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水平線に津波が見える

Dr. Geert Vanden Bossche 2024年3月30日投稿(Voice For Science and Solidarity
I can now spot the tsunami at the horizon
の翻訳です。
Substack版(2024/3/29)のタイトルはNature will unambiguously demonstrate that neither the unvaccinated nor the vaccinated who refused to re-vaccinate can be blamed for the imminent transition of this immune escape pandemic to its finalです。
原文を参照の上ご利用ください。
2024/4/4現在、図は原図(英語)のままです。
2024/4/7 図の日本語版追加しました。

この免疫逃避パンデミックの最終局面が目前であるが、非難されるべきは非接種者でも再接種を拒否した者でもない。このことは自然が明確に示すだろう。

不可解な(Cryptic)系統の出現: またしても免疫学的見識の欠如が無意味な偏見を導き出した。

[訳注]本稿では、’Criptic’ lineage を「不可解な」系統と訳しました。
潜伏系統、潜在系統、謎の系統、などの訳も考えましたが、全体を通じて「不可解な」が最も読みやすいと感じたためです。
ウイルス学上の定訳がありましたら、教えていただけるとありがたいです。

私の予言が的中すれば(私は100%確信しているが)、ウイルスによる公衆衛生上の被害を悪化させたとして、ワクチン未接種者が再び非難されることになるだろうと推測している人がかなりいるようだ。しかし、私はそうはならないと確信している。なぜなら、重症のCOVID-19疾患は、ほぼCOVID-19ワクチン接種者だけに起こり、健康なワクチン非接種者は影響を受けないからである[1]。

しかし、それよりも可能性が高いのは、公衆衛生当局や健康に関する自称専門家達——彼らはパンデミックはおさまったと信じている——が、ワクチン忌避が広がったせいでパンデミックが突然復活したと主張することだ。彼らは、更新型のCOVID-19ワクチン接種を拒否した人々の免疫系は、流行する極めて感染性の高いSARS-CoV-2変異株に圧倒されるおそれがあり、その多くがSARS-CoV-2の慢性感染を起こすだろう、とさえ主張するだろう。その結果、彼らは自分自身の体内で持続的に増殖する「自家製」の変異株——いわゆる「不可解な」系統——をまき散らす、というのだ[2],[3] 。「不可解な」系統というのは、通常、極めて特殊な、常に特定の場所(主に、慢性感染したとされる人の周辺)に留まる系統をいう。

さて、これはまたしても彼らの重大な誤った解釈である。しかし、この誤った解釈に従えば、彼らに罪はない、ということになるので、彼らにとっては都合が良い。(しかし、このテーマについての最近の私の論考を少しでも読んだ人々は、そうは思わないだろう[4])。

実際のところ、下水中のウイルス量の継続的な監視(サーベイランス)を専門とする科学者達は、残念なことに、このような不可解な系統の由来について結論を早まり、未検出のヒトCOVID-19感染に由来する、とか、ヒト以外の保菌動物由来であるなどの仮説を提示している。高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団における、集団レベルのウイルスに対する免疫反応のダイナミクスを探究するのではなく、彼らは、この不可解な系統は、コロナ後遺症(ロング・コビッド)、つまり、SARS-CoV-2の慢性感染に苦しみ、様々な臓器系から持続的にウイルスを排出しているとされる人々に遡ることができる、という誤った説を提示している。しかし、そのような人々が不可解な系統を下水から検出できるほどの濃度で排出するには、急性患者が排出するウイルス量の、少なくとも1000倍の量のウイルスを排出しなければならないだろう!あらゆる努力にも関わらず、社会で活発に活動している、SARS-CoV-2に慢性感染したスーパーシェダー(超排出者)は見つかっていない!

