拝啓、不器用で可愛すぎる父。
父と初めて居酒屋に行ったのは、私が高校二年生の時だった。
あの頃の私は、毎日死にたい、穴があったら隠れていたい。そんなことばかりを考えていた。
でも、それは頭が思っているだけで、実際にはそんなこと出来やしない。朝が来ると笑顔の仮面を被り、制服を着て電車に乗って、一人で朝練をし夕方は重い腰に鞭を打って部活に行った。
そして、家に帰ると誰にもバレないように風呂場で泣く。
そんなことを繰り返していたある日。暗い暗い私の元にメッセージが届いた。
「ピコン」
当時ガラケーだった私の携帯が、お昼休みに鳴った。
〝きうは、20:00に駅の北口集合。ままにはナイショたよ〟
父からのメールだった。
いつもは母のこと「まま」だなんて読んだことないのに、しかも誤字多すぎ。クスっときた。でもこのメールを、眼鏡をずらしながら一生懸命打っている父の姿が目に浮かび、少し胸が熱くなった。
20:00前。
私は、胸を踊らせながら改札の前で父が来るのを待った。
背広を着てピシッとした父が笑顔でこちらに向かってくる。
「待った?すまん」
どう見てもただのオヤジなんだが、私にはとってもカッコ良い人に見えている。不思議だ。
ビールは喉越しを楽しむ飲み物だよと、どこかで聞いたことあるようなセリフをふむふむと聞きながら、私と父は乾杯した。
その後は、なにを話したか覚えていない。
ただ、
由実子は由実子らしく。自分の思うように進んだらいいよ。
由実子の努力する姿は、見てるんだからね。大丈夫。
いつか、一緒にお酒が飲める日が来るといいね。
多少美化されていると思うが、こんなことを言っていた気がする。
あの日から、少しずつ前を向くようになった。
人のことで悩んだり、見えない未来で悩むのは時間の無駄だと思った。
あの日飲んだジンジャーエールの味を、わたしは一生忘れない。
不器用な父との、大切な思い出。
あの店は無くなっていたけれど、私の心に生き続けている。あの時のかっこいい父とともに。
Yumiko
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