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連作短歌

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2022年4月の記事一覧

連作短歌「パーレン2」

返信は無いとわかって(じつはほんのすこしだけ期待)投げつけてしまう ひますぎて途切れ途切れの音声を補いながら訊く幼年期 見出したければ(自意識)いくらでも立ち現れてくる(可能性)

連作短歌「フェンス」

祖母が言うには忘れても忘れても忘れていない言葉は残る ダンゴムシを数えていたら後ろから声が聴こえて両手をついた 園庭の滑り棒には背の低いあの子がいつもしがみついてて

連作短歌「山山山」

あしひきの山に行くのを全員が好きだったから予定を決めた 着信が来た瞬間に歩いてた有栖川宮記念公園 錠剤の音が楽しいポケットに手を入れたから交差している

連作短歌「澱」

半袖はまだアホやろとかゆってくる友とわかれて銭湯を出る 思い出すことができれば枯れ果てた水面のような言葉は残る 言わなくて後悔をしたことはなく言って後悔することばっか

連作短歌「つなぐぞー」

寝ることも起きてることも自画像を本気で描いた過去に勝てない バリバリの私であって生き悩む誰かではない 木の多い街 信じたい気持ちを漏らしてしまったら負けだが死ぬまで残れればいい

連作短歌「オートウォーク」

歩く歩道を見るだけでワクワクになってしまって栗で抑える あのひとがいまはなんにもしていないという噂でまぶたが重い アド街とタモリ倶楽部とブラタモリみるのがるーるなのか そうさ

連作短歌「パーレン1」

ほっとけば離ればなれに(わかっててほっとく)それから五年後に会う (はじまった)初めましてと美容師に(もう終わりそう)声を掛けられ 東京のいろんな駅を(指がきれい)見ろと自分に言うように言う

連作短歌「直喩2」

夏休みにプラネタリウムを観に行った二人のように自転車は飛ぶ 君が出たラジオのように何回も伝えてそれで諦めた恋 次の日の用事のために早く寝るような男と会えればいいが

連作短歌「直喩1」

何年も囚われている占いの言葉のように抱きしめられた 知り合いを忘れるような微かさの風に流れてしまう笹舟 ひきだしのおくにかくれていたながい赤えんぴつのような近さだ

連作短歌「夜のカタログ?」

旧友が今はもうない居酒屋でフカコウリョクってよく使ってた 先週の熱い気持ちが冷めきっている要領で来週を待つ あれ俺のダジャレが綺麗な先生をベンチャー企業に転職させた

連作短歌「建設中」

取り壊し予告の紙が何人も産まれて死んでもずっとひらひら 尽くすほど言葉の硬い手ざわりをほぐす仕方がもうわからない 切ってから掛けないほうがよかったと思う電話の実質0円

連作短歌「非通知」

友達がパジャマのように脱ぎ捨てて燃やしてしまう過去の親しさ 改札で見送ってから家までのショートカットに使う噴水 出ることも折り返すこともできなくてヒントを探す夜の非通知

連作短歌「かゆい」

ぼくからはすごく奇跡にみえるのに鳴り止まなくて押し込めている あまり目を見ないで話していてもこのレイアウトなら不自然じゃない 雨粒が車窓に当たってもういちど喋りたかったのを思い出す

連作短歌「あとで」

あたらしい趣味が見つかる瞬間の強い自分に伝言を残す 求められることを求めてしまう夜それを言いふらしてしまう夜 寝て治すと言い張るひとを見守ってときどき通過駅を寝過ごす