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2020年代のジャズを聴くための、10年代のジャズギター作品

2000年代以降のジャズギター・シーンにおいて最大のヒーローといえばカート・ローゼンウィンケル、ということに異論のある人は少ないだろう。高速のリフと、絶妙なバランス感覚でアウト・フレーズを交えた独特の浮遊感のあるフレージングで軽々と小節を飛び越えていくスタイルは、その後に現れたギタリストを”カート以降”か否かで測れるほどの一大センセーションを巻き起こした。しかしそのスタイルも10年代半ばまでに、マイク・モレノ、アダム・ロジャーズ、ラゲ・ルンドらによってほとんど極められたように思える。

インターネットなどの普及によりジャズがワールドワイドな言語として機能していることが改めて露わになったのはよく言われる話で、当然ジャズギターシーンでもそこから生まれた萌芽に大きく注目が集まった。アフリカはベナン出身のギタリストで、ロバート・グラスパーらと共に”Blue Note All Stars”として作品を出すリオネル・ルエケがグラスパーらと作った”Heritage”のリリースが2012年のことだ。

”カート以降”の感覚と自身のルーツを見事に調和させることで頭角を現したギタリストも数多く登場した。チリ出身のカミラ・メサや、ブラジルのペドロ・マルチンスやイスラエルのシャハル・エレナサンの登場はその最たる例と言える。そこから自身の歩みを進め、カミラは自身の色彩感覚をストリングでより豊かにした”amber”を、ペドロは”Caipi”への参加を経てそれをさらにアップデートしたかのような”VOX”をリリースした。スナーキーパピーに参加しているマーク・レッティエリやボブ・ランゼティはマス・ロック的な趣きの作品をリリースしていて、それもスナーキーパピーが”immigrance”で取り上げたモロッコなどの民族音楽のリズムとの相性の良さへつながることも面白い。

アンソニー・ブラクストンに師事していたメアリー・ハルヴォーソンはピッチシフターなどのエフェクターを巧みに使用しつつ、ヴォイシングやそれを派生させたハーモニーを追求するかのようにソロからセプテットまでバンド編成を模索して、フリージャズやアンダーグランドでパンキッシュな精神をも絶妙なスパイスとして扱った。ジュリアン・ラージは持ち前のテクニックと造詣の深さでブルーグラスやアメリカーナを自身のスタイルとして成熟させたと言えるし、その先輩格に当たるビル・フリゼルも最高傑作と呼んでもいい”Harmony”をリリースした。

また、ラフィク・バーティアや、トラヴィス・ローターのように、もはやギターという楽器の域を超越をするような作品も現れた。彼らは、ヴォイシングや楽器の制約を解放するかのようにエフェクターやポストプロダクションによってサウンドを拡張させていった。それはジム・オルークが90年くらいにギターの楽器としての可能性を模索した延長とも言えそうだ。もはやギターとしての姿は薄れ、増幅された電子音への入力機として扱い、New Amsterdamなどの先鋭レーベルがリリースするインディークラシックでのサウンドの要としても機能した。

非常にざっくりとまとめてみても、”カート以降”と呼ばれるメインストリーム以外にも捉えきれないほどのスタイルや行ってきたことの結実や萌芽が起こったのが2010年代だと言えるだろう。

とっても前置きが長くなってしまいましたが、そんな10年代を振り返りつつ、20年代への視点となるようなプレイリストをギタリストに焦点を当てて作ってみました。選曲の基準はだいたい以下のような感じ。ややジャズから逸脱して選んでいるものあります。

・ギターにフォーカスが当たっている、もしくはコンポーザーや音像の一部として大きな役割を担っていること
・オーセンティックでバップ的なイディオムでない作品
・基本的にギタリストのリーダー作であること(参加作でも重要なのは選ぶ)

サブスクにはないのでプレイリストには入ってませんが、ECMを凌いで最大急のギターレーベルとなりつつあるジョンゾーン主催のTzadikも見逃せない存在。彼の率いた”Masada”プロジェクトの曲を録音させる”Book Of Angels”シリーズには先述のメアリー・ハルヴォーソン以外にパット・メセニーやマーク・リーボーが作品を残しているし、最近ではジュリアン・ラージ、ビル・フリゼルとテリー・ライリーの息子であるギャン・ライリーによるトリオの連作をリリースしたりしてます。

当然ギタリストだけでは現行のジャズは捉えきれないので、あくまでこれから来る未来の音楽への視点やヒントになるかも、くらいに考えていただけると嬉しいです。


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