不可解な系統やコロナ後遺症症例について、真に科学的に理解するためには、現在進行中の免疫逃避パンデミック(即ち、集団ワクチン接種プログラムを行った結果、集団免疫の確立に失敗した自然のパンデミック)を特徴づけている、ウイルスと宿主免疫系の相互作用の集団レベルでの進化のダイナミクスについて理解しなければならない。

COVID-19パンデミックの初期においては、社会活動の制限を含む大規模な感染予防対策が、ウイルスの感染力に対し、「ウイルス封じ込め」を介した非選択的免疫圧力を及ぼした。ウイルスの固有感染性に対するこの圧力に、大規模なワクチン接種の開始によってウイルスの中和性に対する選択的免疫圧力が急激に加わった(COVID-19ワクチンがウイルス中和抗体を誘導することによる)。

パンデミックの現段階では、COVID-19ワクチン接種者の免疫反応は、ウイルスの免疫逃避戦略とともに進化してきた。この進化によって、スパイクタンパク質のS2サブユニット内にある高度に保存された自己模倣性T細胞エピトープに対する広範な細胞傷害性T細胞(MHCクラスI非拘束性細胞傷害性T細胞)反応が引き起こされ、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団は、ウイルスの伝播性に対して非選択的免疫圧力を及ぼすようになった。そのため、現在流行している非常に感染性の高いオミクロン子孫株から派生する変異株は、ウイルスの伝播を抑える免疫反応に直面しており、感染後の複製を強化するウイルスタンパク質の変異を1つないし複数持っている株であれば、どれも、競争上の優位性を得ることができる。しかし、最も高い固有感染性を示す変異株(例えばJN.1一族のメンバー)だけが時間の経過とともに次第にその割合を増し、その一方で、他の多くの変異株は子孫ウイルスの産生力を強化して一時的に有利となっても、同時に流行している、より感染性の高い変異株に駆逐されてしまう。結果的に、より広く拡大するのは後者であり、前者の広がりは一時的で終わる。前者が優位でいられるのは、1つないし複数のウイルスタンパクに様々な変異を加える事で達成した伝播性が、より高いレベルに固有感染性を進化させた流行株に十分に競合できる間だけなのである。

より単純にいえば、不可解な系統が広がることができるのは、同時流行する変異株に、より高い感染性を与える変異(例えば、ACE2[5]以外の受容体を介した感染を可能とする変異など)が追加されるまでの、限られた時間だけなのである。そのため、このような系統がある程度広がることができるのは、それらが発生した狭い地域や、小さな集団にとどまるのだ。このような系統は、子孫の増殖性の強さを競っているため、しばしば、ウイルスタンパク質に極めて多様な変異を組込み、その結果、広範囲に拡大している変異株に比べると、異常とも思えるような非常に変わった特徴を示す。そのため「不可解」と呼ばれているのである[6]。したがって、SARS-CoV-2に増殖性感染し得る宿主であれば、どのような宿主であっても不可解な系統を排出する可能性がある。特に、増殖性感染しても無症状であることがますます増えているCOVID-19ワクチン接種者はそうである。このことは、COVID-19ワクチン接種者が再曝露によって病的免疫反応を起こすかどうかとは無関係である(以下参照)。

集団における不可解な系統の広がりは限定的であり、その検出は特定の下水排出地域に限定されている。これは、特定の個人が集中的に排出しているのではなく、ウイルスの伝播性に対する集団レベルの非選択的免疫圧力が原因であることを示している。以下は私の分析を支持する主な論拠である:

  • 個々の宿主から非常に多様な不可解な系統が排出されるのであれば、この普通には見られない変異の背後には明確な宿主内の免疫選択メカニズムがあり、それによって様々な免疫介在性障害が起こると予想される。その場合、スーパーシェダー(超排出者)の小集団が、それぞれ特定の地域の下水を汚染している可能性が高い。そのような人々が、入院することもなく、検査しても何の健康上の問題も示さないほど健康であるとは予想し難い。実際、その地域の下水から同定された不可解な系統と同じ変異株を持続的に排出する、社会的に活発な個体は見つかっていない。不可解な変異株が複製され、排出される期間は限られているため、下水で検出される頃には、集団では、より感染性の高い変異株にほぼ置換わっている可能性が高い。

