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連作短歌

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2022年12月の記事一覧

連作短歌「泥」

かわいそうだったあの子が今はもう手の届かない海岸にいる 服が汚れるとか洗い物が増えるとかその時だけは抜けてた わたし以外のすべてに飽きて抜け殻でしかなくなったあなたと出会う

連作短歌「甘露煮」

輪郭は線ではなくて指先の震えは誰のものなのだろう 溶けそうなほどの甘さと共感の思わせぶりにざらつく温度 ろうそくの炎に触れてみたいこと相談されて二人で泣いた

連作短歌「インセンティブが不足」

心身を委ねることがこんなにも不可能ならば産まれなかった 今更もう引き戻せないと思ってるみたいに隣を歩いてほしい とりあえず寝て起きてから考えるだけでなんとか過ぎる悶々

連作短歌「あとかた」

ひとごとのようになぐさめられているけれど欲しいのこれじゃなかった 忘れるほど近くにいても飽きるほど遠くにいても心なのにな いなくなる前にわたしのどのへんがだめだったのか叫んでみない?

連作短歌「のになあ」

笑いたいのになあ君とその他の人たちが混じり合って見失う 励ましてほしいみたいになっちゃって悲しくないのに泣いてるみたい ほんとかよって思っていたよ最初から分かっていれば楽なのになあ

連作短歌「快樂時光」

さざなみは搔き消されるということをみせつけられているような海 また別な気分が急に訪れて赤い水面は埋め立てられる お試しでいいのでみたいなダサいこと俺以外には言ったらだめよ

連作短歌「ホソクテナガイ」

慰めじゃないけどみんなぐちゃぐちゃに生きているって隠しているよ 遠くから想っているということのとても軽くて穏やかな息 行き方を教えてもらって階段をゆっくり静かに降りているだけ

連作短歌「勝手な話」

わかったぞオリエンテーションが足りないせいだよ。きみもそう思うだろ? 忘れものしながら会いにいったのに結局会えずに帰った話 わがままを言いたいそしてたまに気が合うならそれでそれだけでいい