見出し画像

自選九十九首

人生ではじめてホームランをみたしゅんかん、俯瞰の俺がうまれた

あまぷらであにめ まだまだ頑張れば背中のあんたに追いつけるかも?

はじめてと今日をくらべてしまうのです キャットタワーがまだ置いてある

エレベータは夜の生き物 ぱくぱくと小さな私の望みを食べる

さびしくて道に落ちてたムーを読む 帰ってこないあなたが悪い

ベランダに出てみると西日が強い ふと、飛行機の絵を描いてみる

魔法瓶の中身もだんだんぬるくなるほどでも私は待てるんだから

秋になったらあんかけチャーハンたべるんだ にゃーが「おひさしぶり」に聞こえた

完璧な状態で会う計画がだんだん崩れてこうなりました

殺風景と言われて泣いてしまったらそれが私の混沌だった

明け方に私の一部を明け渡すみたいやっと瞼が閉じた

赤ちゃんにはちみつあげたらいけません この世では甘いものはどろどろ

ですますがプリンをゆらす 声は息 今日はなんとか外に出られた

かくれんぼは苦手なんですいつもすぐに見つかりたいと思ってしまい

自分の汗とおんなじくらい嫌じゃない汗を拭って、幻想的な

針のような前髪の男子高校生永く生きろよ、永く永くな

泣かないで 先週二度も燃えるごみ出すの忘れてしまっただけで

せんぷうき右を向くとき本棚のはみ出しているスピンがゆれる

インターホンが鳴るので出るとあのひとが果物いっぱい抱えたはった

去ったけどあのとき戻ってきてくれたこれで終わるの嫌だからって

てのひらがべたべたしてて嗅がせればパイナップルのにおいと君は

知ってるよ 残る彼らに違和感をいだかせたくはなかったんだよね

ひらめいたみたいな顔はたのしいのにすこしさみしいときの顔でしょ

岬から最も遠い岬までつまりおそらくここは月面

夏過ぎて秋来たっぽいあなたから急に手紙が届いたからね

波のよう 図書館のよう 皮膚のよう 知らないことを思い出すとき

おとといにつくった麦茶をのんでたら拾った猫の名前ができた

初対面のひとのサンダルからでてるつまさき見てるみたいなきもち

こんなにもかわいいあくびをみることはもうないのかなとか目借時

水槽のみなもに波はたたなくて思い出されるひとのやさしさ

人参のポタージュを飲みおわるまで戦争をはじめるのは待って

それ以外なんも憶えていないんだ君の日傘がめっちゃ黄色で

大文字のAを逆さにしたようなグラスをすこし曇らせる息

天然の冷蔵庫って感じだな しゃくしゃくしゃくしゃく冷たいスイカ

引き留めておくためだけの連絡だ それでもしないよりは楽しい

間違いがいくつあるのか教えてもくれない夜の間違い探し

予想より頼んだお酒が甘くって あまくって 追いかけて来ないかなあ

たまにある振り向く前にわかるやつ どっちにしても遠い遠い駅

新幹線みたいにまっすぐ行けるってどうして思えていたのだろうか

今までにわたしに優しくしてくれた彼らのキメラみたいのが来た

(ついていくのに精一杯な時期はつらいよね)チョコボールをあげる

さっきまでいた子がとても会いたいと言ってたよってなんで言うのよ

やわらかい雨ってこういうことなのか 食パンにジャム塗れてた昔

結婚が始まる夜に全員で爪立てながら剥く枇杷の皮

藍色の小皿に似合う枇杷の実を剥くとき少ししみる深爪

立っているだけで糾弾されそうな狭い広場に雪は降りつつ

絶妙に近くて遠いパスタ屋へふたり歩くよ月に二、三度

美談にもならない遊歩道だった 夜の葉桜だけ憶えてる

辞めそうな後輩がいて帰り道声を掛けられなかった話

北風と太陽 お盆とお正月 つまり一気に襲われる夜

飲み干せば軽くなる水 透き通る明け方みたいなイヤリングして

校庭の隅っこにある鉄棒のペンキをぺりぺり剥がしてた夏

またねって簡単に言う玄関を閉めて開けたらもういなかった

福岡の神社ふたりで行ったとき買った御守りゆれる終電

辻褄の合いすぎている説明をなんでそんなにすらすら言うの

マルチーズのマルは丸ではないけれどやさしいひとから順に消えてく

毎日一緒にいるためだけに生きているみたいな気持ちになりたかったな

朝焼けはやさしい魔法 いろいろなことをどうでもよくしてくれる

新緑の「匂い」と書けば「香り」より似合っていると褒めてくれたり

噴水のいろを忘れてしまいそう むかしのパソコンひらいてみても

上野かと思ってたのによく見ると横浜でした あれもこれも

呼びそうな形になった唇を見たくなかったような気もして

泣いていた 黄色のままの信号はほんとにずっと黄色のままだ

キャスターの甘い匂いを塗り替えて川面を殴る黒い夕立

自販機の前に立ってる男の子がどれを押すのか予想してみる

はだしすき とくにお寺の広間とか畳がいっぱい敷いてる床を

むかしから息継ぎするのがへたくそでそのせいで夏もきらいってわけ

まみず って言うときの口のひらきかた しばらく見てたかったんだけど

歯医者とかブックオフとか現像とか誰かの用事について行きたい

古本を買いすぎて帰り道が地獄 道に咲いてる花を撮れない

圧力がつくる私の輪郭をぷちっと破くように詩を書く

生きる歓びがあみだくじみたいに続いていってくれたらいいな

本棚を判型ごとに整理するより気持ちいいことを教えて

眼鏡したままでねむっている顔を味わってから外してあげる

慣れてきた顔して過ごす六月の気だるい感じ、嫌いではない

吸入器がむしろ私の魂の本体という気もしてきます

おもしろいTシャツを着ている人を数えていると近く感じて

いつのまにか自分を肯定することが上手になってしまうんだよね

転機って呼べそうな日が訪れるなら今日みたく晴れた日だろう

ぽんと抜くご当地サイダー 平日の浴びるばかりの生活の外で

詩を夜に書いてるうちは未熟だと自分で書いてみて白む空

四時間の映画のような白い夢 白い山 白い川 白い肌

あれは選挙の次の日だったから春と夏がクルン!と入れ替わった日

取られたと言ってしまえば被害者になれるんだけど つり革ゆれる

『フラジャイル』という歌集を読み終わりしゃなりしゃなりとたぶん歩ける

いつまでも遊んでたくて自転車のタイヤを浮かせたまま漕いでいた

ランダムな柄のハンカチ買ってみてぜんぶ気に入る柄だった夏

坂の上にいるあなたに見下ろされ象徴的なポジショニングだ

始まったときは恋かと思ってた 書いて憶えた偉人の名前

遠くから見ると踊っているみたい近くからだと確実にそう

ぼくらもうこどもじゃないし摑まれた手首の感じ 森の手前で

たくさんの写真のなかの数枚をすぐに見つける能力のこと

レコーダーにふきこんでいる言葉たち 聴き返すこと一度もなかった

いつまでもこういうふうには生きれない プラスチックの白い手ざわり

三時間経ったら切れるタイマーを三回かけても眠れない夜

時間による変化に弱いわたしたち、楽しめなかった夜の後悔

きみがいない その不確かな感触を忘れないでね ぼくもいないよ

僕は笑ってばっかりだった でもそれが僕のしていたいことだったから

ベランダから長枝ばさみで梅の木を整えている川沿いの人

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?