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退職雑記 愛知編

「人生で一番長く付き合うモノって、家具でも家でもなくて、実は食器なんよ」
ある古道具屋さんの言葉を、今でもときどき思い出す。

一人暮らしのワンルームの自宅に、イケアのグラスが2つある。

関西にイケアが初進出したころ。
大学1回生か2回生だった当時、部屋にはある程度の家具はそろっていたから、「安いけど買うもんねぇな」って友達と言いながら買ったのが、6個入りのグラスだった。他に何を買ったかは覚えていないけれど、荷物の量には不釣り合いな、あの青いバッグに入れて、バスと電車を乗り継いで帰ったと思う。

同じ学科だったその友人は、その年だったか、その次の年に亡くなった。

3個ずつ分けたはずのグラスが、なぜ2個になったのかは分からないが、とりあえず今もちゃんと残っている。

彼の故郷である愛知には、卒業後も何度か足を運んだ。けど最近は、10年の節目に、とか先送りしてたらコロナ禍になり、それが落ち着いてもなんだか気が向かず、というか少し気まずくて随分間が空いてしまった。退職したのを機に、なんか報告でもしなきゃなって気になり、緊張しながら電話をかけた。

2023年12月。再会を喜んでくれるお母さんの顔を見て、やっぱり来てよかったし、今度はあんまり遠くないうちに来たいなと思った。他の同級生も、折に触れ連絡を取ったり、墓参に訪れたりしているらしい。

話したことは、僕の退職の話を中心に、近況報告くらいだった。以前来たときは、もっと昔話をしていた気もする。いい変化だと思いたい。

5年ぶりくらいの再会だったと思うけど、今回も「いい報告ってしてもいいのかな?」という迷いがちょっとだけよぎった。
あいつも感じたかもしれない幸せを、その同級生が語るさまは、どう映るんだろう、とか考えてしまう。
幸い、ではないのだけど、今の僕には目に見えて明るいニュースってそんなにないので、小さな悩みで済んだのだ。

淡々と、時に自嘲も交えながら(本当に良くない)、近況報告をして、励まされ、名古屋メシをごちそうになり、お墓と仏壇に手を合わせた。

この十数年で考えが大きく変わったこともある。
写真を残してくれた同級生たちへの思いだ。彼はあまり、自分から写真に写るタイプではなかった。それでもと、何人かの同級生が当時、学科の中で写真を集めてアルバムを作った。僕も何枚かデータを送った気もするけど、正直、当時は、そんなものをこしらえて、息子を亡くした母親に贈るなんてグロテスクだとも思っていて、あまり気乗りしなかった覚えがある。

今回も実家にお邪魔した際に、そのアルバムを見せてもらった。ある意味恒例行事になっているのだが、やっぱり当時の違和感は思い出す。が、パラパラとめくると、何気ない大学生活を写した「写メ」がまとめられていて、なんともいえない気持ちになった。作ってくれた友人たちにも、それを残してくれているお母さんにも感謝した。

彼のサークルの友人たちが贈った品も、久しぶりに見た。それによると「俺のこと嫌いでしょ?」っていうのが酔っ払ったときの彼の口癖だったらしい。僕も言われたことあるなと思い出した。クソみたいな言葉だなぁ。

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