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事業の「見立て」を立てる〜これから学習塾を開業される方へ〜

はじめに

本記事は学生時代に赤字だった教室をお預かりし、一年かけて黒字化を経験した筆者がこれから学習塾の開業を考えられている方に向けて、
「学習塾ビジネスであれば、どれくらい頑張りによって、どれくらいの収支になるのか」を解説するものです。

事業の開始を考える上で、予算などの「事業成長の見立て」をできる限り精緻に考えることは失敗する確率をできる限り下げることに繋がります。
そのため開業前の価格設定などの意思決定に必要な数字の立て方
筆者の学習塾運営の経験を交えながら解説させていただきます。

損益分岐点とは

損益分岐点とは、売上高と費用が等しくなり損益がプラスマイナスゼロとなる売上高のことです。

つまり、売上高が損益分岐点を超えてくれば利益がでることになり、損益分岐点の満たないと利益がでるどころか損失をだすことになります。

売上高が損益分岐点未満であれば損失が生じることになり、損益分岐点を超えることで利益が生じることから「採算点」ともいわれています。

freee株式会社HPより

上記記事の記載の通り、損益分岐点とは支出と売上高が等しい状態を指します。新たに事業を始める場合は損益分岐点に達していない状態(=赤字)からのスタートになるため、より堅実的に事業を開始し続けていくためには、この損益分岐点のラインをあらかじめ「いつまでに」「どうやって」達成するのかを想定しておくことが必要になります。

学習塾ビジネスのモデルとは

「ストック型ビジネス」としての学習塾

続いて学習塾ビジネスの特徴についてご紹介します。
学習塾はいわゆる「ストック型」と呼ばれるモデルになります。
特徴としては一度お客様にご契約いただくと継続的な収入が見込まれるものであるという点です。
その反面で、単発商品の売買などの「売り切り型ビジネス」のモデルとは異なり売上を急拡大させることが難しいため、事業開始直後から成果が上がってくるまでにかなりの時間を要するという点には注意が必要です。

したがって、この「ストック型ビジネス」である学習塾経営では、事業を一度でも軌道に載せることができればその後は長期的に継続させることが比較的容易に可能なものの、売上が「損益分岐点」に達するまでの期間(=赤字の期間)を耐え切れるかどうかで、事業の成功の可否が変わってくるのです。

見立てを考える際の成長の変数について

売上について

学習塾は基本的にお客様から定額の月謝を頂戴する形で毎月の売り上げが発生します。(一部短期の講習代や教材代などの単発の売上も発生)
計算方法としては
例えばメイン層中学生の1コマを¥3000として設定し、
週1回の通塾で契約を取った場合
¥3,000×4週間=¥12,000 の計算式は成り立ちます。
つまり、この生徒の1ヶ月あたりの売り上げは¥12,000というわけです。

筆者の教室では、入塾時の保護者面談で週2コマ以上の通塾を推奨の上で
毎月の管理費を3,000円として設定していました。
そのため、生徒一人あたりの売上の計算式としては
(¥3,000×4週間×2コマ)+管理費¥3,000=¥27,000

となり、ここに高校生の場合などで値上げを加味して、
平均して生徒一人あたり¥30,000/月の売り上げが立つようにしていました。

また学習塾事業としては、上記のような月謝に加えて生徒に販売する教材代や夏期講習など単発の増コマによる売り上げが見込まれます。
しかしながら、個人塾の場合は市販の教材を使用することが多いため、教材販売での利益計上は難しいと考えています。また講習代については、生徒数の少ないうちは売り上げも見込みが薄いため今回の記事では割愛します。

諸経費について

学習塾で発生する費用はざっくり下記になります。

【固定費】
創立費や開業費など繰延資産の償却
└登記時の費用
└店舗の準備(照明や机、教室用教材など)
家賃と光熱費、通信費など
複合機のリース代
毎月の広告宣伝費
固定資産税など
【変動費】
人件費(教室の生徒数に応じて増加)
生徒に販売する教材の仕入れ

学習塾運営における一番のメリットとして商品を扱う事業と異なり
「仕入れ」にお金を使うことがほとんどないことが挙げられます。
生徒が増えるにつれて講師を雇うための人件費が必要にはなりますが、
事業開始直後の教室がまだ小さい段階であれば、経営者が自ら生徒指導に当たることも可能になるので、当然人件費もかかってきません。

筆者の教室経験上、大体生徒数が15名前後までであれば
教室長が一人で生徒指導に当たることができるイメージでした。
試算としては月間の売り上げが大体
15名×¥30,000/人=¥450,000 程度になってくる計算です。
この¥450,000の総売上から教室長の人件費や固定費や販促費の支払いが発生し、この段階で事業としてはやや赤字というような段階でした。

