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留置所日記 2020/6/3

おはよ。クソネミ。力が入らない。頭が痛い。腹が気持ち悪い。


気づいたら寝ていたようだ。調べに呼ばれたので出かける。


戻りました。ただいま。


母親から差し入れが届いた。自分から知らせてくれと頼まなくても伝わったようだ。実家にガサが入ったのだろうか。
なかなかに気が滅入る。母親に知られたら怒られるとか、そんな話ではない。「頼っていいよ」と言わんばかりのほどこし。本なんかも届くらしい。わがままで自分勝手な話だが、情けなくなるからあまり手を差し伸べて欲しくないと思ってしまう。
頼れるなら頼りたい、仲良くしたい、でも、自分は親が怖い。

あの家にはもう住みたくないし、親を親だと思っていない自分が理解できなくて。憎い。怖い。妬ましい。でも、それだけじゃなかったはずなのに。
血縁を愛せないことは、自分の中で割と大きなコンプレックスだった。
親が良い人だったかは、自分にはわからない。


昼食が終わった。前述した件が頭の中で散らかって、涙が零れた。
おかげで昼食に手をつけられなかった。

要は、「家族」というものが怖いんだと。誰かの家族でいることで、自分には「自分」という人生が与えられないようになる気がして。今自分がここで深く考えたって何にもならないので保留しておくが、なんにしても自分が「家族」というものに苦手意識を持っていることだけははっきりと知れた、。


午前の調べは本当にイライラした。同じ事ばかりを聞かれ、下らない世間話をされた。メモを取られるわけでもない、ただの雑談。何か事は進んだか?
わざわざ出向いて下さったんだから、聞くことがあるだろうに。質問と返事だけで完結に終わらせようじゃないか。もう、愛想を振りまくのは飽きた。

そうだなぁ、母親から差し入れられたお金は返そう。実家にも顔は出そう。そんで、ちゃんと説明しよう。家族が、実家が、親が、怖いということ。自分に都合が良い時以外は連絡はしないし、そういう風にしか関われないということ、そしてその理由。基本的に、親に興味がないこと。
自分で自分を許して、受け入れるから。だから、泣くな。

10日勾留の間に全部終わってくれないと、やりたい仕事が期限に間に合わないのだけれど、調べはなんともフワッとしている。気に入らねぇ。


留置所でオナニーができるのか、という話。書こう書こうと思って忘れていた。
可能か不可能かで言えば、「可能」。行為としては。
ただ、気が散るし、オカズもない。性感帯を刺激するという行為自体はできるが、それがオナニーと言えるのかどうかは微妙なところである。
結論、「自分には無理」でした。


今日は窓が白いから、多分天気は曇りとかなんだろうな。
空が見たい。晴れた空が。
夕焼けはここからは見えない。空が赤くなっているのは、今のところ見ていない。最後、と言うか、直近で記憶にある夕焼けは、相方と川沿いで見た空。


母親から届いた本のタイトルを今ちらっと見せられたが、また意味深なタイトルの本を送ってきたものだ。あの人は幸せな人だから、自分にも幸せになってほしいと思って、幸せを勝手におすそ分けしてくれる。
自分には、あの人が持っている類の幸せが怖い。苦手なのだ。だから拒否反応を起こすのだろう。
あの人は神様に愛されている。あの人もきっと、あの人の神様を愛しているのだ。うらやましい限りである。自分にはできないなぁ。あなたの子供がこんな人間でごめんな。昔はきっと、少しくらいは周りに自慢できる程度の子供だっただろうに、期待させるだけさせて、ボロボロと崩してしまった。申し訳ないとは思うよ、普通にね。でも、今からあなたの為に改心して「自慢の子供に!」とはならないな。

多分、差し入れの本を今ここで読んだら泣いてしまうような気がする。もうちょっと、暇つぶしになるような本にして欲しかったなぁ。多分、手紙の代わりにと選んだ本なのだろう。手紙、今はまだ受取れないから。

