コトコトことでん/赤い電車(ver.追憶の赤い電車)
2020年12月25日にリリースされた「くるり」の両A面シングル「コトコトことでん/赤い電車(ver.追憶の赤い電車)」。「くるり」のボーカル岸田繁さんと言えば音楽界きっての鉄道ファン。「タモリ倶楽部」に出演した際にもモーターを聴くために床にへばりつくなど「ファン魂」を発揮するほど。
このシングルの舞台は「ことでん」こと高松琴平電気鉄道。ことでんの風景を歌った「コトコトことでん」、そして、過去にシングル化された「赤い電車」のアレンジ版「赤い電車(ver.追憶の赤い電車)」。これら2曲を聴いての僕の感じたことを綴る。
ことでんとは
まずは分からない方のために「ことでん」について軽くご紹介。「ことでん」は正式名の通り、香川県高松市と同じく琴平市を結ぶ琴平線を軸に瓦町駅からは屋島など海沿いを通って琴電志度に至る志度線と四国八十八ヶ所の1つ長尾寺の最寄り駅長尾駅に至る長尾線の3路線からなるローカル私鉄。元々の目的だった「こんぴらさん」こと金刀比羅宮への参拝路線としての性格のほか、高松近郊の通勤通学輸送、高松市のショッピングゾーンである瓦町や片原町へのお買い物など多種多様な顔を見せる。
車両は路線ごとに色が分かれていて、琴平線が黄色、長尾線が緑、志度線がピンクを纏い、各々白とのツートンカラーとなっている。また、京急や名古屋市営地下鉄、京王電鉄から譲渡された車両が現役で走っている姿や90年以上動き続ける大正生まれの旧型電車などファンにとって見どころのある鉄道だ。
コトコトことでんfeat.畳野彩加
タイトルトラックで元々、2011年にことでん100周年記念のイベントで披露したもの。以前から瓦町駅の発車メロディとして採用されていたが、今回初めてCD化される。ゲストボーカルには「くるり」と同じく京都を拠点にしているバンド「Homecomings(通称ホムカミ)」のボーカルギターの畳野彩加さんを迎えている。
曲の冒頭、間奏、終盤には実際にことでんで聴くことができる駅の自動放送と雑踏が収録されていて、この時点で岸田さんらしさと「ファン魂」を見せてきてくれた格好。さらに「コトコトコトコト」というリズミカルな歌詞が心地よい。
ここからは歌詞を元に自分なりのストーリーを推察する。
初めてのデートどこ行こうか考えながらことでんに揺られ、瓦町で待ち合わせてから片原町でお買い物。「うどんもお茶もいいけれど君の笑顔が嬉しい」という幸せながらも地元らしい風景を描写した歌詞。志度線で屋島に向かい登山。頂上から見える瀬戸内の青い海を眺めて、「恋のカケラ」を拾い、最後は歳をとって、じいちゃんばあちゃんになっても「終点まで乗って旅をしよう」「四国八十八ヶ所」をいつものことでんで巡ろうよと語り合っている光景と長尾線の終点近くにある長尾寺の描写を描いて曲が終わる。
今までことでんに乗ったことがない僕だが、聴いていて、地元の人だったら見慣れた風景が浮かんできて泣けるだろうと思う。そして、聴いているとことでんに乗りに行きたくなる。
ゲストボーカルが僕が好きなホムカミの畳野さん。優しいメロディと優しい歌声がマッチしている。大好きなホムカミが歌う鉄道ファンが作った鉄道ソングはもうゾッコンになってしまった。
ちなみにPVも制作され、吉本所属の「ママ鉄芸人YouTuber」鈴川絢子さんが出演している。プラレールレイアウトの動画で話題になったYouTuber松岡純正さん監修の元、プラレールで高松築港駅、片原町駅、瓦町駅といった主要駅と2020年に開業した伏石駅の風景を再現、撮影用に特注したことでん600形と1080形のプラレールと「還暦の赤い電車」京急1000形を走らせている。片原町駅近くの商店街のアーケードがリアリティあって、非売品ながらことでんのプラレールも精巧だ。その他、実写の車窓風景も挿入されている。
赤い電車(ver.追憶の赤い電車)
2005年に発売された「赤い電車」。京急からの依頼で制作され、くるり出演のCMソングや品川駅、羽田空港駅の発車メロディとなった。この曲をリミックスしてアレンジしたのがこの楽曲。ことでんには1080形と1300形という車両が在籍していて、製造時期のタイプ違いだが、いずれも同じ顔で京急では1000形(初代)を名乗っていた。ジャケット写真の表には琴平線カラーの1080形、裏にはクラウドファンディングで実現した京急の復刻カラー「還暦の赤い電車」がイラストで描かれている。ちなみに「赤い電車」のジャケット写真もこの1000形のイラストが採用されていて、原曲に繋がっている印象がある。
ポップでさわやかな印象がある原曲に比べ、グルービーでシティポップな雰囲気。コーラスも加わりカッコよく仕上がっていて、違う曲のような雰囲気である。歌詞には「ドレミファインバータ※」の音のオノマトペもそのままだ。ただ、1000形のことを表現しているからか原曲に入っていた「ドレミファインバータ」のモーター音はないものの、音楽的遊び心があって聴いていて楽しく感じる。
この曲のPVは原曲のものがほぼ流用されていて、三崎口から品川へ向かう2100形快特電車の前面展望には当時京急で現役だった1000形と多数すれ違う。
※京急2100形と1000形(2代目の初期アルミ製車のみ)、JR東日本E501系で採用されたドイツ・シーメンス社製のモーター。エンジニアの遊び心によって発車するときに音階のような音が鳴るようにされたからそう名付けられ、「歌う電車」とも称される。しかし、更新工事で日本製のモーターへの取り替えが進み絶滅寸前となっている。
ここまでレビューしてきましたが、いかがでしたでしょうか。香川県は特急「しおかぜ」の通過だけでことでんは乗ったことがない僕ですが、関西からも距離的には近い場所で、バラエティ豊かな車両が在籍していて楽しそうな鉄道やなぁ…と思います。ことでんに揺られながらこれらの2曲聴いたら絶対合うやろなぁ…とも思います。加えて「コトコトことでん」のゲストボーカルが大好きな声で非常に嬉しくて癒されます。
加えて、岸田さんらしく駅放送を曲にぶっこんだり、初回限定盤は価格がことでんの形式名にちなんで1080円だったり、ことでんと京急双方の駅メロが収録されているなど非常に遊び心があって面白いなぁと思います笑
CDは全国のCDショップの他、京急とことでんの売店でも取り扱っているそうで、各種「サブスク」サービスでも配信しています。気になった方是非聴いてみてください。
この記事が参加している募集
ストリートミュージシャンの投げ銭のような感覚でお気軽にどうぞ。