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『不適切にもほどがある!』~現代に向けたクドカンの叫び~


今期僕がハマっているドラマは、TBSで毎週金曜に放送されている『不適切にもほどがある!』です。

宮藤官九郎が脚本の地上波ドラマとしては、長瀬智也主演の『俺の家の話』以来3年ぶりの今作品。

彼の作品をすべて見ているわけではないですが、Netflix『離婚しようよ』や、映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』など、ここ最近の作品を観た人間からすると、クドカンは今まさにフレッシュな存在。楽しみだった久しぶりの地上波連続ドラマです。

第3話終了時点で思った感想や魅力を書いていきたいと思います。



あらすじ

1986年。中学の体育教師である小川市郎(阿部サダヲ)は、自身が顧問を務める野球部の練習終わり、ひょんなことから2024年にタイムスリップしてしまう。
昭和と令和を行き来する事で価値観の違いに触れながら、それぞれの時代で出会う人々と関係を深めていくという、コメディードラマ。


“SF”という設定で好き放題やる痛快さ

舞台となる1986年は、車内でタバコOK、体罰も当たり前、深夜にはエッチな番組と、令和の現代とはまるで違う価値観が当たり前だった時代で、原作者・宮藤官九郎自身の青春時代になっています。

なので、彼と同じ青春時代を送った同世代からすると、当時の音楽や芸能ネタにノスタルジーを感じさせられる、もうこの時点でめちゃくちゃ面白いドラマになっています。

同じように時間を行き来し、平成を回顧した『ブラッシュアップライフ』の昭和版とも言えると思います(ただ原作のバカリズムは1975年生まれで、登場人物と同世代でないことから、彼の脚本の特異性が際立つ)。

女性蔑視や暴力など、市郎や周りの人間が繰り出す言動は、今の地上波では、ありえない表現の連続です。

ただ、あくまで、2024年から1986年にタイムスリップをしたという設定を際立たせるための表現として用いられているので、「コンプラ違反だ」という意見を割って入れさせるスキを与えていません。
”SF”という設定を上手く使って好き放題しているのです。

ここに関しては、長年テレビドラマを作ってきたクドカンの遊び心を感じますし、『水曜日のダウンタウン』を作っている藤井健太郎のスタンスと通ずるものを感じます。

劇中に毎回表示される、「ドラマ内の表現は時代考証のため、、」という注意書きのテロップすらも、制作側の“悪ふざけ的ギミック”に繋がっていて、観る者を楽しませてくれる作りになっています。


クドカンの叫びを“ミュージカル”で包み込む

このドラマの最大の特徴にして、軸となるこだわりが“ミュージカル”です。
SFやミュージカルが入っている時点で離れる人は多そうな気もしますし、最初の方は、ただただコメディー感を強めるための装置として用いられているだけだと思っていました。

しかし、登場人物たちの主張を歌とダンスに乗せることで、エッジが効いている世間へのメッセージが若干マイルドになっている気がしました。

第1話はハラスメントか否かで思い悩む上司の叫び。
第2話は働くシングルマザーの環境改善。
第3話はテレビ業界のコンプライアンスについて。

それぞれの思いを、ただのセリフするのではなくミュージカルにすることで、面白おかしく、真面目過ぎる感じにしない、クドカンなりのコメディーを描く上でのマナーなのかなと察する事が出来ます。

それでもちゃんと聞けば、現代の世の中に対しての不満を全力で言っている。現代社会に向けてのクドカンの叫びが、思う存分入っているのです。

世間への不満をコメディーで届ける。
大げさに言えば、これは“クドカン流世直し”なのかなと思いました。

あと、このシーンのためにミュージカル俳優を起用しているのもお見事。
「この人あんまり見たことないけど歌ウマっ」と思って調べたらちゃんとミュージカル俳優でした。
バカバカしさに真剣に取り組んでいる、そんなこだわりも見どころの一つですね。


実力派揃いの俳優陣

毎度、実力派俳優が居並ぶクドカンドラマですが、中でも今回出世作になりえそうな活躍を見せているのが、市郎の娘・純子役の河合優実です。

全然知りませんでしたが、めちゃくちゃ良い役者さんですね。
メイクや髪型だけではなく、その醸し出る雰囲気が、まるで本当に昭和を生きているかのような人物に見えます。

ヤンキー高校生を演じながら、キヨシ(坂元愛登)を誘惑する大人のお姉さんも表現できますし、またホロっと泣かせる演技も出来てしまう。
これから仕事が増えそうな勢いを感じます。

他にも、阿部サダヲのおなじみのハチャメチャ具合に、吉田羊や仲里依紗のコメディエンヌっぷり、磯村勇斗の安心感など、実力派揃いの俳優陣がこのドラマを面白くしています。
毎回登場するゲストも楽しみですね。


おわりに

このドラマを通じてクドカンが発信するメッセージは、一見すると、「あの頃はよかった」「無茶苦茶だけど、これぐらいの気持ちで人と接するのがいい」と、昭和の良さのみにスポットライトを当てているような感じもしますが、ちゃんと令和の良さにも触れています。

市郎がスマホに夢中になるなど、テクノロジーの進化を中心にではありますが、便利になった社会が描かれています。

生きづらい世の中になったとしても、その現代を生きる人たちに、情熱的でピュアな市郎が触れ合っていく様を見て、「現代に生きる我々も捨てたもんじゃないな」と改めて考えさせてくれる仕上がりに、より今後なっていくのではないかなと思います。

また、時代が違えど「結局、人間って同じ」ということも感じさせてくれます。
人間の中で芽生える感情は、いつの時代も普遍だということを、市郎がタイムトラベルの中で体現してくれています。

昭和と令和。両方の時代の良い所・悪い所を描く事で、過去に思いを馳せながら、今を思う存分生きるんだというパワーをもらえるドラマです。



とか言いながら、何も考えずに気楽に笑えるドラマでもあると思います。

Tverでは最新話が無料配信。NetflixとU-NEXTでは全話観られるので、まだの人は是非ご覧ください。


それでは、また!


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