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Aerthshipによるアーティスト・レジデンシー:小松市滝ヶ原で発見した地球とのつながり

私たちY+L Projectsは、これまでに古民家を改修してつくられた石川県小松市のファームハウス「Takigahara Farm」と多くのプロジェクトを実現してきました。

最近では、2023年11月にニューヨークを拠点とするエコ・コレクティブ*「Aerthship」が来日し、地元コミュニティと共同でデザインしたアーティスト・レジデンシーを開催しました。世界中から15人のQTPOC**アーティストが参加し、5日間に渡り『地球と共に過ごす』ことをテーマに、ライティングワークショップ、和紙作り、そして地元の食材を使った食事を共に囲み語らう時間を過ごしました。

* コミュニティ構築機能があり、環境負荷も小さく経済的な北欧発祥の住まい方で、自立しながらも暮らしの一部を共同化する集団。
** Queer and Transgender People of Colorの略。LGBTQIA+の中でも有色人種の人を指す。

今回、Y+L Projectsからコミュニケーション・ストラテジストの樹里もレジデンシーに参加し、『地球と共に過ごす』という言葉の具体的な意味と、その実現に必要な要素について詳しく探求しました。本記事では、主催側の4名(Aerthship創設者:ティン・マイ氏、Takigahara Farmコーディネーター:マイロ・ローソン氏、マインドフルネス・ライター:ミミ・ジュ氏、滝ヶ原で活動するアーティスト:いはら あこ氏 / 以下、敬称略。)との語らいから、プログラムの全貌と参加者として感じたことをお届けします。

AERTHSHIPのロゴ

Aerthshipはシェフ、デザイナー、アートディレクターなどで構成される集団で、エシカルでコミュニティを大切にした食体験を創造しています。大都市ニューヨークで育った食材を取り入れ、都市農業の可能性を探求したディナーを催したり、グッチの循環型生産ライン初のコレクション「Off The Grid」プロジェクトの一環として、カナダ先住民の漁師とコラボレーションをしたりなどの食体験を提供してきました。

まずは、Aerthship創設者のティンに「Aerthship」という名前の意味、そして活動理念について聞きました。

「アースシップ」の音から考えると、この地球(アース)が一つの船(シップ)、のようなイメージを抱くかもしれませんが、実は明確な意味は持たせていません。みなさんがそれぞれに感じていただくイメージが、僕たち「アースシップ」の意味だと思っています。

私たちは農家の方からいろいろな話を聞いて設立したコレクティブです。農家こそ、「地球の通訳者」だと考えています。現在、多くの先住民族の文化が途絶えていく中で、「農業」は私たちが地球とのつながりを理解するための重要な手段と言えます。私たちの生活を支えてくれる農家の知恵を学び、引き継いでいくことが大事だと感じています。

ティン

実際に、このレジデンシーでも「食」が大事な軸となっていました。Aerthshipのシェフを務めるエドモンド・ホン氏により生み出される山の麓で育った食材を使用した美味しい料理が、テーブル・コーディネーターのリズ・ミドロウスキー氏によって美しくセットして振る舞われ、参加期間中のディナーが特別な食体験の時間となりました。Aerthshipのメンバーは、レジデンシー開催の3日前から滝ヶ原に入り、地元のフードシステムについて学ぶための時間を過ごしていました。

シェフのエドモンドと滝ヶ原の食材を使った料理

今回、Takigahara Farmのフード・ディレクターであるアンナさんが滝ヶ原の農場周辺の人々をたくさん紹介してくれました。八代目の麹職人、代々侍の刀を作ってきた刀職人、猪猟師の方々など、今回のレジデンシーでも使用した食材について、深く学ぶ機会となりました。

ティン

Takigahara Farmは豊かな自然に囲まれていて、自然と隣接するコミュニティとも密接な関係を築いています。Takigahara Farmのプログラム・コーディネーターであるマイロには、どのように地域との繋がりを築いていったのか尋ねました。

僕が滝ヶ原に来た最初の年では、このようなレジデンシーを開催することはできなかったと思います。食体験もワークショップも、地域の人の協力がないと実現できないことばかりです。
僕は自然豊かな環境で生活をしたくて、2020年に滝ヶ原にきました。最初の年から自分の夢であった音楽フェスをここで開催しているのですが、初年度は地元の方々に迷惑をかけてしまったと思います。100人程を集めて、大きな音を出してしまったので。最初のフェスの後、謝罪行脚で街を周りました。しかしその後もフェスを開催したかったので、その時の反省を元に地域の人たちと話し合いを重ねました。2年目からは地元の人が食べ物を提供してくれたり、シャトルバスの運行も手伝ってくれたり、今年は伝統的に村の祭りで受け継がれる獅子舞のパフォーマンスも披露してくれました。