  • 新たに出現する不可解な変異株で観察される、通常とは異なる変異は、ウイルス複製に対する集団レベルの非選択的免疫圧力から期待される結果と完全に一致するだけでなく、その消滅も、より高い固有感染性を示すJN.1子孫株が現在継続して出現していることで説明できる。

免疫監視に携わっている研究者達はまもなく、不可解な系統の検出の減少を報告することになり、私の分析から導き出された結論を裏付けることになると私は予想している。一方、変異探索家達は、JN.1一族がスパイクタンパク質にさらに変異を追加し、その固有感染性を徐々に高めている事を発見するだろう。

不可解な系統は類似したものへの収斂進化から、異質なものへと発散する進化に移行し、いずれ消えるだろう。

スパイクタンパク質、特に、スパイクタンパク質の受容体結合ドメインに対する選択的免疫圧力のために、オミクロン期の初期段階では不可解な系統が観察される頻度は今よりも少なく、それらはオミクロン子孫株と大きく重複していた。このことは、類似した免疫選択圧力によって類似したパターンへの収斂進化が起こることを裏付ける。

逆に、最近出現した不可解な系統は、下水監視でより頻繁に検出されるようになっており、主要な流行系統、特に、JN.1一族とは類似しない進化的発散を示している。これらの不可解な系統は、これまでのウイルス中和性に対する免疫圧力と、それに引き続くウイルス感染性(即ち、スパイクタンパク質)に対する免疫圧力によって選択されたオミクロン子孫株に由来しているため、同定された不可解な系統はすべて、固有感染性の増加と様々なクラスのモノクローナル中和抗体に対する抵抗性を示している。

以下に添付する図1は、私のオンライン講義のスライドからの抜粋であるが、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団で、スパイクタンパク質に対する抗体反応に免疫再集中現象が起き、その結果、免疫反応がユニバーサルな交差反応性の細胞傷害性T細胞反応に移行する過程を要約している。ユニバーサルな細胞傷害性T細胞反応の促進によって、どの変異株によるものであっても増殖性ウイルス感染は効果的に阻害されるが、集団内でそのような免疫反応を持つ割合が大きく増加すると、ウイルス伝播性に及ぼされる非選択的免疫圧力が増していくことになる。

このことから、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団の構成員によって排出される、変異によるウイルスタンパク質の変化によって伝播性を上げたオミクロン子孫株は、どれも有利に伝播できるため、特定の下水流域で検出されると考えられる。しかし、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団では、主にウイルスの増殖速度のみを増大させる変異を進化させた変異株よりも、より高い固有感染性を可能にする変異を追加した変異株の方が、より優れた伝播力を持つことができる[7]。これは、このような集団ではウイルスの主な伝播原が接種者だからである。接種者は再曝露すると無症状のウイルス排出者となってしまうのである。結果として、ウイルス伝播性の観点から言えば、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団では、より感染性の高い変異株がより急速に広がり、より増殖性の高い変異株を次第に駆逐していく。したがって、ウイルスの伝播性に対する免疫圧力が増すにしたがい、いくつかの、JN.1一族から生まれた、より感染性の高い変異株が他の不可解な系統よりも有利な伝播性を示し、今や急速に不可解な系統から置き換わっていることは驚くべきことではない。

要約:

伝播性の高い不可解な変異株はどれも、散発的かつ一時的に、下水監視による追跡で、特定の下水流域に出現する可能性がある。伝播性を高める変異には、ウイルスの感染性をさらに高める変異が含まれる(例えば、ACE2以外の受容体に依存したウイルスの侵入メカニズムや、ウイルス粒子の産生を促進するSARS-CoV-2タンパク質の変化など)。非接種者も接種者も増殖性感染を起こしにくくなってきていることから、より感染性の高い変異株が、いずれは、より感染性の低い変異株に取って代わるだろう。そのため、後者は、不可解と呼ばれるのだ。

