Q&A #022: 優勢となる免疫逃避型SARS-CoV-2変異株はどこから来るのか。

Dr. Geert Vanden Bossche 2022年9月15日投稿
Q&A #22 : about the origin of dominant immune escape SARS-CoV-2 variants
の翻訳です。原文を参照の上ご利用ください。

質問

集団ワクチン接種が、より感染力の強いSARS-CoV-2変異体の免疫逃避の原因であると考えるのは間違っているのではないだろうか?ウイルスがワクチンによる免疫反応から逃避する変異を許しているのは、むしろ免疫抑制された人々ではないだろうか?次のように考えれば、ワクチン接種者が免疫逃避型変異体の繁殖に関与している理由も説明できる。つまり、SARS-CoV-2は現在、ワクチン接種者に慢性感染しており、ーHIVの状況と同様にー 慢性感染は免疫抑制を引き起こし、SARS-CoV-2の免疫逃避を引き起こしている。なぜなら、最適でない免疫反応はウイルスの突然変異体によって容易に克服されるからである。これらはすべて、抗原インプリンティング/抗原原罪の結果であり、ワクチン接種者の感染感受性の増強と、慢性感染を引き起こしている。

回答

この推論は完全に間違っている。まず、SARS-CoV-2に対するワクチン接種者の感染感受性の増強は、感染の慢性化を意味するものではないことを理解することが重要である。感染感受性の増強は、オミクロン変異体をほとんど中和できない、ワクチンに由来する抗体(かつての中和抗体)が再び増えることに直接起因している。中和能力の低下により、宿主免疫系がS(スパイク)-NTD(N末端領域)上の増強抗原部位を認識しやすくなり、それによって感染増強抗体を誘導することになる。Fantiniらは、実際に、抗S抗体の中和能が低下すると、抗体依存性に感染が増強されることを示している(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34384810/)。しかし、ワクチン接種者の感染増強が慢性感染につながるという証拠はない。それどころか、ワクチン接種者では細胞傷害性T細胞によるウイルスクリアランスが増強されており、ウイルス排出量がワクチン未接種者に比べて少ないことを説明さえできる (https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2022.01.28.22270044v1; https://www.voiceforscienceandsolidarity.org/scientific-blog/c-19-mass-vaccination-triggers-a-chain-reaction-of-new-pandemics-and-epidemics [和訳])。感染増強効果は、ワクチンによる中和抗体に対するSARS-CoV-2の抵抗性の増加によるものであり、ウイルス抵抗性の増加は自然選択とSARS-CoV-2免疫逃避変異体の蔓延によるものであることも疑いなく、この現象はC-19集団接種によってのみ説明可能である。

もし、SARS-CoV-2に対するワクチン接種者の感染感受性上昇が、慢性感染と免疫抑制を引き起こすならば、ワクチン接種者がC-19疾患の重症化から守られ続けていること、さらに最近では、C-19疾患の発症さえしにくくなったということは考えられない。 ワクチン接種者におけるSARS-CoV-2感染感受性の増強と重症化抑制の組み合わせは、免疫制御障害によってのみ説明可能であり、反復再感染後(それでもウイルスは排除されるが)の免疫抑制(HIV患者のような)によってでは説明できない。免疫制御障害には、樹状細胞に付着したSARS-CoV-2による肺胞細胞のトランス感染の阻害、および感染初期のウイルス感染細胞や抗原提示細胞のクリアランスの促進、あるいはMHC分子への抗原提示の促進が含まれる。結果として、SARS-CoV-2に対する免疫応答は、決して免疫抑制的なものとはならない。すでに述べたように、これが、オミクロンBA.4およびBA.5の高い感染性および内在性病原性が、宿主によって依然として抑制され、C-19疾患の重症化が(少なくとも現在のところ!)防がれている理由である。

したがって、C-19ワクチン接種者がSARS-CoV-2感染を繰り返すことで免疫抑制が起こり、そのため抗原インプリンティング/抗原原罪によってワクチン接種者の感染感受性が高まり、免疫逃避が促進されるという考え方を私は支持しない。免疫逃避変異体が優勢に伝播するのは、集団ワクチン接種の結果であり、それによってワクチン接種者の免疫制御に障害が生じ、SARS-CoV-2感染に対する感受性の増強とC-19重症化に対する防御をもたらすのであって、その逆ではない!

さらに付け加えるなら、免疫抑制者が集団の中で優勢となって蔓延するような免疫逃避変異体の出現に関与していることを示す決定的な証拠を私は知らないのだ。この話題についての3つの論文を紹介する:
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsb210475
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03291-y
https://journals.asm.org/doi/10.1128/mSphere.00480-21

これらの論文は、SARS-CoV-2感染者において免疫逃避が起こるためには、感染者は既に免疫不全の状態にあり、回復期血漿やモノクローナル抗体で治療されていなければならないことを明確に示している。圧倒的多数のワクチン接種者はこのいずれにも当てはまらない。さらに、このような免疫不全患者で出現した逃避変異体が感染伝搬するという証拠も、その変異の種類がワクチン接種者に誘導されるものと同等であるという証拠もない。

したがって、C-19ワクチン接種者の免疫制御障害[1]は、C-19ワクチンの集団接種による免疫逃避に由来するものであり、その逆ではないと明確に結論づけることができる。このことは、たとえワクチン未接種であっても、免疫抑制者が集団において優勢となって蔓延するような免疫逃避変異体を繁殖させるということには根拠が全くないことを明確に示唆している。

[1]仮に、免疫「制御の障害」が免疫「抑制」の一形態と見なされるとしても、本文中で引用された証拠によって、冒頭の質問で提起された仮説は否定される。

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