小説感想[アンダースタンド・メイビー]

アンダースタンド・メイビー / 島本理生 著

人に薦められるか、と聞かれると多分無理だなと思う。だけど、私はこの小説にとても救われている。小説感想を書くときに絶対に書きたいと思っていたもののひとつだ。

私は文庫版を持っていて、解説は村山由香氏が担当している。この小説の率直な第一印象が書かれている。
「この作品は人を選ぶ」

主人公の思春期~青年期を描いた作品である。主人公の非常に不安定で歪なパートナーとの関係を通して自分の内面に迫っていく作品である。上巻は主人公が中学時代からはじまり、転校した来た男子生徒に対して親交を深めていく。「思春期の恋愛」というイメージのような爽やかな印象がある一方、何故か主人公は他の男性との距離感を計れず、事件に巻き込まれる暗い雰囲気が漂っている。下巻では社会人となった主人公が、様々な経緯を経て、過去の出来事に一応の決着を付けるという展開。

上巻が全体的に暗い。上巻終わりでも暗い。なので、そもそも下巻に行く気が削がれてしまう。では、何故下巻までわざわざ読んだのかというと、この主人公は一体どこまで落ちていくのだろうという怖いもの見たさに尽きる。

この人と関わらないほうがいいな、というのを人は経験しながら学んでいく。自分もそうできている、と何故か皆自信があるので、主人公の行動にひたすらイライラさせられる。何故同じことを繰り返すのかと。でも多分、現実は経験をうまく活かせている人ばかりではなくて、実は自分にも当てはまるところがあると思うからイライラするのではないだろうか。

上巻のイライラする展開のため、下巻の場面転換でよりスカッとしてくる。主人公はカメラマンを目指し、その仕事の中で自分と同年代の女性モデルの撮影に挑む。教会を舞台に、カメラ越しにモデルの告白を受ける場面はモデルとともに主人公が救われるための一場面だったように思う。この作品の中で一番好きなシーンだ。下巻の中でもそれなりに進んだシーンだが、これを読むために読み直すことがある。

読んでいて主人公にイライラする、それでもなんとか救われてほしいと勝手に思いながら読む私はとても自分勝手だった。でもそもそも私は正しくお綺麗な人間ではないということを実感できる小説で、何故か私が救われる小説なのだ。

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