予算を考える

ここまでで学習塾運営におけるざっくりとした収支を解説しました。
これらを踏まえて予算の立て方について解説します。

そもそも

当然ですが、学習塾の年間売上の予算を考える際は
「(年度始めの生徒数 × 一人あたりの売上 ×12ヶ月) + (途中契約の生徒数 × 一人あたりの月間売上 × 契約期間 ) − ( 途中解約した生徒数 × 一人あたりの月間売上 × 契約終了時から年度末までの月数)」の式で計算することが可能です。
したがって、プラン内容や料金設定コンセプトを考えるためには、
①生徒数をいかに伸ばすか
②一人当たりの売上をいかに上げるか、
③いかに解約数を減らすか。

この三軸で思考することが必要というわけです。

(追記)長い目で考えると、、、「標準在籍期間」の考え方

また、事業開始2年目以降に目を向けてみると「生徒数×一人当たりの売上」の計算式に加えて、「標準在籍期間」を変数として予算を考える必要も発生します。ここでの「標準在籍期間」とはメインターゲットとなる生徒の学年に応じて何年の在籍を標準とするか定めたものになります。

例えば、高校生をメインとする学習塾とする場合在籍期間としては長くとも高1~高3年までの3年間になりますし、受験対策などのみを目指すのであればほとんどの生徒は高校3年生である1年間あるいは受験勉強が本格化する夏以降の7ヶ月程度の在籍となるわけです。
ちなみに、多くの学習塾では小学生の料金を低く設定していますが、
これは勉強内容の問題ではなく、見込まれる在籍期間が長いためお月謝を安い料金で設定しても後々しっかり利益が取れる見込みがあることを意味しているのです。

またターゲットとする生徒の在籍期間を踏まえて考えると、想定される生徒一人当たりの合計売上を算出することが可能になります。
この見込み売上から逆算することで、販促活動にかかるコストについてもよるクリアに検討することができます。

以上のような理由から長期的な予算や戦略を考える際はこのあたりまで考慮に入れながら考えてみるといいでしょう。

生徒数の変数

生徒数を表す計算式としては
「年度始めの在籍数+新規契約数+途中解約数」で成り立ちます。(先ほどの売上を考える場合ではそれぞれ別として計上しましたが、今回は人数の変数を紹介するため同じ計算式の中に入れ込みました。)

新規契約数を考える

新規契約数を求める計算式は 問い合わせ数 × 契約率 になります。
筆者は大阪の新開発の進み親子世帯の多い地域での営業だったので
ある程度ニーズも競争も激しかったという特徴ありきではありますが
大体チラシを1万枚撒いて1件の問い合わせが現実ラインでした。

具体的な数字としては、ポスティングや新聞折込などで毎月5万枚ほど配布し、大体5~6件の問い合わせというような状況した。
営業成績としては、ここできた問い合わせを60%前後の契約率で打ち返していたので結果毎月3件ほどの契約を獲得できるといった形でした。
(この成約率について当時筆者は大学生でセールス経験が全くなかったため、営業力には改善の余地しかない状態での成績であることは付け加えておきます。)

途中解約数を考える

途中解約数とは3月の卒塾を除いた退塾数のことを指します。
一部生徒の引っ越しなどの仕方ない場合もありますが
基本的には塾への不満などネガティブな理由によるものがほとんどです。
したがって、できる限りこの解約数を減らすために教室の雰囲気づくりをしていく必要があります。
また、この解約理由については生徒数などの教室のフェーズの問題や教室の雰囲気などによって理由が変動するものなので、教室を運営する上で最も気を遣うことが必要な部分であると言えます。
筆者の教室では、解約数を減らすために保護者さまとのコミュニケーションには気をつけており、他にもかなり神経質に教室運営をしていたつもりではあったのですが、30人の教室で2か月に1人程度のペースで退塾者が発生しててしまっていました。他の教室がどうかはわかりませんが、私はこの辺りの数値が現実ラインのように考えています。

まとめ

いかがだったでしょうか。
この記事では学習塾の事業を始める前に考えておくべき成長の見立てについて解説しました。
上記の各数字を用いて成長までの道筋を描くことで
事業の成功確率をうんと高めることが可能です。
損益分岐点を達成するまでの道筋を、先ほどお伝えしたような数字の立て方を用いて描き切ってから事業を開始していただければと思います。

学習塾の事業開始の相談なども随時受け付けておりますので
ご興味などございましたらお気軽にご連絡ください!
それでは!

この記事の著者

少しだけ自己紹介。ざっくりとした経歴はこちら
定期テスト5科目の合計が150点だった中学時代を経てどうにか滑り込みで大阪の私立高校(偏差値47)に入学。その後、関西学院大学文学部に逆転合格。大学では中学時代からの趣味の読書が転じてアメリカ文学を専攻する。学生時代から大手学習塾/家庭教師を数社経験したのち、個人経営の学習塾にて教室長として2年間従事。そこで教室の拡大及び黒字転換を経験する。現在は上場IT企業でセールスとして働きながら、YouTubeチャンネル「ヤマケンスクール」の運営に携わる。保有資格は普通自動車運転免許と小型船舶操縦士免許。好きな言葉は「成りあがり」

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