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デザインエージェンシーの働き方。ストラテジー&アカウント・ディレクターの仕事とは?|インタビュー

私たちYLのチームは、外部とのコラボレーションという軸を基に組んでおり、取り組むプロジェクト毎に多種多様なクリエイターと一緒に仕事をする機会にも繋がっています。

特に会社の立ち上げの際は、財政面で外部の支援を受けていない小さな独立系エージェンシーとして、フルタイムのチームを雇用することはほぼ不可能でした。

現在では社内リソースへの投資も可能な成長を遂げていますが、それでもプロジェクト毎にクリエイターとコラボレーションをするモデルを取り続けています。その理由は、このモデルによってクリエイターからからの学びと成長の機会を得られるからです。私たちにとってまさに願ってもない環境で、仕組みとしてもうまく機能しています。

とは言え、クライアント獲得からプロジェクトの計画、そして実行までの決まったやり方に固執し、ついつい「自分たちのやり方」に囚われてしまいがちです。自分たちをお決まりのパターンから解放し、新しい手法の模索へと促すには、世界中のエージェンシーとコラボレートし、仲間になり、意見を交換することが一つの方法です。これは教科書には載っていないビジネスについての教えであり、私たちが大事にしている秘訣です。

Studio Brave、メルボルンのCBDにあるオフィスの外観

Studio Braveはメルボルンが拠点の、戦略的才能とデザインの創意工夫の先駆け的デザインスタジオです。私たちは、近年陰ながらその仕事を崇めるように見続けてきました。今回は、そんなStudio Braveのストラテジーおよびアカウント・ディレクターであるジェマに話を伺いました。

ジェマの背景でもあるパフォーマンス研究からブランディングを牽引する様になるまでの型に嵌らない道のりは、創造性と戦略の融合においてのユニークな視点を教えてくれ、私たちにとってたくさんの学びがありました。そんなジェマとのインタビューを通して、皆さんにもデザインエージェンシーの世界、それからエージェンシー全般について少しでも知っていただければ幸いです。

メルボルンのオフィス

Studio Braveについて簡単に教えてください。
Studio Braveはオーストラリアのメルボルンを拠点とした戦略ブランディングとデザインのスタジオです。
現在22年目を迎えました。自社のことながら、誇りに思います。

ご自身についても自己紹介をお願いします。バックグラウンドや、Studio Braveで働くようになったキッカケは何ですか?

改めまして、ジェマです。Studio Braveのストラテジーおよびアカウントのディレクターです。この6年間、Studio Braveの創設者であり、スタジオを率いるクリエイティブ・ ディレクターであるティムと二人三脚で仕事をしてきました。

実は、私自身は自分が現在置かれているようなブランド志向のキャリアパスを歩んでいるとは思っていませんでした。まず、2005年にパフォーマンス研究の学士号を取得しました。このコースは、専門分野を超えたパフォーマンスを通じて、自律的に思考できる人、制作者、パフォーマーを育成することを目的としていました。

ライティング、即興演奏、声、動きに焦点を当てたスタジオベースの練習を通じて、作曲と新しい作品の制作のスキルを伸ばしていきました。振り返ってみると、この時に勉強に費やした時間はとても価値のあるものだったと思っています。今は直接的に芸術の分野に関わっているわけではなく芸術界隈の仕事をしていますが、コースで学んだことにより、物事を違った角度から考え、クリエイティブの作品について洞察力に満ちた建設的な分析ができるスキルが身についたことは間違いありません。

ジェマ・トーマス

最初は広告業界で働き始め、後にメディア会社となるACP Magazinesでファッション関係の出版物全般に携わりました。広告営業のコーディネーターとして、クライアントとの関係構築やプレゼンテーションのスキルを培い、エージェンシーとのコラボレーションの複雑な仕組みの理解を深めることができました。ところがそんな日々の中で、何かにつけてオフィスのグラフィックデザイン部署をうろつき、クリエイティブのエグゼキューションやクライアントのブランドが広告やキャンペーンを通じてどのようにストーリーを伝えるかの話をしていることが多い自分に気がつきました。

海外生活を経て2013年にメルボルンに戻ったとき、私の軌道は再び変わりました。自分の今後の方向性への明確なビジョンはありませんでしたが、クリエイティブ業界で働きたいということははっきりしていました。プランニングとクライアントサービスには自信があったので、この2つを融合する方法を考えていました。そんな時、コリングウッドのブティック型ブランディングエージェンシーでアカウント・マネージャーの求人募集を見つけました。すぐさま応募し、そのあとはご存知の通りです。

実際に仕事を引き受けたり、一緒に仕事をしたいと思うクライアントのタイプに傾向はありますか?