マイロ

滝ヶ原に住む地域の人々と協力し、共に土地の恩恵を受けるということ──レジデンシーでは地域の人とのコミュニティランチもあり、自然、食、コミュニティ、全てが繋がっている感覚がありました。Takigahara Farmで生活するアーティストのあこさんが、ファームでの共存について、そしてその暮らしがどう自分のアートに影響しているかを話してくれました。

ここは私の練習の場所という感じです。イノシシに畑をごちゃごちゃにされたりはするけど、イノシシの分まで野菜を育てないといけないんだな、みたいな感覚。何も責めないし、全部を受け入れていく感覚になってきました。あとは、みんなを巻き込んでいく場所です。近くに酒蔵さんがあるのですが、一度自分が育てている鶏のおやつ用に使わない酒粕を分けて欲しいと言ったら、最近は余ったからと持ってきてくれるんです。こういった行動に繋げられたのは、私にとってもすごく大きな達成でもあって。循環があればゴミも減るし、私にとっても鶏にとってもいいし、その酒粕を食べた鶏のフンが土に還るのもまたすごくいいことだから、全部がサーキュレーションですよね。
この「循環」の中でアートを作ろうとしていたとき、和紙に出会いました。和紙は太陽で乾燥させ、川の水で浄化し、形成する──まさに地球と共同で作るものなのです。

あこ

あこさんは、レジデンシー中に和紙作りのワークショップを主催されました。和紙作りには太陽の下で乾燥する工程があるので、晴れの日でないとうまく作ることができません。参加者は自然の力を使って作る和紙を、原料である雁皮の木を剥ぐところから作りました。最終日には、参加者みんなで苔の庭に座り、それぞれが作成した和紙に自由に感じたことを書きました。

雁皮を剥くあこさんとレジデンシー参加者

共に食事を囲み、和紙を作り、ハイキングをして、一緒の時を過ごすというレジデンシー。意識的にゆったりした時の流れを作ることで、面白い形の花を見つけたり、好きなミュージシャンについて好きなだけ語り合ったり──日常から解き放たれ、内なる自分と向き合い、仲間、そして私たちを育んでくれる地球とつながることが意図であり、そのことに意味があると感じました。私たちの誰もが社会の中でお互いに支え合うことで生活しています。QTPOCアーティストにとっても、心置きなく自己を表現できるコミュニティや、お互いを高め合える仲間の存在が活動を続ける上での核となります。だからこそ、こうしたのびのびできる実りの多い場所で世界中から集まった異なる分野の仲間たちと時間を共有できたことは、実りの多いものでした。

レジデンシーでのワークショップをプログラムしたミミが、今回のレジデンシーを通して感じた事を教えてくれました。

地球は私たちの最も偉大な先生です。それなのに、現代では地球から学ぶ機会を見つけることが難しくなっています。このレジデンシーでは、何かを生み出すことが目的ではなく、自分自身、仲間、そして地球とつながることに集中できるようにプログラムを構築しました。地球が与えてくれるものを一緒にゆっくり感じたいと思う人々と一緒に時間を過ごすこと、これはとても新鮮な体験でした。

ミミ
お散歩


最後に、ティンに今回のレジデンシーでの気付きと、Aerthshipの未来について尋ねました。

小規模なコミュニティでゆっくりと食や地球の恵みを楽しむ時間を過ごすと、地球との親密なつながりを感じることができると改めて感じました。とても単純なことのようでいて、そのような地球との触れ合い方は現代社会から失われているように感じます。しかしAerthshipとして活動をする度に、実はそれほど難しいことではなく、身近なことでつながりを感じられると気付かされます。

今後については、1年間は音楽グループとして活動しようかなと考えています。これからも食体験を提供し、アーティストのレジデンシーなどを続けながら、音楽もやってみたいかな。好きな音楽アーティストにかけるエネルギーってすごい莫大じゃないですか。もしそのエネルギーとお金が本質的にエシカルで役立つものであれば、それほど面白いことは無いだろうと。音楽を通して、地球へのつながりについて深く考えることにワクワクしています。

ティン

ティンはアジアをルーツとするアーティストの音楽レーベル兼メディアプラットフォーム「88rising」のクリエイティブ・ディレクターであり、ティン自身もミュージシャンとして活動しています。ティンの音楽への情熱やこだわりは深く、真摯に向き合う姿勢からはその熱意が感じられます。

今回のレジデンシーへの参加を通じて、Aerthshipの活動と滝ヶ原の土地の持つパワーにより、地球の響き、そして自分の心の声に、もっと耳を傾けるよう言われている様に感じました。今後、Aerthshipは独自のサウンドを生み出していく中で、より地球と密接な関係を築き、地球の声に耳を傾けていく事と思います。私たちはそのサウンドを手がかりに、滝ヶ原で触れた『地球との共存』の方法をより深く模索していきたいと思います。

この度の能登半島地震の報に接し、心よりお見舞い申し上げます。
被災地の皆様が安全を取り戻し、一日も早い復興をお祈り申し上げます。

Writer: Juri Ito
Editor: Midori Nakajima


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