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連作短歌

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2021年9月の記事一覧

連作短歌「最適解」

プッチンプリンみたいに涙 これはちょっと見せたかったなという心は何 現実の八月三十一日も雨のち晴れで合っていました そもそももそもももももも夢のうちちちちちちょうどいい風

連作短歌「アレとこれ」

ほんとなら寝てた時間に降ってくる歌詞がこんなにこんなに良くて 何かに何かで何かを描いている音が向こう側からもう届かない きっと知らないんだと思う三角の交差点いまは工事中だって

連作短歌「ぶっちぎり」

はじめから絞られていた候補からさらに絞っているうちに今 噓だけど一瞬で黙らせるため選んだ言い回しの良い飛躍 大きめのほくろ一つにさっきからあちゃちゃ、手放す生き方の本

連作短歌「ストロベリーティー」

親指の爪がいちばんリアルです「ちちくる」という語の真面目感 炊き立ての米の匂いが脳内でつぶつぶしてる花火の季節 庭でジャムづくりをしたり新聞の社会面だけ熟読したり

連作短歌「自分……」

相談をしてみるときに試してるみたいに感じる自分がいます 逃げるのが上手な人を悪く言うことだけしない 長い夜には くるくるくるまわる自分を全員に見られていると思ったら違った

連作短歌「鳥がフレームイン」

砂時計あふれてはじける瞬間の鼓膜にとても優しい異音 バランスをたった一人で守ろうとしている朝の電線のゆれ 犬が集まってきている踊り場の窓から見えるどんでん返し

連作短歌「ひとりで考えているだけでだれもみていない状態」

自己という強い意識の外側を鉢植えだらけの庭に喩えて 地団駄を踏むのを我慢するために関係ないこと考えている 気を抜くとすぐ早口になってしまいそれを聞き取れるのは君だけ

連作短歌「高額な何か」

新卒の彼の生活水準のいつか帰ろう夢をわすれて 晴天と言えないような七割の今日の晴れかたくらいがいいや 宗教にはまれる人が羨ましいあと1分でAM4時か

連作短歌「Air」

君に優しい人はたくさんいそうだが僕はそれ以前の存在だ エアコンの穴をじいっと見続けて一時間二時間三時間四時間 真夜中のというかもはや明け方の窓を開けると聴こえたラジオ

連作短歌「レフティ」

本名を逆さまにしたアドレスに最後の一歩をゆだねてみたい 左利きとして生活する君のこころが鏡写しで遠い このことはおそらく真逆の解釈で流布するだろう 虹が百本

連作短歌「クロワッサンと味噌汁とセルフとトリビュート」

コロナ禍で大津祭がなくなったけれど今年は実家に帰る 黒じゃなく赤く染まった九月の夜、嵐の後のジョニー・ウォーカー 思うままにぶっきらぼうに詩を書いて気づけば汗が滴っている

連作短歌「近頃なぜか」

打ち明けることは怖くて雑談の声色だけが妙に明るく 徹夜して寝ずに高校行ったりさ呼び止められて喜んだりさ 真上から見ればすべては点であり、私も冷酷人間だった

連作短歌「外はいい天気」

宇奈ととでうな丼買ってきてくれた初夏のすべては初めてだった 無意識に水を替えてた花と花瓶 視力がよければ泣いちゃってたよ 言いそうなことがだいたい分かってくる金木犀がどこかで咲いた

連作短歌「涙の上書き」

中学の理科で習った液状化現象という愉しい言葉 ぬばたまの早寝早起きできた日の朝のテレビの意味なき光 肌に当たるあまつぶをぜんぶ吸いこんで茶化されながら哀しい予感