青いランドセル

あの時、こぼれるような赤のランドセルを選んでいたら、もっと生きやすくなっていただろうか。

初恋はエグザイルのATSUSHI。これが初めてついた嘘。普通にTAKAHIROが好きだった。当時のATSUSHIはスキンヘッドにスラッシュが入っていて、目の奥が全く見えないサングラスをしていた。母と、芸能人なら誰がかっこいいかという話をしていて、何となくATSUSHIと言ったら母にすごくウケた。「その年で珍しい、強面なタイプが好きなのかもね。これは将来が心配だわ」そう言う母は嬉しそうに見えた。それから持ちネタのように、好きなタイプはATSUSHIと言っていた。

小・中学生の頃、珍しい文房具は、自分のアイデンティティを確立するためには十分な武器だった。あまり見ない形、カラーのものを好んで選んでいた。身につける物を買うとき、候補の中で奇抜なものを選んでは「またそんな派手なもの選んで」「っぽいわ〜」と友達に言われるかばかりを考えていた。そして、その商品を本当に可愛いと思っていた。

好きなキャラクターがないことに悩み始めたのは高校生になってからだ。消しゴムを買う時、今までは絶対に選ばなかったMONO消しゴムがものすごくおしゃれに見えた。シンプルイズベスト時代の到来。いや、私っぽいのはコーラーの香り付きの方。え、消しカスをまとめられるローラー付きのもある。困った。何を基準に選べばいいのかわからなくなってしまった。消しゴムコーナーで悶々とする。一旦シャーペンコーナーで心を整える。いつも使うものだから妥協はしたくない。消しゴムコーナーに舞い戻る。ああ!こんな時、好きなキャラクターがあれば、あれこれ考えずにそのデザインのものを選べるだろうに。結局その時は買わず、後日、MONO消しゴムの限定カラーを買った。

新学期応援セールののぼりが並ぶ、ショッピングモールの一角。赤、ピンク、紫、水色、青、紺、黒。色とりどりの箱が並ぶラック。「どれがいい」と祖母が聞く。「これ」青を指してみたら大人がみんなあたふたした。「本当にこれでいいの?」「それは男の子の色だわ」「あとで赤がいいって言っても新しいの買わないよ?」ちょっと怒ってた。それが面白くて、また半分意地になって、青のランドセルを買ってもらった。「個性的で、とっても似合ってるよ」と母は褒めてくれた。入学式当日、自信満々意気揚々と青いランドセルを背負って出陣したら、黒に近い紺のランドセルを背負っている女の子がいた。面食らった。すごくかっこよかった。世界は広いと知った。ちょっと嬉しかった。

時々思う。あの時、あの時。こぼれるような赤のランドセルを選んでいたら、もっと生きやすくなっていただろうか。TAKAHIROが好きだと素直に言えただろうか。深く考えずにMONO消しゴムを選べただろうか。タラレバ娘になりたくない。青いランドセルを選んだ私を愛でながら、それでも自分の好きを認めたい。

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