差し入れしてきた服がバンドTシャツだったのはちょっと笑った。この親にしてこの子ありって感じがした。残念だな、もう少し何かが違っていれば、きっともっと仲良くなれただろうに。本当に残念だ。


昨日「女子房に男を入れるのはおかしい」みたいな話を大声でしているのが聞こえて、フェミニストって本当にどこにでもいるんだな、うぜ、と思った。別に男性職員だって好きでお前らの身体検査の見守りしてる訳じゃねんだよなぁ。自意識過剰だろ。うっせぇ。
罪の意識は無いんだろうか。勾留されて、自分は罪人なんだという自覚は。それとも、それとこれとは話が別なんだろうか。他人の気持ちや考えていることなんてわかるわけがないとは思っているけれど、自分が「一般的」ではないことも知っているから。「一般的」「普通」「大多数」「多数派」「民意」を知りたい。内訳を。

あ、そういえば自分の実家には昔から、本に気持ちを託して相手にプレゼントする習慣があった。いや、母親が始めたことだった気もするけど。自分の母親は父親に、いや逆だったかな、なんにしてもあの二人は聖書の受け渡し?をした過去があったはず。その聖書の前だか後ろだかにラブレターを書いて相手に贈ったんだとか。その聖書の実物を見たことがある。

大好きだった母方の祖父は絵が上手で、よく絵本の中のお気に入りのページの絵を描いてくれたりした。それで多分、本を好きになったんだと思う。
お気に入りだった水色のランドセルは祖父が買ってくれたものだった。六年間、ちゃんと使ったよ。今でも大事に持ってるよ。ありがとう。
誕生日のタイミングとか、そんな時にも本をもらった気がする。手紙の代わりに。

本を贈る文化、あったなぁ。そうだった。本と音楽、これは自分が生まれたあの「家庭」が自分に教えてくれたことだと思う


お母さんへ。

差し入れの申請書が目に入って、筆跡だけであなただとすぐにわかりました。名前を見る前に。
今は昼食後、午後の取り調べを待っている間、このノートを書いています。
ふと気づきました。自分の書く文字が、筆跡が、あなたに似ています。親子ですね。
どこでどんな風に変わったのか、何がきっかけだったのか、もう思い返したくはありません。ただ、幼稚園に通っていた頃、ずっと「将来の夢は父親の跡継ぎだ」と言っていたあの頃。あれは本当に跡継ぎが目標だったわけではなく、そう言えばあなたは喜んでくれるだろうと思っていたからだった。そのことだけは確かに覚えています。
あなたの自慢の子供でいたかった。でも、期待を超えていけるだけの力が、自分にはありませんでした。
成人して地元を飛び出したのは、やりたい事があったのも、大好きな人たちの近くに行きたかったのも確かに理由ではあったけれど、最大の理由は、あの家から逃げ出したかったからでした。あなたが悪い訳ではない。父親が、祖母が、弟や妹が、誰が悪い訳ではないのです。ただ自分が、あの家がどうしても苦手な人間だったというだけなのです。
あなたが、私が今勾留されているのをどの様に知ったのかはわかりませんが、きっとショックだったのではと思います。泣かせてしまったかもしれません。ごめん。

あなたの差し入れの中に「いっしょにいさせて」というタイトルの本がありましたね。まだ読んではいませんが、タイトルだけであなたが私にどんなことを伝えようとしてくれたのかは、なんとなくわかります。
いつまでもそうやって、私に優しく、私を愛して、守ろうとするのはもうやめませんか。
これはきっとあなたにとって、酷い言葉なのでしょうね。

あなたに愛されて、本当に辛い。幸せが怖い。
やっぱりあなたのもとには戻れそうにありません。
ごめんなさい。ありがとう。私もあなたを愛しています。

あなたの大事な子供より。


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