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『ちひろさん』〜“救われる”映画〜


Netflixオリジナル映画、『ちひろさん』をやっと観ました。
くるりが主題歌、という情報ぐらいしか知らなかったのですが、マンガが原作で、監督が『愛がなんだ』『街の上で』の今泉力哉監督だったんですね。


いや〜めちゃくちゃいい映画でした。

舞台は田舎のお弁当屋さん。
そこでバイトしているちひろさん(有村架純)は、元風俗嬢。
とある理由でこの街にやってきますが、そこで、街の色んな人と出会い、交流していく。。という映画です。


“救われる”映画

過去にいろいろあり、前提として自分のことを良い人間だと思っていないちひろさん。

ですが、一人っ子でいつも一人ぼっちの小学生マコト(嶋田鉄太)や、友達とも家族とも上手くいっていない女子高生オカジ(豊島花)の面倒を見ることで、いつしか周りから頼られる存在に。

自分が思うよりも周囲に良い影響を与えているちひろさんに、彼らは救われ、人生においてとても大きな存在になるのです。

いつのまにか周りの人間を救っていたちひろさん自身も、のこのこ弁当の人たちに救われています。

店主(平田満)や、店主の妻たえさん(風吹ジュン)が、訳ありの彼女を受け入れます。
そこには、更生させようとか、説教じみたことを言うとかはありません。
ただただ、それまでのちひろさんの全てを肯定しているのです。

たえさんが良かった。彼女の存在はちひろさんにとっては大きかったと思います。


そして何より、この映画を観た、過去に囚われ思い詰めている、「自分なんて良い人間じゃない」と思っている人たちが“救われる”映画になっていると思います。

ちひろさんも、たぶん過去にいろいろあり、家族や職場で上手くいかなかったりがありました。
それでも新たな土地で救われることが出来た。

今、特に人間関係などで思い悩んでいる人に向けて、
「合わなかったら辞めていいよ」
「自分が合う場所や、ハマるコミュニティは絶対に他に存在するよ」
という優しいメッセージが含まれた映画だなと思いました。

いや、ほんまに辞めていいんです。
たまたまそこが合わなかっただけ。自分のことを好きになってくれる人はこの世には必ずいますから。
すぐには出会えなくてもそう思うだけで気が楽になりますよ。

すんません、熱くなりました。


情報量の少なさ

「たぶん過去にいろいろあった」という言い方をしましたが、本当にそうなんです。
この映画は全てを描き切らない、語り切らないところがいいところだと思います。

『街の上で』とかでもそうでしたが、今泉監督特有の、この“語らなさ”が映画全体の魅力だと思いました。

ちひろさんは親とどういう関係だったとか、前の仕事で何があったかとか、マコトやオカジの家庭環境がなぜそうなったかとか、実態を全て描かない。
出てくる人間も全てを語らない。

でもこれこそが人間社会におけるリアルだと思うんですよね。

知らなくても、知らないからこそ接していく。
『ちひろさん』が生み出す人と人との距離感が、妙に現実味があって、ずっと心地よかったです。

そして、観客に余白を与えてくれることで、感じ方の幅を広げてくれる。
説教じみてないけど、しっかりと何かしらを伝えてくれる。
今泉監督の映画の真骨頂が出ていた気がします。



キャストは豊島花さんが良かった〜。
『大豆田とわ子と三人の元夫』の時の、口達者な娘役とはまた別人で、演技の幅がすごいなと思いました。

マコトの母親役の佐久間由衣さんも、最近の『最愛』や『初恋の悪魔』とかとは全然違うタイプでびっくりしました。

あと、今泉監督作品の常連、若葉竜也さんは今回もいい味出してました。



ということで映画の感想でした!

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