デオキシス名前

ポケモンパンの名前シールだけ集めていた俺を笑ってくれ

俺が学童にいっていた頃、人間はみな、ポケモンのシールを水筒に貼り詰めることに夢中だった。
石塚も角田も一個上のゴロちゃんも多分に漏れず、ポケモンパンについてくるシールを水筒にペタペタ貼りまくっていた。

ホエルコ

人々は皆、水筒を自慢のポケモンたちで敷き詰める日を夢見て、ポケモンパンというポケモンパンを買いあさっていた。だが我が家は違った。

ポケモンパンを、かってもらえなかったのだ


「あっ、ポケモンパン、、、ポケモンパン、、、食べたいなぁ、、」

「ダメ、うちにはネオレーズンバターロールがあるでしょう」

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はぁ?なんでポケモンパンとネオ・レーズンバターロールが同じ土俵に上がってんだよ 機能と効率だけを追い求めていい気になってんじゃねえよバカ
ポケモンパンにはなぁ、ポケモンパンにはなぁ、、、!金額や栄養価なんていう数字じゃ測れないもんがぎっしり詰まってんだよ!!!


しかし教養のない俺は、反論する術もなくただただ「ポケモンパンは買わない」という教育方針を甘んじて受け入れるしかなかった。
スーパーに行ってはパン・コーナーにならぶポケモンパンに無念の別れを告げ、ネオ・レーズンバターロールを漫然とむしゃむしゃ摂取する日々を続けるしかなかった。

それでもポケモンパンのシールを水筒に貼りたかった。
そんな俺は、友達に頼み込んで、「せめて名前だけでも、、、」と、ポケモンの「名前シール」だけもらって水筒に貼っていた。

ホエルコnamae

名前シール


デオキシス

友達「うおおおおっ!!!デオキシス!!」
おれ「おおっ、すごいなお前、、、ところでその、名前のそれさ、、、それだけくれない?」
友達「えっ、名前、、、?別にいいけど」
おれ「あっ、ありがとう、ありがとう、、、大事にするよ、、、!」


デオキシス名前



セレビィ

友達「セレビィだ!!二匹いるじゃん!!」
おれ「おっ、すごいな、、、じゃあさ、おれは左下の楕円のでいいからさ、、、」


セレビィ名前



ルカリオ

友達「おっしゃ!!ルカリオあてた!!!」
おれ「おっ、やるやん、、、ところでその左上の、、、」


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いやめっちゃ不憫
おい、あんたら息子にこんなことさせて恥ずかしくねえのかよ、、、

だが、シールがたまっていくなかで、俺はそこに確かな価値を見出していた。

伝説のポケモンを語る楕円形の数々。
これは確かに、伝説のポケモンたちと一緒にパンの中から現れたものの一部。ということは「デオキシス」の名を冠したこの楕円でさえも、デオキシスなしに現れることはないのだ。つまり、レアリティはデオキシスのイラストと、等価ーーー。

このシールは、デオキシスが「確かに存在していた」ことを示す”証”なのだ。
そしてその証が今、俺の水筒に敷き詰められている。
それに気づいた瞬間、俺の水筒が急に輝きだして見えた。丸ゴシック体を通して見える、ラティオス、ラティアス、デオキシス。
俺には、確かに彼らの姿が見えたのだった。


そんなある日、母がきまぐれで、ポケモンパンを買ってくれた。ヒャッホウ!
「好きなものを選んでいい」といわれ、おれは迷うことなくポケモンパン、それも、チョコチップメロンパンを選んだ。

憧れのポケモンパン。それが今、俺の手に・・・
興奮を抑えきれぬまま、俺は袋を引きちぎり、しかし中のシールを傷つけないよう慎重に、銀色の袋を取り出した。

果たしてその中身は・・・・、、




ユレイドル


ユレイドル


すっげえ、なんの感情もねえポケモンでてきた


だけど、俺にとって初めてのポケモン。名前も、イラストも揃って手元にある、初めてのポケモンだった。

俺は、このシールをどうすることだってできる。

ユレイドル。そして俺は、俺は・・・




ユレイドル名前


俺は、ユレイドルの「名前シール」を手に取った。

この時、俺はもはや、ポケモンシールのイラストに興味を失っていた。
楕円で完成された秩序。等間隔に並ぶ名前シールの数々。
そこにまた一つ、あらたな楕円形が加わる。

「ユレイドル」の名を冠した楕円形を水筒に貼ると、少年は、満足そうに笑った。


ユレイドル本体はタンスの隅に貼っておいた

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