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『硬直マインドセット』と『しなやかなマインドセット』

1.はじめに

 ずいぶん長い間私の中でモヤモヤしていた疑問がクッキリと理解できるようになったので、そのきっかけになった本をご紹介します。

『マインドセット「やればできる! 」の研究』キャロル・S・ドゥエック (著)』 草思社刊

です。

2.私がモヤモヤしていたこと

 自己啓発の本には2系統が存在すると私は思います。

(1)素晴らしい原理を教えます、これを身につければ幸せになれます系

(2)とにかく行動しましょう、走ってから考えましょう系

 これに著者の自慢話や、心理学的エピソードをまぶせば一丁上がりです(偏見?)。いずれの言っていることも一面の真理ではあると思います。しかし(1)では方向を示してはいますが、どう走ればいいかわかりません。(2)では走れとは励ましてくれますが、どこに向かって走ればいいかはわかりません。じゃあいいとこ取りをすればいいじゃないか、と考えるかもしれませんが、そんなに簡単にはいきません。高校生の頃からこれまで、古典から最新刊まで色々読んではみましたけれど、つぎはぎで対処できるほど人生は甘くありません。また理性だけでは全く不十分です。それこそ、人生の謎?に迫るべく私は学問の世界を目指しましたが(若干短絡的すぎ(笑))、20年間の苦闘の末に得られたのは失望だけでした。人生は理不尽ですし、努力は必ずしも期待していたようには報われません。これは他の記事にも書いたので割愛しますけれど、人生はそういう風にできています。

 さて私は2つの点でモヤモヤしていました。一つは自己啓発本は生存者バイアスが掛かったものばかりではないか?という疑問が沸く点。もう一つは欲望の取り扱い方が両極端なものばかりだという点です。欲望の中でも私にとっては承認欲求が悩みの種でした。ここで人間の三大欲求と言われる性欲、食欲、睡眠欲に焦点を当てるのは避けておきます。これらは本能に根ざす欲望なので根本的な制御はできないと考えるからです。

3.マインドセットの問題

 マインドセットというのは考え方の型みたいなものです。その中で『硬直マインドセット』というのは、「自分の能力は石版に刻まれたように固定的で変わらないという信念」です。これに囚われると自分の能力を繰り返し証明することを生きがいとしてしまいます。つまり自分の存在証明は固定された才能の誇示によってのみ得られるという考え方です。これに対して『しなやかなマインドセット』というのは、「人間の基本的資質は努力次第で伸ばすことができるという信念」です。「持って生まれ た才能、適性、興味、 気質は1人ひとり異なるが、努力と経験を重ねることで、だれでもみな大きく伸びていけるという信念です」(以上、上記書籍本文1章からの引用)。能力を伸ばせるなら「現時点の能力」を他人に示すことにこだわる必要がありませんよね。前者のマインドセットにハマると上手くできるとわかっていることばかり繰り返すことに終始してそこにエネルギーを使ってしまいます。そして新しいことに挑戦して失敗することを怖れるようになります。一方後者のマインドセットを備えているならば、上手くいかなくても粘り強く頑張るはずです。また挑戦に失敗してもそこから学ぶという態度に繋がります。

 簡単に言えば、承認欲求は前者のマインドセットの結果です。つまり「『私』が優秀なことをみんなに認めて欲しい」というのは、固定された『私』というものが前提となっているのです。承認欲求はマズローの法則の第四段階にあたりますが、その基礎となっているものは、硬直したマインドセットなのでした。そうすると、第五段階である自己実現欲求とぶつかるのですよ、これがキモです。どういうことかというと承認欲求は現時点の自分の価値を認めて欲しいという目標にとどまるのに対して、自己実現欲求はそれとは質の違う段階を求めることになるので、食い違ってくるわけです。どちらの欲求にしたがってよいかわからなくなるということです。普通はこれらを混同して訳のわからない状態になるのですが、マインドセットの考え方を応用すればすっきりわかります。たとえて言うなら、

(1)硬直マインドセット:昆虫のような外骨格で身体を支える→自分の殻で、自分の成長を阻害することに繋がる

(2)しなやかなマインドセット:内骨格で身体を支える→骨格が支えられる限り無制限に大きくなれる

ということですね。外敵(失敗)に対しても、硬直マインドセットの方が防御する固定された殻(プライド)があるので一見強そうですが、いったん破られると脆いわけです。

 硬直マインドセットは人生のある時点まで、良い意味で生きる目標を与えやすい考え方です。しかし自分が何らかの価値観のなかで「価値ある人間である」と思えないと生きていけないので、なんらかの挫折を経験するとそれを認められず、現時点におえる自分の能力証明に全力を注ぐことになってしまうわけです。本来ならば挫折を乗り越えるために力を溜めるべきエネルギーが全部、自己証明のエネルギーに費やされてしまうということになります。私自身この罠にハマって長い間苦しみましたからその無意味さは体験済み、です。

4.じゃあどうすればいいのさ?

 さて長々と書いてきましたが、まとめましょう。しなやかなマインドセットの立場に立てば、「人は変われる」のです。なんらかの固定した資質のみで生きるわけではないので、工夫次第で挫折や失敗から学んで方向を変えて進むことができるのです。この工夫、テクニックも結構大事なんだということに思い至ると、人生が楽になります。絶対的な原理、価値観に沿った行動を探すよりも、その場で変化してしなやかに障害を乗り越えていくといったイメージでしょうか。じゃあどうすればいいのさ?と問われるかもしれません。このときに参考になる手法の一つが、うつ病の治療で使われる「認知行動療法」ではないかと私は考えていますが、それについての話は、また稿を改めましょう。ここでは下記の本を紹介するにとどめます。

「〈増補改訂 第2版〉いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法」 デビッド・D.バーンズ (著) 星和書店刊


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