より伝播性の高いSARS-CoV-2変異株のバリエーションが減少すると何が起るのか。

ウイルスの感染性の増加は、上気道常在樹状細胞へのウイルス粒子の吸着促進を意味し、したがって、抗原提示細胞によるウイルスの取り込みと処理、そして、抗原提示の減少を意味する。その結果、ウイルス感染宿主細胞の除去から、抗原を提示する宿主細胞(即ち樹状細胞)上へのウイルスの蓄積へと次第に移行し、ウイルスを載せた樹状細胞は様々な臓器にウイルスを運ぶことになる。(以下の図2参照)。ウイルス感染性の増強と、増殖性ウイルス感染の阻止の減少があいまって、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団では、多反応性非中和抗体による、ウイルスのトランス感染性の「中和性」に対する免疫圧力が増加していく。

以下、このことがウイルスの免疫逃避戦略の最後の、そして最重要の段階であり、免疫逃避パンデミックの終わりの始まりであると私が考えている理由を説明する。

第一に、ウイルスが優勢になると、ワクチン接種された宿主はより苦しむ事になる。なぜなら、抗原提示細胞による抗原取込みが減少するため、ユニバーサルな病原由来ペプチドによる細胞傷害性T細胞反応はもはや活性化されず、その代わりに、ユニバーサルな自己模倣ペプチドを標的とするCD8+T細胞がプライミングされるためである。MHC分子が十分にアップレギュレーションされた状態で、ある種の自己ペプチドと十分な構造的相同性を共有する微生物由来のユニバーサルペプチドが提示されると、T細胞受容体認識における抗原認識の縮重と呼ばれる現象を介して、自己免疫疾患の発症基盤となるだろう[8],[9],[10],[11]。

自己反応性T細胞のプライミングは、病原体由来抗原と自己抗原の間の交差反応性(分子模倣)に起因すると考えられる。体内を循環する、組織特異的な自己抗原を標的とした自己反応性T細胞が慢性的に抗原刺激されることが、コロナ後遺症の発症基盤であろう。T細胞を介する慢性的な自己免疫疾患の重症度は、抗原提示細胞に取込まれるウイルスと、それによって細胞表面のMHCクラスI分子に提示されるユニバーサルT細胞ペプチドの量次第であろう。このことは、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団では、ウイルスが、ワクチン・ブレークスルー感染を起こす、より伝播しやすい変異株という、ますます狭くなっていく進化の道を進むにつれて、コロナ後遺症の罹患率と重症度の両方が上昇する、ということを示唆している。コロナ後遺症の発症要因には自己類似T細胞ユニバーサルペプチド[12]の認識の縮重が関与している可能性が高いのであるから、コロナ後遺症の発症と重症度が患者のMHCの遺伝的背景とは無関係であることは驚くべき事ではない。

より感染性の高い変異株のウイルス粒子は樹状細胞により多く吸着するため、強力でユニバーサルな細胞傷害性T細胞の活性化(と同時に、抗原特異的CD8+ T細胞の枯渇!)は緩和されることが予想されるため(図2参照)、ターボがんの急増に代わって、T細胞を介する自己免疫疾患の急増を目の当たりにすることになるかもしれない。コロナ後遺症の発症や再燃は、ウイルスへの再曝露をきっかけとする可能性が高いため、コロナ後遺症の診断はしばしば、PCR検査陽性や抗原検査陽性と相関する。しかし、相関関係は必ずしも因果関係を示さない。そして、この病態の慢性化はウイルス増殖が持続しているためである、という考えを支持する証拠は存在しない。

ウイルスと集団レベルの免疫との相互作用のダイナミクスに基づけば、この病態の慢性化は、COVID-19ワクチン接種者で以前に誘導された抗体反応が想起されていることに起因すると考えることが合理的であろう。したがって、私は、この慢性疾患を、コロナ後遺症ではなく、ワクチン関連自己免疫疾患と呼びたいワクチン関連疾患という名称の方が、この病態の免疫病理学的性質とCOVID-19ワクチン接種者に発症していることをより明確に示しているからである。

