感想: 映画 鋼の錬金術師「最後の錬成」

 人は誰しも、己の人生に決着を付けなければならない日がいつかやってきます。バカだな。また来たのか。

 見ました。三部作全てを見届けました。私は今とても強い満足感に満たされています。なにか大きな仕事をやり遂げたあとのような。己の人生に決着が付いたような。清々しい気持ちで、私は中指を突き立てています。
 この感想は「鋼の錬金術師」「鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー」「鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成」3作のネタバレを含みます。全てについて言及します。見てない方は見てから読んでください。大丈夫。たった6時間だ。

 ネタバレの少ない感想としては、
・一作目の破綻が最後の最後まで響いた
・それでも二作目で持ち直そうとした努力はとてもよく見えた
・しかし三部作でハガレンは無理、尺がなさすぎる
です。

 私のスタンスは「単体で見れば失敗実写映画だけど、一作目のカスっぷりを考えるとかなり反省して頑張ったんだなという痕跡が見られた。この点に関してはとても良かった。でもやっぱりダメなものはダメだった」





「最後の錬成」の感想

 一作目でめちゃくちゃに破壊した鋼の錬金術師という物語をなんとか完結に向かわせようという意気込みが強く見えました。ただ、やはり一作目でやりすぎたのが大きく響いているな……と思いました。いや本当に。マルコーさん殺しちゃったの最後の最後まで響いてるじゃん。大泉洋とか小日向文世とかそれどころじゃない大問題がいっぱいですよ。本当に。

鋼の錬金術師RTA

 「復讐者スカー」から続く「鋼の錬金術師をなんとしても完結させよう」という意志。必要最低限のキャラクターを出し、フラグを立て、イベントを進める様はまさしくRTA走者です。

 南方に行かないのでグリードは既に一度死んだ状態からスタート。イズミ先生も「最後の錬成」で突如参戦します。それらも仕方ない。南方行ってる暇がないんだもの。
 とはいえ、デビルズネストもないのでグリード覚醒イベントが起きないのはどうなるんだ? と思いました。答えは「グリードが勝手に動き、即座に離反する」でした。は?

 個人的にRTA感が半端なかったのが「最後の錬成」のエンヴィー戦です。一作目で既に「ヒューズの仇だ!!」と叫んで焼き尽くしているので、今更何するの? 感はありましたが……。
 エンヴィーの煽りに即ギレする大佐。瞬殺されるエンヴィー。そこから始まる間髪入れない名言集パート。「こいつはヒューズを殺したんだぞ!」から「エンヴィー、お前は人間に嫉妬しているんだ」までが爆速の流れです。デビルマン(実写)の「私は魔女よ!」から「私は魔女なんかじゃない……」と同じくらい。誰かが台詞を言えば間髪入れずに次の台詞! みたいな勢いで、感動的シーンが消費されてゆく様は圧巻です。切り抜き動画じゃねえんだぞ。いや本当に……。原作の台詞なぞればいいってもんじゃないんですよ。

 それでも、一作目よりはとても良いのです。良くなったんです。反省したのかな? 一作目がコスプレ大会だとかお遊戯会だとか色々叩かれていましたし、実際私自身も叩いてましたけど、あれから5年経ったんです。このプロジェクトが動く際に「どうやって完結まで持っていけばいいんだ?」と悩まれたのだろうなと思いました。まあそのツケを一生払ってるうちに払いきれず終わっちゃった感がありますが。

RTA化の弊害

 でもRTAすれば良かったのかといえばそういう訳でもねえだろって話なんですよね。そのおかげで「現在出ているキャラクターと限られた上映時間で、原作の話を再現する」ためには諸々省いたり消える箇所が出てきます。あと、各所の繋ぎが雑だったのもなーと……。「復讐者スカー」がまだギリギリ上手だっただけに残念さが強いですね。

 「復讐者スカー」でエドとリン、エンヴィーがグラトニーに飲み込まれて終わりましたが、エドがクセルクセスの壁を見つけた瞬間即停戦。なんの伏線もなく寺田心君がプライドだと発覚する。突然プライドに身体を乗っ取られているアル。プライドが地面のドームから信号を送ったあと、助けに来たグラトニーをそのまま捕食。しかもアルはそのまま放置(人柱だからしょうがないけど)。なんだこりゃ。もうちょっとなんかなかったんですか?

