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ファウンダーは、日本人とオーストラリア人。20代で起業したクリエイティブエージェンシーY+L Projectsがインターナショナルなチームで挑むこと

2019年に石川県金沢市出身の玉田曜一郎と、オーストラリア出身のLucy Daymanが立ち上げたクリエイティブエージェンシーY+L Projectsは、プロジェクトごとにコアメンバー+毎回違うフリーランスのプロフェッショナルパートナーとチームを組む。

広告制作・運用、webサイトや映像制作などを行い、企業が持っている課題をクリエイティブの力で解決する、というのはクリエイティブエージェンシーではよくある話ではあるが、広告業界出身の玉田とジャーナリズム出身のルーシーとの2人は自分たちのことをクリエイティブコレクティブと呼ぶ。

20代で国籍の違う2人が立ち上げたエージェンシーでは何を生業としているのだろうか?そのインターナショナルなプロジェクトや今までの枠に囚われないワーキングスタイルについて聞いた。

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YLこの2人だから受けることが出来るプロジェクト。様々なバックグラウンドを持つパートナーが在籍するエージェンシーとは?

玉田:Y+L Projectsは、みんなからYLと呼ばれています。クリエイティブエージェンシーの定義は難しいですが、ブランドデザイン、コミュニケーション戦略、ソーシャルメディアのコンテンツ制作、広告運用、映像やビジュアル、webサイト制作などをしています。

僕の最初のキャリアはウェブの広告代理店で、それもSP (セールスプロモーション) 寄りの提案をしていました。それからSPを一通り経験した後に限界を感じて、企業やブランドの課題の解決を得意とする、クリエイティブエージェンシーUltraSuperNewでプランナーとして働かせてもらいました。

YLとして大切にしていことは、依頼を受けたクライアントの価値最大化を目指すことです。それは、クリエイティブの知見もそうだけど、SPで学んだ知見も生かせるところがあると思うんです。プロジェクトによって、クリエイティブだけでなくて、アーティスト、デジタルマーケティングの専門家、など、外部の人もチームに加えて働きます。

先日のとあるゴルフメーカーの競合ピッチでは、クリエイターの他に実際にゴルフのジャーナリストの方にチームに入ってもらったりと、毎回プロジェクトに加えたら面白い化学反応が起きるかもしれない人を見つけてきてチームを作ります。

これまでのクライアントを紹介すると、オリンパス、三菱重工エンジニアリング、MONOCLE、ALBION、VanMoof (オランダ産のe-bikeブランド)、sequence (三井不動産が運営するホテル)、ブルーミング中西、MUKOOMI(CBDウェルネス・スキンケアブランド)など、業界は様々で、ブランディングから、デジタルマーケティング戦略立案、映像制作、デジタルサイネージアートをフランス人のメディアアーティストと制作したりと、そんなことをやっています。一つの業界に絞らずクリエイティブドリブンな仕事をしています。

ルーシー:私が関わることが多い海外の仕事で言うと、観光の仕事が多いです。インターナショナルな観点からライティングなどを頼まれることが多く、例えば日本政府観光局の仕事では、海外の会社やブランド、観光客を日本に招致する為に頼まれることなど。日本はオーストラリアよりマーケットが10倍も大きいから、もちろん海外の会社が日本に参入したいという話もよくありますね。

東京に住む前はTone Deafという音楽メディアでコンテンツを作っていました。なので他のエージェンシーのことはまだよく知らないのですが、小さなチームで常に様々な知見を持ったフリーランスの人とプロジェクトを共に何かをしていますね。毎回同じ人にお願いするとは限りません。まだ始まったばかりの会社だからということもありますが、あえてそういう働き方をしている部分もあります。Yoichiro が今まで広告代理店にいた経験をよく話すのですが、同じチームと毎回組むとクライアントやプロジェクトに関わらず制作物が似通ってきてしまう。その点はいつも気をつけていることです。

玉田:同じクリエイティブディレクターやデザイナーの元だと、アウトプットが似て来るのは当然だし、デジタルコンテンツを作るにはターゲットの年齢に近い若い人がクリエイティブディレクターになるのがいいのではとよく考えていました。

それは本当に感じますね。二人の年齢とか国籍について、日本で男女でチームを組んで国籍も違うチームは珍しいと思いました。

玉田:いないと思います。友人同士同志で若く起業した人はいるけど、co-founders(共同創設者)はいないかな。組み合わせも男同士、女同士はあるけど、男女でペアで国籍も違う会社はあまり見かけませんね。

2人の役割の違いはなんでしょうか?

