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母親の不調⑲ ~抗がん剤治療という選択

母親の癌がわかってから、朝起きるのがとてもつらいです。
母親が癌であることを毎朝起きるたびに思い出して、
やっぱり現実のことだった、と気づくのが辛いのです。
このまま目を覚ましたくない、と本当に思います。

がんを告知された日に、N先生から
抗がん剤治療か緩和ケアの2つの選択肢があると言われ、
「抗がん剤治療でお願いします」と答えたのは母親でした。

この半年以上、良くなりたい、元気に戻りたい、という一心で
いろいろな病院をめぐり、
原因は逆流性食道炎だ、いや違う胸水だ、本当は心臓だ、というように、
今度こそ良くなると期待しては裏切られ、
また期待しては裏切られ続けてきた母親でした。
アブレーションの術後、もう少し安定したら元気に戻れる、と
楽しみにしていた母親に、
緩やかに死を待つという緩和ケアという選択肢がなかったのは、
よく理解できたので、私も同意しました。

ただ、母親が抗がん剤治療をすると伝えた私の周りの反応は
少し違いました。

「緩和ケアは考えなかったの?」

と立て続けに尋ねられたのです。

世間一般では、こういう状態での抗がん剤治療は
納得しづらい選択なのでしょうか。

効果が出るかどうかわからない辛い治療をして、
多少の延命をするくらいなら
穏やかに人間らしい暮らしをしたほうが良いのでは?
と言った友人もいました。
抗がん剤治療の副作用により、今よりも衰弱して、
生活の質が落ちるかもしれないという指摘もありました。

確かに言われることは最もだと思います。
あれだけ体力の落ちた母親に、
辛い治療を耐えられるのか、不安しかありません。
副作用で、日常生活ができないほど弱ってしまうかもしれません。

ただ、人間らしい暮らしとは何なのか、とも思います。
食欲がなくて、食べたいものもなく、
話すと咳が出てしんどいので、人とあったり電話することも極力控えて、
いまだに自己中な父親の機嫌を24時間うかがって気を使いながら
息苦しくて、しんどくて、ほとんど寝ている状態で、
寿命が尽きるのを待つ、というのが
果たして人間らしい暮らしと言えるのか。

少しでも良くなるために、残された希望にすがりたい
と思ってしまうのは、浅はかなのでしょうか。

友人から、抗がん剤の治療薬や、病院についても
もっと調べて情報を得たほうが良い、とも言われました。
「がん遺伝子検査」などの情報ももらいました。
ただ、この何か月か、母親の症状について、
暇があればひたすら調べ続けましたが、
レントゲンやCT検査でも見つからなかった病気が
私の検索で発見できるわけもなく、結局後悔しか残りませんでした。 

がん遺伝子検査は、受診できる病院が1か所しかなく、
検査結果がでるまでに1か月以上要するそうです。
受診までの期間、結果が出るまでの期間だけでなく、
また母親を連れまわして、検査をさせるということが
良い選択だとも思えません。

結局、周りからがん治療に対する情報をもらっても、
物理的、経済的にできないことが多く、
知れば知るほど、それをできないことに対しての罪悪感しか生まれません。
なので、もう情報をシャットアウトして、
この選択が最善だった、と思うようにしました。

病院ではさんざん副作用のリスクを説明されましたが、
半日以上にわたる待機で倒れる寸前だった母親の耳には
全く届いておらず、
副作用についての理解は完全ではありませんでした。

気力が生まれるように、笑顔で治療に送り出したいところですが、
そんな甘いものではないだろうことは、私でも理解できるので、
母親には厳しい話もしました。
想定される副作用についてや、
その副作用によって今より衰弱するかもしれないこと、
辛い治療を4回続けなくてはいけないこと、
もしあまりにも辛かったら、途中でやめてもいいこと、
もしかしたら治療に体が耐えられず、
そのまま帰れないかもしれないこと、
など、言いたくないけれど、現実的な話もしました。

これからどうなるのか、全く予想ができません。
必死に気持ちを切り替えて落ち着くようにしていますが、
ふとしたことで気持ちが決壊してしまい、
急に号泣してしまうこともあります。
母親も不安だと思うので、私が支えられるように
しっかりしなくてはいけないのですが。
もっと強くなりたいです・・。



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