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気候変動かかって来い

「温暖化が深刻だ」
「豪雨が増えた」
「雪が減った」
「砂漠化が止まらない」
「森林火災が広がり続けている」
「ハリケーンが強くなった」

 これら気候変動が私たちヒトの活動に起因する自業自得の可能性があるなら抑制したくなる気持ちはわからないでもないです。

 しかし、あいにくですが私は理解はしますが同意しません。私の推奨はこれら気候変動を抑制するのではなく、利用することです。抑制したいと思ったところで根本の問題は資源の消費ではなく生産。どうやったってジリ貧は避けられないのでその前提で考えるべきということです。「温暖化させたくない」ではなく「温暖化したらどうしよう」という発想。

■省エネは誰もが当たり前のようにやっている

 「省エネ技術を開発します」という活動表明がいかにありふれたものであるかは、少しでも物理や化学といった自然科学に心得があれば、熱力学第一法則と第二法則でわかること。

(熱力学第一法則)
断熱系内のエネルギー総量は、変化しない
(熱力学第二法則)
ひとつの熱源から熱を受け取り、そのすべてを仕事に変換できない

(各法則の説明表現は様々あります)

 この書き方では理科アレルギーな人に即ブラウザを閉じられてしまうので少し易しい表現にすると、第一法則は「エネルギーが突然湧いたり消えたりすることはないよ」、第二法則は「ロスなくエネルギーを取り出すことはできないよ」ということです。

 例えば燃料をO2で燃やすと熱とCO2とH2Oが得られますが、燃やす前の燃料とO2の合計エネルギーは燃やした後の熱とCO2とH2Oの合計エネルギーと同じで、この時取り出したいのは熱だけなので捨てられてしまうCO2とH2Oがもつエネルギーは少なくともロスするし、熱も100%は使い切れないからそれもロスする、という感じ。最新のコンバインドサイクル式の火力発電でさえ熱のうち60%くらいしか電気として取り出せません。

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(熱ロスをほぼゼロにすること以上の効率化はできない)

 CO2は化石燃料からエネルギーを取り出すと必ずおまけで発生するものなので、最もCO2を出さないエネルギー利用というのは、燃料からエネルギーを取り出す際に熱ロスを限りなくゼロに近づけることとなります。そして熱ロスを限りなくゼロに近づけるという活動は、既に世界中の78億人全員がまさに毎日実行中のことです。個人であれば余計な買い物を減らしてゴミを少なくするよう意識しています。産業であれば工場の廃スチームの熱をできる限り他のプロセスに転用することを必死に考えます。「無駄を減らす」「支出を減らす」ことはぱっと見でエネルギーと直結しなそうでも「省エネ」に確実に影響します。以前の投稿で載せたクマのぬいぐるみの図をもう一度貼っておきますが、お金を払う行為はすべてエネルギー代を払ったことと同じになり、同時にCO2排出につながります。つまり最も省エネなのは格安ボロアパートで食事とトイレ以外寝ているだけの人ということ。

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(何を買っても、元をたどるとエネルギーです)

 やや回りくどくなりましたが、ゲイツの省エネ技術開発もこの活動と何ら変わらないわけです。あるいは近年になって急に省エネに本気を出すのでしょうか。これまでやって来なかったとでも言うのでしょうか。人類史10万年間、全員ずっと本気です。ゲイツのような裕福な人が「今日から本気出す」などと宣言しようものなら、「ふざけんな、毎日やって当たりまえだ!」と怒ることはあっても「素晴らしい!」と称賛されるはずがない。

■誰かが省エネすれば他の誰かがそのエネルギーを使う

 例えばゲイツがここから数十年かけて大幅な省エネ技術を実現したとしましょう。それはそれで結構。しかし、そのおかげで浮いた化石燃料をどうするのでしょうか。世の中エネルギーは常に奪い合いの対象ですから、新しい別のテクノロジー開発のためにゲイツではない誰かによって使われ、人々の生活が豊かになり、人口が増えます。よって、ゲイツが排出するCO2が減っても世界が排出するCO2は減りません。省エネ技術とは所詮ローカルなコストダウン活動でしかないのです。従来通りの技術発展とまったく同質。

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(省エネ技術によって起きること)

 今のヒトを宇宙人の立場で客観的に見てください。地中から大量に噴き出している化石燃料というエサのおかげで異常繁殖しているだけの生き物です。一部の個体が少ないエサで生きられるようになったところで、残りの個体はむしろ食べられるエサが増えて繁殖スピードが増え、エサの消費総量は減らず、CO2排出総量も減らず、止めることはできません。宇宙人目線でこの惑星のCO2濃度を下げたいと思ったら、個体数を減らしてでもエサの噴出口を封じるしかないのはすぐわかりますよね。

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(CO2を減らすには誰かが犠牲にならないといけない)

■意識を変えるべきはエネルギーを使う人たちではない

 近年の省エネ関連の話題に賞賛が集まるところを見ると、ヒトは化石燃料を「使ってはいけない」に邁進しようとしています。しかしきっかけを考えれば、200年くらい前にヒトが燃える液体を地中から掘り出すことに成功してしまったことです。当時代償を認識していなかったヒトはその液体を使って急速に文明を進歩させ、人口を増やしました。今でこそ代償は周知されていますが、使った者勝ちな状況では何も変わりません。