最後に、JN.1子孫株の時代も、もう長くは続かないということを認識しておくことは極めて重要である。ウイルス粒子は、上気道でますます樹状細胞に吸着する傾向にあるため、多反応性非中和抗体を再び増やすために必要なウイルス-抗体複合体の濃度が低下しつつある。その一方で、活性化した抗原提示細胞は自己反応性CD8+T細胞を強力に活性化をするが(以下参照)、外来中心性CD4+ヘルパーT細胞を活性化しない。そのため、多反応性非中和抗体の濃度が、徐々に低下し、ウイルスのトランス感染抑制の律速要因となる。結果として、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団は、多反応性非中和抗体の結合領域である、スパイクタンパク質のN末端ドメイン内の「感染促進性」抗原部位[13] に対して、ますます大きな免疫圧力を及ぼしている。

多反応性非中和抗体の想起が減少しているため、これらの抗体が樹状細胞に吸着したウィルス粒子の感染促進部位にどれだけ結合するかがCOVID-19重症化抑制の律速要因になりつつあると考えるのが妥当である[14]。スパイクタンパク質のN末端ドメイン内のこの感染促進性抗原部位は高度に保存されているため、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団は、今や、ウイルスのトランス感染性(すなわち病原性)に対する非選択的免疫圧力を強めている。ウイルスは、もはや、スパイクタンパク質関連エピトープをさらに変化させたり、他のウイルスタンパク質に変異を起こしたりする事でこの免疫圧力の増大を和らげることは出来ない。そのため、ウイルス病原性に対し増大する免疫圧力を緩和する唯一の方策は、特別な糖鎖プロファイルを組込むことである。この糖鎖プロファイルの極めて重要な特徴は、スパイクタンパク質のアミノ酸組成や配列に関わらず、樹状細胞に吸着したウイルス粒子と多反応性非中和抗体の結合を阻害できるということである[15]。このような糖鎖プロファイルが採用されると、その結果、無数の、新しい、抗原的に非常に多様な、中和されないウイルス系統が同時発生し、同時流行することになるかもしれない。このような系統をまとめて「HIVICRON」ファミリーと名付けるが、このファミリーは、樹状細胞に吸着したウィルス粒子と、病原性を抑制している多反応性非中和抗体との結合を立体的に回避する能力を持つだろう。その結果、この新たな系統は、COVID-19ワクチンを完全接種した人々[訳注]に対し高度の病原性を示し、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団でそれまでに流行していたあらゆるSARS-CoV-2変異株を速やかに駆逐するだろう。

オミクロン株によるワクチン・ブレークスルー感染は立体的免疫再集中(免疫反応の標的の変化)を促進し、COVID-19疾患を緩和した(重症化抑制)。一方、HIVICRONの出現は立体的免疫脱集中(免疫反応の標的を、樹状細胞に吸着したウイルス粒子上の感染促進部位への多反応性非中和抗体の結合から、遊離ウィルス粒子上のこの部位への多反応性非中和抗体の結合へと変化させる)を誘導し、多反応性非中和抗体依存性重症COVID-19疾患増強につながると考えられる。

新たな変異株が多反応性非中和抗体によるウイルス病原性抑制に対する抵抗性を獲得するために採用する方法の中で、私が最も可能性が高いと考えているのは、特定のO型糖鎖付加部位に長い糖鎖を追加することである[16] 。HIVICRONの変異したO型糖鎖付加部位は、現在流行しているオミクロン子孫株に由来するにも関わらず、それらとは著しく異なり、大きく乖離したスパイクタンパク質構造に差し込まれると考えられる。そのため、高度にワクチン接種をした地域では、これまでに流行したあらゆるSARS-CoV-2変異株とはかけ離れた、中和耐性と、より高い感染性と病原性を併せ持つ変異の組合わせを特徴とする、無数の「不可解な」変異株の増殖を目の当たりにするかもしれない。そうなれば、公衆衛生当局や専門家は、スパイクタンパク質の糖鎖プロファイルの大幅な変化とともにウイルスタンパク質の著しい変化を併せ持つ、このような不可解なウイルス系統の大群を、免疫が不十分なためにウイルスの増殖を制御できない状態が続く(未同定の!)コロナ後遺症患者から排出された「不可解なウイルス準種」と分類するに違いない。

