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君が絶賛するエコは本当に環境に優しいのか

 こんにちは、いづつです。新しく環境問題のカテゴリとしてマガジンを作りました。この話題にも突っ込んでおきたいことがよくあるので、思うことがある度に書いていきますのでよろしくどうぞ。

■環境問題は領域が広すぎて複雑

 下記ネット記事に絶賛のコメントが並んでいたので、いわゆる不都合な真実を突きつけるコメントを投稿したらそれなりの反響をいただいておもしろいと思いまして。

(後日追記)下記の記事でも同じようにたくさんLikeをいただきました。

 最近流行りのプラスチック削減の煽りを受けて環境問題に大衆の意識が集まるのは結構なことです。しかし、環境問題というのは側面が非常に多く、いま思いつくままに書き出すだけでも、プラごみ、温室効果、天然ガス、石油、自然エネルギー、排ガス、光化学スモッグ、PM2.5, 森林伐採、砂漠化などなどとても多岐にわたります。ここで強調しておきたいのが、これら多様な事象はすべてサイエンスでつながっているということ。あるひとつの側面を見て改善したように見えて、他の側面が悪化しているなんてことがざらにあります。これら環境問題すべてに精通する専門家はきわめて稀で、不均一触媒という分野で10年以上やっている私でもエネルギー、石油化学、排ガスあたりが得意ですが、せいぜいその程度です。環境問題というのは、それくらい幅広い世界なのです。

 そしてこの広大な専門分野に、サイエンスの心得のないビジネスや政治が参入してきます。彼らは悪い側面の可視化や定量化が難しいものを、意図する・しないに関わらず選び、その点には触れることなく良い側面だけを強調して見せるということをします。私に言わせれば詐欺同然であり、極めてたちの悪いことです。

 サイエンスにある程度精通している私のような人は、その目につきにくい側面に気が付きやすい。例えば毎朝乗っている電車がどういうエネルギー伝達の結果走っているのか具体的にイメージできるので、乗車率が高くなりすぎるとかえってエネルギー効率が悪くなることに気が付きます。冒頭のプラスチック容器の例では原料から製品になるまでの工場の加工過程が想像できるので、そこにたくさんの石油や天然ガスが間接的に投入されているのが予想できます。しかし、大部分の人たちはサイエンスなんてわからないので、気づきさえしません。最もTVをよく観る茶の間の専業主婦こそいいカモです。だから私のようにエネルギーだとか生産ラインのような「見えないものが見える」人たちは、見えない人に教えなければいけないと思っています。

■環境保護と言いながら環境破壊している残念な事実

 ということで、見えない人たちにとってはショッキングなことかもしれませんが、世間的に環境に優しいと言われていることに残念な事実をいくつか突きつけてみましょう。

(非エコ1)マイバッグで買い物をしてレジ袋を減らそう

山、河川、海にこのようなプラスチックが流されてしまうと、からまったり飲み込んだりした自然の生き物が苦しむことになります。レジ袋の総量を減らすことは環境保護になるので、有料化強制はいい流れだ。

 私に言わせれば、悪い流れです。これは何の環境問題の解決にもならないので、ただの政治による価格操作という悪行です。

 当たり前すぎる話ですが、スーパーで買ったものには大きさがありますよね。そしてその大きさに比例して家庭ごみがでます。その家庭ごみは、どうやって捨てるのでしょうか。レジ袋を有料にして、何らかの方法でレジ袋以外の方法で持ち帰ると、ごみを入れる袋がなくて困ります。だから、レジ袋の代わりにスーパーの消耗品売り場にあるポリ袋を購入しなければいけません。そう、結局人々が消費するポリエチレン製の袋の総量は変わらないのです。

 レジ袋は自然に捨てられやすいけど、束で買ったポリ袋は捨てられにくいということでしょうか。そんなはずはないでしょう。バーベキュー場に行けば風で飛ばされたらしい大型のポリ袋を必ず見かけるものです。白いポリ袋のほうが流通量が多いから白いポリ袋が問題のように見えるだけです。