 見ててグリードの離反が一番気になりました。かつての部下を殺して「仲間を手に掛けるとはどういう了見だ?」とリンに激昂され、お父様達から離反するシーン、あれ良いですよね。映画だと全カットです。そもそもかつての部下いねえもの。
 その結果、リンにグリードが移植されたあと、スカーとメイによってお父様の元を離れる際に「なんかグリードもいなくなってた」となり、隠れ家に現れて「俺はお父様とは手を切った」と突然言い出します。なんの情緒もねえ。
 リンがグリードを受け入れる際もあっさり受け入れますし、リンとグリードが対話するシーンもないので、最後の最後に「グリードがお父様に吸収され、リンをかばう」シーンが全然ぺらっぺらに見えてしまう……。グリードがただただ「なんかいいやつ」で終わっちゃいました。なんで?
 あと、金歯の医者がいないので最後にグリードが自分の賢者の石をリンに渡していました。あれなんなの?

 イズミ先生もなんか偶然出てきてたまたまホーエンハイムと出くわしたために参戦する……みたいな具合です。馬車に乗る時イズミ先生がいなかったらリセットです。
 あと、イズミ先生に対する唯一の(そしてかなり大きな)不満があるんですが、どうして「主婦だッ!!」じゃなくて「主婦ですッ!!」になってるんですか? 原作なぞるんならそこもなんとかしてよ……。

 そういえばですが、本田翼(ウィンリィ)がブリッグズに召喚されて「私がいるとエドやアルの足を引っ張っちゃうの……?」と恐怖するシーン。あれ、一作目見返してこい。とにかく各所ほっつき歩いてラストの人質にされたり大泉洋の人質にされたの忘れたんですか?

 キンブリー? 出ません。美しくないですね。プライドは瞬殺です。心君のザ・子供演技感がなー……。

 ああ、それから一番最後の問題なんですが……。一作目でドクターマルコーが死んでいるんですよ。ドクターマルコー、最後の最後に重要な役目があったのに。あと個人的には「作り方を知っているということは、壊し方もしっているということだ!」は見たかった。
 大佐の視力を戻すためには、賢者の石とドクターマルコーが必要なのに、そのどちらもありません。どうするの? と思った矢先……。どうにもしないとは思いませんでした。マルコー先生の代わりになる人もいなかったものね。大佐の視力はもとに戻りませんでした。まあこの世界線だとハボック少尉が五体満足なので等価交換ってことですかね?

それでも一作目から巻き返した

 いやこれは本当です。「最後の錬成」が公式ファスト映画だなんだと言われようとも、へにゃへにゃのアクションと原作のクソパッチワークで作られた一作目をなんとか巻き返したんです。「復讐者スカー」を見た際に文句言えなかったもの。演技がどうとかツッコミどころはちょいちょいあったけど、悔しいくらいに「面白かった」んですよ。もちろんクソ映画ばっかり見ているやつの話なので、たぶん皆さんの感性に照らし合わせるとそうはならないと思いますが。それでも。悔しかったんです。あのクソ映画がここまで成長したのかって気持ちが。
 そうして迎えた「最後の錬成」、まさしくRTAの集大成でした。原作なぞってるだけでいいだろ、確かにそう思ってました。原作なぞってるだけじゃ駄目なのかもしれないな……となんとなく感じていますけれども。それでも。