しかも、コロナ後遺症の病因に対する誤解と、ウイルス病原性に対する免疫圧力の高まりについて無知であるために、公衆衛生当局は、高度にCOVID-19ワクチン接種された集団でのコロナ後遺症患者の増加は、集団における更新型COVID-19ワクチン接種率が不十分であるためである、と都合よく解釈するだろう。

結論

この寄稿が、現在検出されている伝播性の高い系統や、将来出現する高度に病原性の強い不可解な系統の持続的発生源は、コロナ後遺症患者ではない、ということを明確に示せていることを願う。そうではなく、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団内でのワクチン・ブレークスルー感染によって引き起こされた立体的免疫再集中の結果生じた免疫病態に苦しんでいるのがコロナ後遺症患者なのだ。立体的免疫再集中を引き起こしたワクチン・ブレークスルー感染は、そして、不可解なSARS-CoV-2系統の散発的で一時的な出現と、それに伴ういわゆるコロナ後遺症は、集団ワクチン接種に由来する免疫逃避と免疫圧力が強まった結果にすぎず、そして、最終的にはウイルスの目覚ましい機能獲得進化の原動力となる(図1参照)。

永遠に続くかのようなウイルスの免疫逃避の繰り返しと、それに伴う慢性免疫病態の増加(「コロナ後遺症」と呼ばれる)の唯一の原因は、更新型COVID-19ワクチン接種が受け入れられていないことではなく、集団ワクチン接種なのだ。しかし、JN.1子孫株が進化して固有感染性を高めるのと歩調を合わせて増加するコロナ後遺症患者数は、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団で行われた大規模機能獲得実験に終止符を打つ高毒性のワクチン・ブレークスルー感染の劇的な大波の先触れである

この、まさに人類に向けられた未曾有の機能獲得実験の責任は、ひとえに集団ワクチン接種プログラムを指揮した人々にあるということに疑いはない。コロナ後遺症に苦しむ患者も、COVID-19ワクチン接種や更新型の追加接種を拒否した人々も、コロナ後遺症の発症率の増加や、「まず害を為す事なかれ」という原則が尊重されていれば防げたであろう迫り来る大災害の責任を問われる所以はないのだ。

図1

図1
Fig. 1

図1:免疫逃避パンデミックの概要図。大規模な感染防止対策とCOVID-19集団ワクチン接種があいまって、大規模な機能獲得を引き起こした。(武漢系統(Wuhan-Hu-1)による無症状〜軽症感染に始まり、HIVICRONによる(多反応性非中和)抗体依存性重症COVID-19疾患増強に至る)。

図2

図2
Fig.2

図2:初期オミクロン子孫株は多反応性非中和抗体依存性感染増強を介して標的宿主細胞に侵入する(❶)。多反応性非中和抗体は樹状細胞に吸着した子孫ウイルスに結合する。その後、樹状細胞は肺や他の遠隔臓器に移動する(❷)。他方、それまでの立体的免疫再集中でプライミングされた抗体は、抗原的により遠くなった免疫逃避変異株に低親和性で結合し、抗体-ウイルス複合体を形成し、巡回する抗原提示細胞に取込まれる(❸)。

大きな抗体-ウイルス複合体は抗原提示細胞に、より取込まれるため、細胞傷害性T細胞を強く活性化する。そのためウイルスに感染した宿主細胞が排除されるが、それまでの立体的免疫再集中でプライミングされた抗体をブーストするためのヘルパーT細胞の活性化は妨げられる。