ここの部分に一貫性を持たせることは、協力的なパートナーシップを促進するために極めて重要です。Studio Braveの成功は、私たちの会社としての成長過程でこの側面が揺るがなかった事が何よりの証です。これはクライアントとの関係において重要であり、私たちのチームカルチャーの基礎でもあります。

私のクライアント経験は、政府機関、非営利団体、芸術・文化関連、小売店、ホテルおよびホスピタリティのベンチャー、ファッション・美容業界と、様々な分野との関わりに及びます。中でも、クリエイティブや文化に関わる分野でのプロジェクトに取り組むたびに、芸術に対する心からの情熱が沸々と湧き上がるのを感じます。

ここ2年以上、私はVicScreen(旧フィルム・ヴィクトリア)などの権威ある団体と協業し、憧れのヴィクトリアン・オペラの取り組みに貢献する機会に恵まれました。

VicScreenのプロジェクト
ヴィクトリアン・オペラのプロジェクト

会社での正式な役職名は『ディレクター兼ストラテジー&アカウント』となっていますが、異業界の読者の方向けに、具体的にどんな役職で何をされているかご説明いただけますか?

私の役割は、ブランド戦略プロセスの計画、開発、主導をすることです。同時にアカウント管理チームも監督しています。

ブランド戦略とは問題解決です。これには、ブランドや企業が直面する人間の課題を深く理解し、それらを克服するための解決策を見つけることが含まれます。具体的には、消費者の行動を調査し、競争力と業界の傾向を分析し、クライアントが世界で成功を収めるのに役立つインサイトとチャンスを見出します。

Studio Braveでは、とにかく話をし、たくさんの質問をし、相手のユニークな人生経験を深く理解することにかなりの時間を費やしています。ブランドとのあらゆるやり取りを受け取るのは人間であり、その受け取り手がブランドがどのように認識されるかを教えてくれます。そのため、ブランドが下すあらゆる決定は消費者の真の共感と理解から生まれたものである必要があるのです。

文化的なハブであるナイチンゲール・スタジオのために作ったポスター作品

自分の役割を楽しみながらハッピーで成功したストラテジストになる資質として、何が必要だと思いますか?
私が自分の仕事に対して納得できるレベルを維持するために、日々意識して優先していることは4つあります。良い聞き手であること(ただ表面的に言葉を聞くのではなく、積極的にメッセージを聞くこと)、共感を示すこと、決断力があること、そして常によく読むことです。

幸福に関して言えば、職場環境に求める幸福や成功が何かは人それぞれです。例えば私は(回答時)インドネシアのコワーキングスペースからリモートで仕事をしており、自分のいつもの作業風景から飛び出した環境に身を置いています。今の私には、快適で慣れた環境から抜け出し、挑戦を感じ、新しい自分に触れ、さまざまな人々とコラボレーションし、新しい経験から得られるものに対してオープンであることが必要だと感じています。

Studio Braveのオフィスで働くジェマ

私の場合、新しく経験することに対してオープンで刺激を受け、確かに自分で自分の人生の手綱を握っていると感じられると、仕事においてもあらゆる面でプラスに繋がるのです。私は仕事とプライベートが別の世界に存在するものだとは思っていません。どちらも私の人生です。

ストラテジストになるために、自分を取り巻く世界に順応すること以外に成功への特別な要素はありません。

ブランディングプロセス全体のうち、どのくらいが『戦略』で、どのくらいが『クリエイティブ』だと思いますか?

戦略的であることは創造的であることです。この2つは相互に排他的ではありません。戦略を立てるには、ラテラルシンキング(水平思考)、独自の視点から問題を捉えること、インサイトの収集、現状への挑戦、ストーリー作成、世界観の構築が求められます。

ブランドやキャンペーンを視覚化してインパクトを生み出すには、戦略的なフレームワークが必要です。どんなに美しいデザインも、そのデザインに対する明確な計画がなければ無意味です。

美しいデザインとクリアなコミュニケーション:
建築プロジェクトParabolicaのブランドデザイン制作

Studio Braveはデザインスタジオ業界でどのように差別化を図っているのでしょうか?

この業界にはサービス、オファー、プロミスで重複する部分が多く、うまくいっているエージェンシーが必ずしも前例のないことをやっているわけではありません。

ではどうしているのかと言うと、同時代に他のエージェンシーがやると二番煎じになってしまう事も、先手を打つことで自分たちだけの独壇場で活動しています。私たちは自分たちが生み出すものを信じており、自分たち自身はもちろん、クライアントにも他とは異なる考え方を求めるよう努めています。

私たちはクライアントと切磋琢磨し、自分たちの価値観に合わない仕事は引き受けません。クライアントにも同様のメッセージを共有しています。どんなにしっかりした価値観や独自の信念体系を持っていても、あるいは異なる視点で世界を見ていても、自分が本当に大切にしていることは何かを見失わないでください。

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Studio Braveはデザインとブランディングにおいて多様なパートナーシップを築き、その戦略的なクリエイティビティやクライアントとの協働は、多くの学びをもたらします。私が感じるこの業界で働く醍醐味は、国や文化を超えて様々な人との対話を通じて友情が芽生え、共感の場が生まれることや、面白いアイデアを取り入れることができることです。

この業界はとても魅力的で刺激的ですが、時には透明性に欠ける面もあると感じています。ブランディングとデザインの絶え間ない進化の中で、この記事を通して疑問に思っていたことが明確になったり、新しい視点を得るきっかけになったら良いなと思います。
何か気になることがあれば、ぜひ次の記事でお話できればと思いますので、お気軽にご連絡ください。

Studio Braveのリンクはこちら
ウェブサイト: studiobrave.com.au
Instagram: @studiobrave

Writer: Lucy Dayman
Translator: Midori Nakajima 

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