 グレタさんも化石燃料消費を削減するという観点ではゲイツと考えが一致していますが、アプローチは全く異なり、彼女は「掘り起こしてはいけない」と考えているはず。「使ってはいけない」になると、今まで使いまくって先を走っている先進国が有利でセコいという話に必ずなります。じゃあ新興国は使っていいことにしようなどと京都議定書やパリ協定のようなことをやっていると「こんなのやってられるか」と離脱する国が出てきて、いつまで経ってもCO2排出は減りません。「掘り起してはいけない」が採用されれば、化石燃料の流通量が制限され価格が高騰し、連鎖的にあらゆる物価が高騰するので、すべてのヒトが同時に省エネに向けて(元々本気だったけど)本気を出すしかなくなるので必ず効果があります。産油国が減産すれば、エネルギー単価は上がりヒトの生活が苦しくなり人口が減って、CO2が減ります。増産すればその逆です。

 そして化石燃料の採掘量を減らすのは国際政治と国際法の役割。だからグレタさんの怒りの矛先は常に各国首脳であって、大衆ではないですよね。ゲイツがどの省エネ開発にいくら投資しようが自由ですが、国際政治の関心を集めない限りまったく無力。誰かグレタさんに「ゲイツの活動をどう思うか」と聞いてみてください。おそらく「それ単独では大して有効ではない」と答えるでしょう。

 私は「掘り起こしてはいけない」は「使ってはいけない」よりはるかに有効だと思いますが、その設定水準を誤ると産油国と非産油国で格差が拡大し、食料危機が発生し、ひどいと戦争になるので、とても危険な橋だと考えます。

 それ以前に"Make America Great Again." "BREXIT"といった利己的な思想の国がある限り、実現不可能なのですけど。もしアメリカ人やイギリス人が本当にこの気候変動に危機感を持って優先事項だと考えているなら、国際法に持って行く意思のあるトップを次回の選挙で選ぶことでしょう。日本人だってどうでしょうか。少子高齢化や過労死などの課題よりも気候変動対策について優先度を高く掲げる人に果たして票が集まるでしょうか。

■ヒトの限界に挑めばいい

 では打つ手なしで温暖化は放置かと言うと、私の答えはイエスです。どうせCO2排出量を最も左右しているのは世界人口で、世界人口を左右しているのは産油国。省エネはすべての人、すべての営利企業が日常的にやっているので1人あたりのCO2排出が劇的に下がることはないし、下がっても人口が増えるだけです。

 いろいろな推計がありますが、中央予測で見ると人口は2100年ごろにおよそ100億人を目指して増加し、その後減少します。気候変動による自然災害が増えるとか食料供給が間に合わなくなるとか、原因はなんでもいいのですがいつか人口の増加と減少が相殺してフラットになる瞬間がやってきたら、それが化石燃料、ヒト、CO2濃度、地表温度といった要素で構成されるひとつの安定した生態系なのです。どうせそれがヒトの限界なら、それで良いではないですか。化石燃料を食べ物に加工できるヒトは化石燃料の機械採掘がなかった場合より約10倍まで個体数を増やした、というような結論が未来の教科書に載るだけ。それとも2020年の今のうちから石油産出を減らして食料危機に瀕しながら自主的に人口を80億人くらいで止め、減少に向かわせますか。

 果たしてどちらが幸せでしょう。私は温暖化を放置した結果の生態系の一員になるほうを望みます。「一緒に我慢しよう」という足の引っ張りあいより、「一緒に戦おう」のほうが前向きでコミュニケーション能力に長けた生命であるヒトらしいです。

■気候変動を生き抜くための知恵

 そもそも温暖化をそんなに悲観する必要はないと思います。暑すぎて住めない土地が増えるなら、そのぶんそれまで寒すぎて住めなかったのに住めるようになる土地が現れるはずで、だったら移住すればいい。実際、農作物の生産ベルトは南北極側へ少しずつずれています。気候が変わって作れなくなる作物があるならば、同じだけ新しく作れるようになる土地や作物が現れるので悲観ばかりするのはただの自然淘汰されるべき怠け者です。出来栄えが気温に左右されやすいワイン向けブドウなんかはとてもわかりやすい。

 私たちの先祖にあたる猿たちは、環境が変化して森から食料が減った時、他の森を求めて移住して生き延びた種です。そこに留まった猿はほとんど絶滅しました。前記のブドウも北欧や北海道へ移住したようなものです。私は「気候変動かかって来い」という態度で、柔軟な行動をとって生き残れる個体を目指したいと思います。どうすればいいか思いつかない人に勧めるなら、とりあえずエアコンメーカーにでも入社しておきましょう。

 オーストラリアの森林火災では多くの動物が犠牲になりましたが、早くも新しい生態系を目指して動植物が活動を始めています。ヒトは逃げることができるだけマシなのです。絶望的な逆境でも力強く生きようとする生命からも習うべきことがあると思います。日本人だって度重なる台風や地震と戦いながら、力強く生きて発展してきました。何も違わないではないですか。

(この動画はおすすめ。ぜひ観てください)


気候変動を受け入れるというこの発想、少しでも賛同者が増えてくれないかなと願う回でした。ではまた。


Yoshiyuki IZUTSU

http://linkedin.com/in/yizutsu



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