玉田:僕のバックグラウンドとしてはマーケティングとクリエイティブディレクション、ビジュアルに関わることをしてきました。YLではマーケテイングディレクションや、クリエイティブに関わる全てを担当しています。

ルーシー:ブランディングなどを行うときのストーリーテリング、ストラテジー、PRのプランニング、ライティング・コピーライティングなどのジャーナリズム関係など。どちらもクライアントと話すことはあるけど、Yoichiroの方がクライアントには優しいですね(笑)小さなチームであることでマーケティングや提案の仕方などお互いなんでも学べて良いと思います。

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若いうちにはじめたかった理由。業界に感じた違和感

20代でエージェンシーを立ち上げる人は多くはない気がするのですが、2人が実現したいこととは?業界にいて変化が必要だと思った時など。

玉田:理由は2つあって、1つ目は、通常の広告代理店はおそらく大企業で経験を積んで独立したテレビCMのプランナーあがりの人が多くて、その特定の場所に向けた制作物を作ることに長けている人が多いと見ています。でも今はデジタルメディアっていっぱいあって、各プラットフォームにあったものを作ることが求められていますよね。先ほどの話と一緒で、それは若いクリエイティブディレクターの方が柔軟に発想することができるのではと常に思っています。

2つ目は、最近映像クリエイターとグラフィックデザイナーと働いていて感じるのですが、良いものを作るクリエイターがまだまだ埋もれていたり、くすぶっている。才能のある人材をより良いパートナー(クライアント)とプロジェクトでマッチングし、彼らの力が発揮できるステージや環境を作っていきたいなと思っています。

業界に対しても、クリエイターに対しても最近そのような気持ちが出てきていますね。すごいかっこいい映像を作っているクリエイターが、クライアント探しに手惑うこともあったりなども聞いています。そこをエージェンシーとしてサポートしたいと思っていますね。

ルーシー:私は正直大きな野望は最初はなかったのですが、今は良いものを作ってそれに関わったクリエイターや作品に尊敬を常に持ち、それに見合った対価を支払う、と言うことを続けて行きたいなと思っています。大きなクライアントを持つことも大事だけど、同僚や一緒に働くクリエイターと良い関係を気づくことも一番のプライオリティですね。

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それは2人ともフリーランスの経験があるから生まれた考え方かもしれませんね。ルーシーから見た日本のクリエイティブ業界はどうでしょうか?

ルーシー:日本のクリエイティブ業界はみんなとてもオープンに感じます。競合関係にあるクリエイター同士が、協業したりコラボレーションしたり、フレンドリーに繋がりを大事にしている印象です。日本では人と人をつなげることが当たり前に行われている気がして、とても素敵なことだと思っています。フリーランスの時は、どうしてみんなそこまでしてくれるんだろうと驚きました!

確かに人の繋がりでお仕事になることは多いですね。クリエイティブ業界に限らず日本特有の文化に思えます。面白いですね!

玉田:繋がりで言うと、エージェンシーとして動くだけではなくて、YLのメンバーがクライアントの中に入って、ブランドや企業の中の人と一緒にブランドを育てていくということをしていきたいという希望もありますね。表面やデザインはすぐ変えられるけど、中から内部の人が何をしたいか汲み取って、チームとしてクライアントにもカスタマーにも近い存在でありたいとも思っています。だからこそ、小さいチームでインディペンデントでいたい。安倍前首相の星野源のうちで踊ろうキャンペーンは、そばにクリエイティブディレクターがいたら起きなかったと思うんです。

初めは飲み友達。プライベートでも仕事でも、インディペンデントなスペシャリスト同士を繋いでいく。


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インタビュアーの手塚

そもそも2人はどうやって出会ったのでしょうか?

玉田:正直に言うと僕が当時気になっていた女の子の紹介で、その友達のグループに会ってそこから仲良くなったんだよね。

その後、ルーシーがフリーランスのライターになったと連絡してくれて、その時はただ友達として会っていたのですが、その頃はお互いフリーランスの友達が少なかったから渋谷のTrunk Hotelで落ち合って一緒にそれぞれの仕事をしたりしていました。互いが抱えるプロジェクト数も増えてきて、関わる案件も多くなってきた段階で会社を作ろうか!となりました。

ルーシー:いくつか始まりそうなプロジェクトがあって、提案するのにネイティブなライターが必要で誘ってくれたのが最初でした。そのプロジェクトは、大手企業が新規事業として立ち上げたプロジェクトで、その後は法人化されました。Yoichiroはそのプロジェクトでよく、海外に毎月のように行っていました。また、現在一緒に働いているアートディレクターや映像クリエイターはそのプロジェクトを通して知り合うきっかけになりました。

玉田:プラベートでも遊ぶし、仕事もなんでもオープンな関係です。

そもそも人に会うこと自体がインスピレーションになることは多いですよね。一緒に働くフリーランスの人たちとはどうやって出会っていますか?

