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連作短歌

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2019年9月の記事一覧

連作短歌「無花果」

秋めくやキャリーバッグがベージュ色 座っていれば行き着くところ 居ない部屋 夜がくるたびひらめいて古くなりゆく黒いカーテン 忘れ物したから先に行ってての本意を思う 無花果を拾う 秋の夜のカットコットン愛されているかわからん乾いた空気 九月尽写真に写真窓に窓 昔の映画に写るおばあちゃん

連作短歌「おかつぱにちようちんそでの爽やかに」

おかっぱにちょうちんそでの爽やかに風のともだち草にこいびと 僕たちの散歩は芝生の公園があれば休憩することになる バドミントンしてないほうのカップルが僕らで秋の風に歓声 コンビニを出れば夜。このコンビニは卒業したら来ないコンビニ 髪の毛を乾かしながら言うことじゃないと思うし僕の部屋だし ともだちにもどれるのかなこの夜はサワークリーム味のゆびさき ふじばかま風に吹かれて過去になる あいづちのない会話のように

連作短歌「牛腸茂雄/風の作法」

見るは入る 知ってるような息切れと知らないような風のきもちよさ 産まれたら双子だったら鏡見るときにびっくりするんだろうな 風になった私とここで分岐して私は私で歩き続ける 手の大きい女性に抱きしめられていたような五感の澱だけがまだ 一本の毛糸を輪っかにした指が川を蝶々を風を生みだす 私以外あっち向いてる瞬間に誰かが鳴らしたシャッターの音 さっき見た落葉はずっとそこにある 塵になるまでずっとそこにある この視界どう考えても私のじゃないんだ、け、ど、な、雲。が。灰。色

連作短歌「畦地梅太郎/九月の空気」

歌いだす一瞬前のような眼でこれから登る山を見上げて 見えるものと見えないものが滲んでく滲んで遠い山の呼ぶ声 複数であるということ この星がふうわり浮いたような鳴動 噴水を囲む九月の空気たち 九月の空気を噴水が囲む 静かさと一緒に立っているような濃い緑濃い青あとりえ・う

連作短歌「一倍速で」

今まさに君が歩いているような道のようだな一倍速で 立ち止まる大きな人と小さな人そばにいて鼓動が聴こえそう インタビューパート十六倍速で飛ばされてゆくそれらも言葉 真っ白な一瞬ののち歩きだす風の声たち朝の鳥たち くちぶえをふけない森の棲みかから飛び立つ瞬間を歌にして