 そもそも論として破綻した話だということに加えて指摘しておきたいのが、レジ袋を2円かけて買わずに済むように買い物用バッグを買うという愚行。もともと持っているバッグならいいのですが、わざわざ買ったら本末転倒です。というのは、例えば200円のバッグを買えば、そのバッグの原料、加工、販売までに200円相当のエネルギー、すなわち石油が使われているのでエネルギー代とCO2が前払いされているからです。そういう安いバッグというのは大抵ポリエステル製の石油100%素材で、レジ袋を100枚買うのとほぼ同じです。コットン製ならいいじゃないかと思うでしょうか。しかし、そのバッグは500円くらいしませんか。同じ理屈で、麻を育てて加工するために必要な化学肥料や石油の量が500円相当ということなので安いポリエステルバッグよりもっとエネルギー代とCO2の前払いが多くて悪質ですね。ポリエチレンのレジ袋250枚相当のコットンバッグ1枚で200枚入りポリエチレンのごみ袋を買って帰るとか、なかなかのエネルギー浪費家です。

 よってこの自然の動物を守るという目的のためにできることは、「レジ袋を買わない」ではなく「ごみを出さない」これに限ります。できる人はやりましょう。

(非エコ2)太陽光発電を使って火力発電を減らそう

再生可能エネルギーって、素晴らしい。石油や天然ガスは有限だしCO2を排出するから、例えば太陽光発電で火力発電を代替できるのはいいことに決まっている。

 残念ですが必ずしもそうではない、というかほとんどの場合、太陽光発電は火力発電よりCO2を多く間接的に排出しています。「間接的に」と書いたのが肝で、出来上がったソーラーパネルはCO2を排出しませんが、ソーラーパネルを作る過程で大量のCO2が前払いされている事実があまり知られていません。

 ソーラーパネルは高度な技術の塊です。複数の素材の薄膜を重ねて成るものですが、とても繊細なのでその素材作りの段階から精度の高い加工を要します。例えば純度を高めるために熱や電気を使い、重金属化合物を含む排気ガスを処理するために水を使います。挙げればきりがないほど生産ラインには資源とコストがかかっています。それはすなわち、大量のエネルギーがこの時点で消費されてCO2を排出しているということです。

 そのエネルギー消費がパネル価格や電気料金に表れています。ソーラーパネルって高価ですよね。何のサポートもない中でこれで発電してもパネルが寿命を迎えるまでに元がとれません。だから、政府がソーラーパネル購入に補助金を出し、かつそれで生み出された電力は指定した割り増し料金で電力会社が買い取ることを強いてようやく成り立っています。ちょうど最近、固定価格買取制度の企業向けが終わることが決まって、この分野に精通している人は安堵のコメントを寄せています。

 太陽光発電というのは、パネルを買った時点でエネルギー代とCO2を前払いして、パネルが寿命を迎えるまでにその前払いしたエネルギー代とCO2を回収できないということです。お金だけは政府のサポートのおかげで前払いしたぶんを回収できるから、ビジネスとしては成立するという仕組み。

 普通の人がこういうことに気づかないのは当たり前です。だってソーラーパネルの製造プロセスなんて見たことありませんし、勉強したこともないし、想像ができませんから。でも私たち技術屋には見たことがなくてもある程度のイメージができますから、こうやって警鐘を鳴らす必要があるのです。

(非エコ3)ハイブリッドカーに乗り換えて燃費を改善よう

ハイブリッドカーは、ブレーキ時に車の運動エネルギーをバッテリーに蓄えて、アクセル時に使うことでStop & Goの燃費を改善する素晴らしい技術だ。多少高価になることが問題なら、政府はもっと補助金を出すべきだし、エコを意識する人ならこれに乗り換えない手はない。

 これも残念ながら9割以上のユーザーにとっては非エコです。理屈は太陽光発電と同じで、ハイブリッドシステムとバッテリーを含めた1台の自動車のためにお金とCO2を前払いしておいて、廃車になるまでに乗っても、お金は元がとれてもCO2は元がとれないということです。バッテリーの技術は日々進歩していてその分野の方々には頭が上がらないくらいに尊敬していますが、政府の補助なしでやっていけるコストに到達しない限り、CO2を増やす技術から減らす技術へのラインを超えることができません。しかし技術は、あともう一歩のところまできていると思います。

 イニシャルコストとして高いお金を払うことは、すなわちエネルギー代とCO2排出を前払いしている行為だということを理解してください。政治もこの理屈を理解して、環境問題に取り組むにあたっては「普及」ではなく「開発」をサポートする補助金の使い方をしなくてはいけません。本質的に元が取れないものを税金を使って普及させようとするのは全て持続性がありません。

