砂の惑星 考察②「僕」篇
2017年7月21日に投稿されたハチの『砂の惑星feat.初音ミク』の考察②
前回は「砂の惑星」を含め、「砂場」や「砂漠」といった「砂」にまつわるワードについて考察を深めた。
今回は、この曲の主人公について。
「砂の惑星」は少年の歌?
ハチ名義の作品は、少女目線、あるいは少女について歌う曲が多い。
米津玄師として活動する際も女性目線の曲が多く、好きだからとのこと。
――『diorama』の「vivi」や、『YANKEE』の「アイネクライネ」はそれぞれ鍵になるような曲ですが、いずれも女性目線の曲です。これはどのような意味があるのでしょう?
米津 僕、女性目線で曲を作るのが好きなんです。女の子のボーカロイドで曲を作っていたことも大きいかもしれませんね。自分の声は低くて、女性とはまったく真逆の声なので、それがおもしろいのかな、と思ったりします。
(米津玄師 | 人間は闇の中で、渇望しながら生きていく)
ハチ名義の曲の中では、
例えば『遊園市街』や『ドーナツホール』には「僕ら」というワードが出てくるが、いずれもハチによって歌われている。
このことからも、ハチとして作った少女目線の曲の場合は、ボーカロイドたちの曲として位置付けられていると考えられる。
一方、今回の『砂と惑星』には「僕」が登場する。
さらに、二番のサビには「ボーイズドントクライ」とある。
つまり、この曲は初音ミク目線としての少女の歌ではなく、少年の歌であると考えられる。
かつてニコニコ動画という砂場で遊んでいたのは少年であり、『砂の惑星』はその少年の目線で書かれている。
これは、ニコニコ動画で活動していた当時の18歳という年齢に若返ったという意味ではなく、遊び場を前にしたら年を取っても少年なのである。
①「僕」の祈り
この曲で「僕」は「君」に二回祈る。
まずは「立ち入り禁止の札で満ちた砂の惑星」を歩き出した「僕」。
のらりくらり歩き回り たどり着いた祈り
君が今も生きてるなら 応えてくれ僕に
そして二回目は、かつてのヒット曲の回想を終えたあと。
戸惑い憂い怒り狂い たどり着いた祈り
君の心死なずいるなら 応答せよ早急に
この「僕」は、おそらく約4年ぶりにボーカロイド曲を書いたハチ自身であろう。
ハチは「砂の惑星」で、久々の再会となるであろう「君」に応答を求める。
②「僕」が呼ぶ「君」とは
祈りの中に、「生きてるなら」「心死なずいるなら」とある。
この「生」と「死」にまつわる言葉は
同じく『砂の惑星』の歌詞に出てくる、
「しょうもない音で掠れた生命」と
「メルトショックにて生まれた生命」に対応しているように思う。
この「生命」は「君」のことを指しており、
「君」は、まさに初音ミクのことではないだろうか。
有象無象の墓の前で敬礼
そうメルトショックにて生まれた生命
この井戸が枯れる前に早く
ここを出て行こうぜ
井戸が枯れる=生命の源となる水がなくなる=死んでしまう
「僕」は「君」を救いあげようとする。
歌詞の引用の順番が前後しているので、
曲の流れを整理すると、
「今も生きてるなら応えてくれ僕に」
↓
「この井戸が枯れる前に早くここを出ていこうぜ」
↓
「君の心死なずいるなら応答せよ早急に」
↓
(そして次のサビに続く)
イェイきっとまだボーイズドントクライ
つまり仲直りまでバイバイバイ
思い出したら教えてくれ
あの混沌の夢みたいな歌
少年たちはまだ泣かない。
それは仲直りできる希望があるからだろうか。
いったん別れるけれど、砂場で遊んだ思い出を思い出したら教えてほしいという思い。
③「僕ら」の誕生日
ここまで自分なりの解釈で来たが、これまでのハチの慣習にならわずに、「僕」というのは「初音ミク」の可能性もある。
しかし、とすると次の歌詞に出てくる「僕ら」の解釈が難しい。
そういや今日は僕らのハッピーバースデイ
思い思いの飾り付けしようぜ
甘ったるいだけのケーキ囲んで
歌を歌おうぜ
『砂の惑星』はマジカルミライ2017のテーマソングであるが
初音ミク10周年の記念すべき年でもあるという点で
「ハッピーバ―スデイ」の主役は初音ミクであろう。
しかし、「僕ら」と複数形なのだ。
初音ミクとともに生まれたものは何だろうか?
ボーカロイド文化という抽象的なとり方も可能かもしれない。
だが、これはきっと「初音ミク」がいたことによって
活動をすることになった少年たちをさしているのではないかと。
「僕ら」には「僕」と「君」が含まれている。
「初音ミク」がいなければ、ハチという名前の少年がニコニコ動画で遊ぶことはなかったかもしれない。
「ハチとしてミクと曲を作る」というハチの言葉の根底には、そういった意識もあるのではないだろうか。
その裏付けといえるかはわからないが
ボーカロイドに対する思いは、米津玄師の中に大切に残っている。
ただ、今でもボカロに対しては育ててもらった恩義、礼儀、愛情はあるし、ニコニコ動画で2~3年間やっていたことが自分の音楽活動の礎(いしずえ)になっているという感覚はあります。インタビューより
次回は「君」の話をしよう。
AY
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