それまでにプライミングされた抗スパイク抗体のブーストが弱まると、多反応性非中和抗体の産生も減弱する。

非常に感染性の高いオミクロン子孫株は、多反応性非中和抗体依存性感染増強に頼ることなく標的宿主細胞へ侵入できる。非常に感染性の高い変異株が増殖することによって、組織常在性樹状細胞への子孫ウイルスの吸着が促進されるような免疫環境が作られる。新たに出現する、より伝播性の強いオミクロン子孫株(JN.1一族のメンバーなど)は、その固有感染性の高さによって、移動性樹状細胞への子孫ウィルス粒子の吸着をより増加させ、その結果、抗原提示細胞によるウイルスの取込みは減少する。非常に感染性の高い変異株は着実に拡大しているため、樹状細胞に吸着した高感染性子孫ウイルス粒子の増加と多反応性非中和抗体の産生減少があいまって、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団では、ウイルス病原性に対する免疫選択圧力が着実に増加している。これが、最終的に、新たな、一群の不可解なウイルス系統(「不可解なウイルス準種」)が選択される原動力となる。その「不可解なウイルス系統」は、高度にCOVID-19ワクチンを接種された集団で、多反応性非中和抗体によるワクチン・ブレークスルー感染を促進する能力を持ち、その結果、重症COVID-19疾患増強の巨大な波を引き起こす。

脚注

[1] 自然感染で重症となった非接種者(高齢者や病弱者のごく一部)は抗体価が非常に高くなる。そのため、彼らも、COVID-19ワクチン接種者同様のワクチン・ブレークスルー感染を起こし、立体的免疫再集中を起こす可能性がある。
[2] 「不可解な系統(cryptic lineage)」とは、一般的には、下水中のウイルス監視で検出されることがあるが、臨床検体では通常観察されない遺伝マーカーや変異をもつため、祖先をたどることが難しい系統を指す。下水監視では、PCRや抗原検査(もはや、日常的に行われていない!)で個々人を検査するよりも、より多くの人々の感染を拾い上げるため、これらの系統が検出される。多少の差はあっても急速に集団全体に拡大する一般的な変異株(デルタ、オミクロン、BA.5、XBB、JN.1など)とは異なり、このような系統は通常、特定の地域に限られ、GISAID データベースやEpiCoV データベースには登録されない。
[3] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9176656/
[4] https://www.voiceforscienceandsolidarity.org/scientific-blog/reflections-on-the-ongoing-immune-escape-pandemic [和訳]
[5] ACE2: Angiotensin-converting enzyme 2
[6] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9176656/
[7] https://www.nature.com/articles/s41467-024-45274-3
[8] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11359825/
[9] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10490973/
[10] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9155643/
[11] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7133435/
[12]  The universal peptide is comprised within the S2 fusion peptide: ユニバーサルペプチドは、ウイルス膜と宿主細胞膜の融合に使われるスパイクタンパク質のS2サブユニット内にある:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19439480/
[13] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34139176/
[14] 多反応性非中和抗体には、スパイクタンパク質のN末端ドメイン内の保存された抗原部位に結合して、ウイルスの病原性を制限する、極めて重要な役割があると考えられている: https://www.voiceforscienceandsolidarity.org/scientific-blog/predictions-gvb-on-evolution-c-19-pandemic [和訳]
[15] https://www.voiceforscienceandsolidarity.org/scientific-blog/predictions-gvb-on-evolution-c-19-pandemic [和訳]
[16] https://www.voiceforscienceandsolidarity.org/scientific-blog/predictions-gvb-on-evolution-c-19-pandemic [和訳]

[訳注]

COVID-19ワクチンを完全接種した人々(fully C-19 vaccinated individuals)について: Fully vaccinatedの定義は国によって異なるようですが、一般的に、2回接種シリーズの2回目(ファイザー社製、モデルナ社製、あるいは世界保健機関(WHO)が承認したその他のワクチン)を接種してから2週間以上経過した人、あるいは1回接種ワクチン(ジョンソン・アンド・ジョンソン社製)を接種してから2週間以上経過した人を指すようです。ボッシュ博士はこれまでの論考で、ワクチンでプライミングされたことが重要であると度々述べていますので、2回接種シリーズの2回目を完了している、または、1回接種用のワクチンを1回接種している、ということを指していると考えています。

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