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執念と執着に「とらわれた」話

夏の朝。
中学生男子2人が、自転車で通り過ぎた。
夏休みに入って早々、朝から部活動かな。
暑いなか、お疲れさん。
と、ねぎらいの気持ちで見送ったが、
彼らが着ているTシャツに唖然。

彼らの背中には「執念」の文字が。
白地に黒の執念。
黒地に赤の執念。
しかも、毛筆でガシッと書かれた
かなりの気合を感じる「執念」である。

彼らが向かうであろう「●●部」には、
「執念」を背負った部員たちが集まる。
黒執念、赤執念、そして青執念。
カラフルな執念の集合体。

時にハードな練習に、いくつもの執念が崩れ落ちていく。
「青執念!まだできるぞ、立ち上がれ」
「もう僕はダメです…赤執念…あとは任せた」
「青執念~~~!」(黒執念が叫ぶ)

ああ、10代で執念を背負うって、ヘビーだわ…。

という妄想が広がったが、

そもそも「執念」ってなんだ?

しゅう‐ねん〔シフ‐〕【執念】
読み方:しゅうねん

ある一つのことを深く思いつめる心。執着してそこから動かない心。「—をもってやり遂げる」「—を燃やす」

デジタル大辞泉より


執念をもってやり遂げる。執念を燃やす。
と聞くと、部活動にもマッチするような気がする
あきらめるな、粘り強くいけ!という感じか。

ただ、ひとつのことを「深く思いつめる」心。
「執着して」そこから動かない心。
となると、ネガティブ色が強め。
何かにとらわれて、視野が狭くなっていくような感じ。

じゃ「執着」はどう?

なぜ「執念」にネガティブさを感じるのか。
「執」という文字は「執着」にも使われているからか。

しゅう‐ちゃく〔シフ‐〕【執着】

読み方:しゅうちゃく

[名](スル)《「しゅうじゃく」とも》一つのことに心をとらわれて、そこから離れられないこと。「金に—する」「—心」

デジタル大辞泉より

ひとつのことに心をとらわられて、そこから離れられない。
離れられないほど心を鷲づかみにされるって…
執着…恐るべし。
ネガティブパワーしか感じない。

え、執念と執着って何が違う?

でも「執念」の意には「執着してそこから動かない心」とある。
ん? 執念は執着した心も含まれるのか?
むむ~、複雑すぎるぜ、日本語。

もう少し整理してみる。

執念は、あきらめない意思を表現するときに使うのかもしれない。
例文を調べてみた。

彼らは敵の執念深さ気づいていなかった。
勝利への執念
あいつは執念深いから気をつけた方がいいよ。
執念深い憎悪.
その言葉を聞いて女の執念すさまじさ垣間見る思いがした.
この事業完成できたのはひとえに彼の執念のおかげだ.
彼はまむしのように執念深い
あれは執念深く女につきまとう男だ
幽霊の執念去らず
怨霊の執念恐るべし

Weblio日本語例文用例辞書より

例文のおどろおどろしさが半端ないが…。
良くも悪くも「あきらめない」がベースにある。

執着の例文も調べてみよう。

彼は年上の女病的に執着する.
人は生命に執着する
僕は是が非でも自説に執着するというわけではない
融通利かない(または執着する)保守的な
(特に文化宗教の点で)伝統に執着すること
40になってすら、彼は彼の母に執着する

Weblio日本語例文用例辞書より

こちらの例文の振り幅がすごい…
自分の意志も関係はしているが、
ひとつの物事から離れられない、どうしようもない状態を
表現するときに使われている。

執念は、良くも悪くも「あきらめない」という気持ち。
執着は、ひとつのことから離れられない状態。

というようなことか…。
何となく違うのは少しだけわかった…気がする。

執念と執着は、仲良しっぽい

あきらめない意思「執念」
心がとらわれて離れられない状態「執着」
その境目は紙一重な気もする。

あきらめたくないという気持ちを持ち続けると
「執着」が芽生えることもあるだろうし、

「これを手放したら生きていけない」という「執着」から
手放すことをあきらめない意思「執念」が生まれることもあるだろう。

朝であった学生さんの「執念」に違和感を感じたのは
ネガティブなイメージを私が勝手にいただいていたからだ。

でも、よく考えれば、「執念」も「執着」も
決してネガティブさだけを発しているわけではない。

美味しいごはんを食べることに執着しているし、
夢をあきらめたくないという執念もある。

執念も執着も、気持ちと使い方次第で
いい感じに作用してくれるのかもしれない。

言葉のイメージをどう受け取るかで
考え方も大きく変わる。

結論が、ゆるいのだが、
日本語って難しいけど楽しい。


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