玉田:2人ともいろんな新しい人と会うのも好きだし、最初は飲み友達とかお互い趣味が合う人たちと繋がって知り合ってから仕事にすることが多いですね。 今一緒にやっている人に他の人を繋いでもらうとかもあります。毎回、新しい専門分野の人と出会って、それを吸収して、その次に別の分野同士を繋げて行くのも好きです。

それまで出会ってなかったそれぞれの分野の定住者(スペシャリスト)の横を繋いでいく。そこから新しいものを生み出すのが好きです。ランダムに人を見つけて一緒に働くこともあったり、一緒に仕事をしたいと連絡をもらうこともありましたね。

箇所に安定しない。インスピレーションを生む新しいワーキングスタイル

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2人はどんなワーキングスタイルでしょうか?

玉田:今は、表参道にオフィスを借りていて、基本的に毎日オフィスに来て働いていますが、一緒に働くチームメンバー達は、結構好きな時に気持ちのよく仕事できる場所にいたり、コロナ前は海外の島に行ったり、いろいろな場所にいます。名古屋で働いているデザイナーもいるし、ニューヨークに住んでる人もいますね。会社来てミーティングをすることもありますが、基本的には全てオンラインです。会社に来る頻度は2週間に1回とか、プロジェクトによって異なりますね。

世界的にそのようなノマド的働き方に移行してはいるものの、行うにはちょっとハードルが高かったりもしますよね。コミュニケーションはどのようにとっていますか?毎日の大体のルーティンなど。

玉田:今は、slack, facebook messanger, Google meet などのツールを使用しています。タスク管理は前はasanaを使ってたけど、タスクが増えすぎるとPCを開きたくなくなるので、googleカレンダーに集約して、プロジェクトのデータ管理はgoogleドライブ、アイディアはgoogle slideにまとめて共有していますね。提案時にはkeynoteやGoogle slideを使います。

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クリエイティブディレクター・玉田の鞄の中

ルーシー:毎日のルーティンは大体、6時半頃に起きて、ヨガをして、コーヒーを飲む。Netflixの日本語の番組などを見て日本語の勉強を1時間ほどして、30分ほど読書、朝ごはんを食べて9時半にはオフィスに来ますね。6時には終わらせるようにしています。

玉田:僕は大体8時に起きて、1時間ジムでワークアウトをしてからオフィスにきます。7時くらいまで仕事をして、家では料理をしたり、本を読んだり、youtubeやNetflixを見たり。

2人ともヘルシーな働き方。週末に働くことは?

玉田:全然あります。出張も多いですね。

ルーシー:コロナの前は旅の仕事が今よりもっと多く、毎月1-2回ずっと出張もしていました。その時は疲れ切っていたけど、今はその生活が恋しいですね。最近はもっと実験的に、いろんな人に会う機会を作りたいなと考えています。少し状況が落ち着いたら、小さなワークショップのようなイベントでお互いに何か学んで帰れるようなイベントをしたいと思っていますね。

玉田:誰でもブランドを作って、簡単に売れるようになった時代。企業の人だけに対してだけではなく、何かビジネスをやりたいと考えてる人にも、どうやってファンになってもらえるブランドを作っていくべきか、課題を解決していくべきか、と言うことをワークショップ的なことを通じて行っていきたいなと思っています。各分野で活躍しているクリエイターを呼んでレクチャーをしてもいいし、デジタルアーティストでもいいし、クライアントだけでなくエンドユーザー側も巻き込んで一緒にやっていきたいとも思っています。

ルーシー:以前、Yoichiroが  Gobal hobo という、ジャーナリストで活躍したい人向けのワークショップにバリまで一緒に付いてきてくれたのですが、1ヶ月でどうやってフリーランスライターになれるかを、同じようなレベルの人たちがお互いに学びあえるとても良い機会でした。(*LucyはGlobal hobo で先生を務めている)

毎日通勤しなくて良くて、みんな前より時間が自由に使えるようになってきて、そうなったばかりの人に私たちが教えられることはたくさんありそうですね。

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ルーシーの鞄の中

国内にいるからこそ必要なアウトサイダーとしての新鮮な視点

玉田:企業規模は関係なくて、小さい企業でもグロースしていきそう、面白そうと思ったら手伝いたいですね。大きい企業でも、共感できることをしている人たちの力になりたいです。クリエイティブエージェンシーこそコミュニケーションが大事だと思っていて、僕たちが、これいいなーとか面白い!と思ったものを伝えていくのが役割だと思っています。クライアントとカスタマーの間に入って両者の意見を聞きたいので、両者からの信頼を得られるようにブランディングや実績を積んでいきたいと考えています。

小さくてもグロースしていきそうな会社の、面白いと思うポイントとは?