良かったところ

 この映画を、鋼の錬金術師をやり遂げた、に尽きますよね。流石にもっと書きます。

 お父様が神を降ろすシーン、フルCGでかなり格好良かったというか、おぞましさをちゃんと出しているなあと思いました。全体的にCGは前回前々回より違和感減ってます「復讐者スカー」の無限貯水タンクはアレ何だったんですかね。

 キング・ブラッドレイ(舘ひろし)は本当に良いキャスティングでしたね。「クランクアップしたけど話がよく分からなかった」というコメントがニュースで流れた際にはビビりましたが、全然違和感なく見れました。

 あと、妙なところ原作再現度が高いんだなと思いました。個人的に、アルが取り戻してくれたエドの腕が、爪伸びてるのちゃんと再現してて「おおー」ってなりました。

その他ツッコミどころ(箇条書き)

・メイが天丼でボケかますの、シリアスブレイクしすぎていていらなくない……? とおもいました。「研究書がバラバラに……バラバラ?」「なにか裏があるはずだ……」「裏?」のあたり。
・作中で「お父様」のことを「ホムンクルス」でなく「フラスコの中の小人」と読んでいたのが気になる。原作だとルビでホムンクルスって振ってるよね?
・スロウス戦の「友よ!」「立て!」は見たかった。そもそも旦那さん戦わなかったし、スロウス戦がほぼ瞬殺だったもんなー……。
・フー爺さんの特攻が本当に破れかぶれ感あって「いやこれは勝てねえべ……」って思っちゃった。
・門を守るリンとグリードのシーンが格好良いのにそこ全カットなのが悲しい。
・キング・ブラッドレイの奥さんへの言葉のシーンも、そもそも奥さんほぼ出てないからカットだもんなー……。
・そもそもメイの喋り方だけ浮いてて違和感。これは「復讐者スカー」からずっと思ってる。
・それでも……お父様戦からは原作ほぼノーカットなのが良かったと思います。大佐の手合わせ錬成を実写で見れたのは面白かった。

 鋼の錬金術師の実写映画化、やっぱり尺の問題でカットが多すぎるんですよね。4部作ならまだなんとかなったのだろうか。たぶんならない。

見終えた今、思うこと

 それでも鋼の錬金術師、「復讐者スカー」も「最後の錬成」も面白かったんですよ。見に行って良かったって思ってます。
 なぜかと言えば、間違いなく公開3日目くらいに一作目を見に行ってブチ切れて帰ってきた2017年の私がいたからです。それがなかったら、今作だって見ることはなかった。

 あの映画がここまで持ち直して、巻き返して、面白い映画になったんですよ。それだけで私は見て良かったと思う。人生に決着が付いたんです。面白いものを見た喜びと、あの映画が……という感動と、そもそもハガレンの実写化なんて無理だっただろふざけんなという中指突き立てたい気持ちと、全てが入り混じって、満たされているんです。

 もう、私には正当な評価なんて出来ません。この映画を中立な目では見れません。クソクソ言いながらも人生最大級の賛辞を送るような、そんなスタンスに私は立ってしまった。もう戻れやしない。
 でも、これを読んでいるあなたなら、この映画に☆ひとつから☆5つまでのいずれかを付けられることでしょう。頼む。鋼の錬金術師を見てくれ。一作目も、「復讐者スカー」も「最後の錬成」も。たった6時間だ。FA見るより短い。なんなら一緒に見よう。頼む。きっとあなたも、見終えた後には拍手を送りたくなるはずだから……。

 ということで、全部見てください。一作目はレンタルできます。映画館行くより安いぞ! 「復讐者スカー」「最後の錬成」は映画館まで見に行ってください。「復讐者スカー」はまだギリギリ映画館でやってるみたいです。立って歩け、映画館に進め、お前には立派な足があるだろう?

最後に

 山田涼介の乳首が見れる映画はおそらく「最後の錬成」だけだ。見に行こう。

適当に作ったグラフですが、本当にこんな感じです。


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