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連作短歌

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2023年2月の記事一覧

連作短歌「時差」

母親がいない代わりに原子力発電所にはお世話になった 充電がなくなりそうな携帯で貴方のいいね欄を見にゆく 電車から見えた朝日をおはようの代わりに海の向こうへ送る

連作短歌「吹き替え」

返信はもらえなくても自尊心の足しにしてもらえればいいです 弔電を見たことがないそれぞれの見たことなさでお花を燃やす 電話なら断られないと思ってた僕は相当うかれていたね

連作短歌「脱落」

同じことの繰り返しって言うけれど私はそれを愛しています なんの自信があってあいつは松山へ行ってしまって楽しい余生 正解でないことだけはわかってる道でわたしは忘れつつある

連作短歌「手鏡」

気に入ってもらうことにはもう飽きたなんて誰にも打ち明けてない 「ぎとぎとのとうもろこしをおぼえてる?」「失恋するたび泊まったサウナ?」 会えなくてしろくてかるくてつめたくてふるえていたらそれはもう雪!

連作短歌「スクラップ」

息切れがおさまらなくて二時四十六分の形で横たわる おっぱいのことを考えないようにしている二月三十九日 ほんとうは太もものほうが好きなのでカップヌードルを二個食べて寝る

連作短歌「起こりそうにないこと」

紫の峰に私が反射してすべて悟ったつもりになれる ここにきたひとを名前も性別も判らないのにまだおもいだす 会っていた時間の短さからすればこんなに打ち解けるはずもないのに

連作短歌「モメンタム/後夜祭」

気づいたらシャトルのバスの来るはずの時刻がすでに過ぎていた午後 泣くような気がする場所に行かなくちゃいけなくなって夜中に起きる 改札で顔を見つけた瞬間にお祭りだったポケットのなか