?」という「ハッとした気づき、閃き」によるアブダクションで仮設化したり、デザイン思考で暗黙知を図像化することで、形式知化します。

連結化
連結化は、”集団レベルの形式知を組み合わせて、物語や理論に体系化する”プロセスです。会社では、マニュアルや設計書、計画書と言った形で体系化されます。しかし、会社の信条、方向性、戦略のような「認知的な暗黙知」の形式知は、文章などでは伝わりにくく、ナラティブが必要になります。

内面化
内面化は、”組織レベルの形式知を実践し、成果として新たな価値を生み出すとともに、新たな暗黙知として個人・集団・組織レベルのノウハウとして「体得」する”プロセスです。連結化された形式知をもとに行動し、それを反復することで、個人・集団・組織が新たな暗黙知を獲得していきます。

両利きの経営

世界標準の経営理論」(入山章栄著,2019)によれば、企業は「知の探索(exploration)」と「知の深化(exploitation)」を同時に行う「両利きの経営(ambidextrous management)」を行うべきだといいます。この理論自体は、ジェームズ・マーチによる組織学習の研究(1991)の中で言及されたものです。

組織学習の循環プロセス
同書によれば、組織学習の研究では、組織・人・ツールが認知外をサーチし、経験によって知を獲得し、その知を組織の中に記憶・保存するという循環プロセスを前提にしているそうです。経験から知を獲得する主なルートは、知の創造:経験を通じて新しく知を生み出す(新結合やSECIモデルが相当)、知の移転:外部から知を手に入れる(技術提携や合弁会社など)、代理経験:他者の経験から学ぶ、という3つがあります。

組織学習の循環プロセス

知の探索と知の深化
知の探索・深化は、組織学習の循環プロセスのサブプロセス①「サーチ」を一般化した包括概念で、以下のような経営学者間でほぼ共通の定義があるそうです。

・”知の探索はこれから来るかもしれない「新しい知の追求」である。知の深化は「すでに知っていることの活用」である”
・”知の探索は、組織の現在の知の基盤(と技術)からの逸脱であり、知の深化は、組織にすでに存在している知の基盤に基づいたものに関連している”
(引用元:「世界標準の経営理論」入山章栄著 2019)

両利きの経営
両利きの経営とは、知の探索と知の深化の両方を追求する経営のことです。しかし、認知の外側を求める知の探索は、不確実性が高く、コストもかかるため、「短期的に不合理」「限定的に不合理」(コンピテンシー・トラップ)と考えられ、おざなりにされがちです。確実性が高い知の深化に傾斜すると、既存の目の前の知だけを組み合わせて新しい知を創造するため、中長期的には組み合わせが尽き、イノベーションが枯渇します。

近年、多くのメディアが「日本企業にイノベーションが足りない」と語る。もちろん表層的には様々な理由があるだろうが、世界標準の経営理論からみれば、その根底にあることは同じだ。すなわち「日本企業の多くが、コンピテンシー・トラップに陥っている」のである。(引用元:「世界標準の経営理論」入山章栄著 2019)

今、なぜ必要なのか?
日本における高度成長期のような時代は不確実性が低く、例えば、5年後に必要となる製品スペックは、現在の製品スペックから予測できました。そのため、5年後に予測されたスペックを実現できるように、より良い材料部品や製造プロセスの工夫といった「知の深化」で十分対応することができました。

しかし、現代のように不確実性が高くなると、製品ライフサイクルの短命化し、既存製品の延長線上だけでは戦えなくなってきます。そのため、常に新しい製品や事業の可能性を模索し続ける、すなわち「知の探索」が必要に迫られています。

終わりに

今回は、知に関する経営理論として、SECIモデルと両利きの経営を概観しました。

組織学習の循環モデルを参考にすると、研究部門は、知の探索・知の創造・組織への保存を担う部門ということができると思います。

SECIモデルでは、組織の認知の外側から形式知を取り込み、既存の知と連結化し、組織に内面化することが研究部門の活動と言えると思います。なぜなら、知の探索によって得られる組織外の認知外の知の多くは、表出化された形式知として存在しているためです。組織内の認知外の知であれば、共同化によって獲得することができるかもしれません。

SECIモデルと研究部門の役割


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