玉田:伝統的な会社のサービスやプロダクトをD2Cにしていくような変化は面白いと思う。日本企業って良いものを作っている会社は多いけど、ブランディングとかマーケティングが下手で、上手く伝え切れていなくて伝わり切れていなくて、まだ見込み顧客が出会えていない良いものやサービスは多いのではないかな。

特に、たくさんの会社が今D2Cに力を入れているけど、そのほとんどが日本国内のマーケットを狙っていて。もっと海外にも目を向けるべきだと思う。戦略やクリエイティブの両方で力になれると思っています。日本のマーケットだけ狙っていても残念ながらブランドの価値最大化にならないよね。

ルーシー:私がよくする観光の仕事に関しては、少しアウトサイダーであることを大事にしています。日本に長く住んでいる外国人もたくさんいますが、外国人だからこそ、あまり詳しくないことは逆に私にとっては大事だと思っています。常に新鮮な目で捉えたいですね。

プロジェクト毎の最適なチームだからこそ生まれる新鮮なアイディア。そこで得た知見や利益をまた新しい才能に還元していくことで自分たちも成長する。

このサイズ感だからチャレンジできること。セレンディピティ(偶然な幸福)を生み出す。

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ルーシー:最近オーストラリアのクライアントととも話していたのですが、小さいサイズだからこそとてもフレキシブルになれると思う。小さいから出来ることが少ないと言うことではなくて、大きな会社のように何人もの承認が必要なことがないので、透明性もフレキシビリティもある。もちろんインターナショナルなところも自分たちの強みです。

玉田:目が届く範囲、良いサイズ感でやっていきたいと思っています。最近読んだ本の中に書いてあったもので、seats2meetと言うオランダ初のコワーキングスペースがあるんですが、例えば自分がマーケティングができるとシステムに登録することで、その施設が無料で使える。ただ、中にいる人の中でマーケティングについて知りたいと言う人がいたら、その人の相談を受ける。反対に自分も自分の専門外の人に相談ができることで仕事が生まれることがある。そこでは「セレンディピティ製造マシン」と呼んでいましたが、企業や業界でも、その中の色々な組織を縦横に走り回り、人と人を繋げれる人材が必要かなと思っています。そういった人は組織には必要だし、そんな働き方をしたいなと思っています。

昨今の「新しい働き方」など軽く乗り越え、言語・テクノロジーなんかも自分たちのやりたいことを叶えるための1つのツールとして使いこなす。仕事の場所やジャンルも自由に飛び回るYLは、話題に上がる事の一つ一つが面白くて新しいアイデアに溢れていて、自らの体験談を次々に話してくれたそのオープンさと柔軟さが印象的でした。

ただかっこいいものを作って発表する作り手ではなく、マーケティングやPRなど戦略的な「クリエイティブ」を完成させる。そしてミレニアルやZ世代の新しい感覚や、日本の外の世界を知っている広い視点。YLのような次世代クリエイティブエージェンシーが今の日本のマーケットには必要になってくるのではないでしょうか。

型に囚われないようにと考える前に、もう型のことなんて考えず軽やかに次のことを考えている2人。やりたいことを突き詰めて行くと、その磁力が人をさらに惹きつけているのだなと感じました。


執筆:手塚 芳子、編集:澤邊 元太 撮影:Kim Marcelo, MATT VACHON, Patryckyuto Satohshimizu

玉田曜一郎 Yoichiro Tamada
Co-founder, CEO, creative director, producer
複数のグローバルエージェンシーにて、デジタルのブランディング、マーケティング、プロダクション、コミュニケーション戦略で国内外の様々なクライアントを担当する。2019年、PR・戦略・プランニングを担当した「Tank Head Girl」キャンペーンにてアメリカの広告賞の The Webby Awards 広告、メディア、PR部門で「Best Use of Earned Media 賞」を受賞。その後、国際的なクリエイティブコミュニケーションエージェンシーである Y+L Projectsを共同設立。

ルーシー・デイマン Lucy Dayman
Co-founder, COO, copywriter, publicist
オーストラリア生まれのジャーナリスト/コピーライター。PRとコミュニケーション領域のバックグラウンドを持ち、音楽業界でPRマネージャーとしてキャリアをスタートさせたのち、オーストラリアで最も有名なミュージック&カルチャー誌「Tone Deaf」 の編集者に。2016年にフリージャーナリスト、コピーライター、Global Hobo の共同プログラムディレクター、旅行コンサルタントとして日本に渡り、2019年にY+L Projectsを共同設立。

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