(非エコ4)再生紙を使って森林を守ろう

紙は木材から作られているから、再生紙を使って森林を守ろう。燃やす紙が減ればCO2も減るし、木々が生きていればそれを吸収してくれる

 じゃあどうして2008年に製紙会社たちがこぞって再生紙使用割合を偽装した事件が起きたのでしょう。

 これはかつて政治家、メディア、大衆にとって不都合な真実が、製紙各社の偽装という形で隠されていたという話で、環境保護に関する世間一般の大誤解が根っこの原因とも言えます。当時はまだSNS普及が大したことない時期だったので、知らない人も多いことでしょう。事件のことは知っていても、本質的になぜ起きたかということまであまり理解されていません。非常によい教訓が含まれていますので、ここで解説しておきます。

 これは「紙は再生するほうが新品を作るよりハイコスト」であることが隠されていた、あるいは見ないふりをしていたことが原因で起きた事件です。古紙割合の高い紙は、その加工に新品以上のエネルギーを要し、白くするために化学材料をたくさん必要とします。しかしそんなことをしたらまったく価格競争力のない製品になってしまう。いわゆる中古品のような印象のある製品を、新品より高い金を払って買う人はほとんどいません。しかし、大衆には「リサイクルしたものはすなわち省資源だから安いに違いない」という先入観が根付いています。ついに製紙会社は再生紙の使用割合を実際より大きく記載するという偽装に走り、それでもギリギリの価格競争力でもって、世間のエコ要求を満たしていたのです。

 木はCO2を吸うから守れというのも、条件付きです。育ちきって成長が止まった木は、CO2を吸いません(正確には吸う量と吐く量が同じになる)。そりゃそうです、植物というのはCO2のCを自分の体として固定化して成長するものですから、それ以上伸びない木はCO2を吸いません。だから十分大きくなった木はさっさと切って、資源にしないと逆にもったいないのです。もともと資源目的で植えた木は育ったらさっさと切りましょう。石油は再生するのに何億年、木は5年や10年。石油と木はどっちのほうが貴重なんだということ。

 プラスチックにしても紙にしても、有機物はほとんどのケースで新品を作るよりリサイクルするほうがエネルギー効率が悪く、割高になります。だからみなさんがせっせと分別したペットボトルや食品トレーは、実はほとんどが焼却炉で可燃ごみに混ぜて燃やされています。PET, ポリエチレン、ポリスチレンはいい発熱源なので、炉内の温度コントロールのために都合がいいから分けているだけです。世の中に出回っているペットボトルのリサイクル率というのは、大部分がサーマルリサイクルといかにもそれらしい呼び方をされているものですが、現実はただの焼却だという事実も添えておきます。一方で有機物ではなく金属の場合は、鉱物より純度が高い廃材のほうが必要エネルギーが少なくて済むのでリサイクルが成立します。アルミニウムなんかは新品だと電気分解という極めてエネルギーロスの多い工程が必要なので、9割以上がリサイクルです。プラスチックを可燃ごみに捨てるのは大した問題になりませんが、空き缶はちゃんと分別しましょう。

■イメージ戦略が効果的すぎる環境保護ビジネス

 以上4例でわかってきましたね。繰り返してきましたが「コストがかかってでも、石油消費やCO2を減らそう」は基本的に妄言です。「コストがかかるところでは、エネルギーが消費されてCO2が生成している」が真実。多くの環境保護活動は、このきわめて測定しづらい化石燃料消費とCO2排出の側面を隠して実現しているものたちです。プラスチックが再生されるとか、太陽光が電気になるとか、文字面だけで美しい側面だけを見せて大衆や政治家を騙して味方につけるような方法は実は簡単で、それは世の中サイエンスの心得のない人が大多数で騙しやすいから。

 まあ、その隠されやすい側面になる典型例のCO2が、本当に悪いかどうかもわかっていないのですけどね。だって、CO2が温暖化の主犯だというのはまだ一説の域を出ていないから。H2Oのほうが温室効果の寄与度が圧倒的に高いから関係ないとか、因果関係が逆で気温が上がるからCO2が増えるんだみたいな反論は全然知られていませんが、これらを否定する根拠も出てきていません。という話はおまけですが、とにかくエコやら環境保護やらは、大衆が思っているほど単純じゃないんだぞという話がしたかった回でした。


Yoshiyuki Izutsu

http://linkedin.com/in/yizutsu



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