九陰とは何か

老子道徳経序訣『禍滅九陰』

射鵰英雄伝に「九陰真経」がありますが、それとはおそらく別の話じゃないかと思います。

実は葛玄という人が著した「老子道徳経序訣」という文章に、
『禍滅九陰』と記された言葉がありまして、その意味が全くわからず、
手持ちの漢辞海(辞書)を調べ回って、やっとわかりました。

聞いたら『なんだそんなことか』と思われるでしょうが、そもそも「九陰」の意味がまったくわからないのだからしょうがありません。

ちなみに日本語のWikipediaの「九陰真経」の項目にはこう記されています。

「九陰」とは「」の気が盛んなこと。すなわち、強力な「陰」の気がついには「」を打ち倒すことを示している。この場合の「陰」とは「陽」、すなわち「剛」に対する「柔」という意味合いで、とりたてて邪悪な力について記述してあるというわけでない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%9D%E9%99%B0%E7%9C%9F%E7%B5%8C

これは「九陰真経」の説明なので、かねがねこの通りで良いと思います。

ただ『禍滅九陰』にこの意味では当てはまらないのです。

もし「禍は九陰により滅す」と読むとすると、
禍はそのまま「わざわい」の意味で、陽の意味は無いからです。
むしろ陰か陽かと言われれば陰です。

実は中国語サイトにも「九阴(九陰)」の意味が載っていました。

⒈  幽渺之地。指阴间。(私訳:幽渺の地。あの世のこと)

https://cidian.qianp.com/ci/%E4%B9%9D%E9%98%B4

ちょうど葛玄の「祸灭九阴,福生十方(禍滅九陰,福生十方)」も載っていますね。

今となってはおおよそ意味を掴んでいるので、たしかにこの意味ならなんとなくわかる気がします。

実は上記の通り「禍滅九陰」の後には「福生十方,安國寧家,孰能知乎」と続きます。

この続く言葉を見れば、良い意味であることに想像は難くありません。

これから提示する意味で確証があるかわかりませんが、大体おおよそはあってると思います。

「禍滅九陰」とは?

読み方は「禍は九陰へ滅す」です。

現代語にすれば「嫌な事が嫌な方へ消えていったよ」という意味です。
九陰ですので、ただ「あの世」を指すのではなく「たくさんの良くないもの」と解した方が分かりやすいかと思います。

もしくは「禍は九陰と滅す」として、
「禍(わざわい)という嫌なことが、たくさんの嫌な事と一緒に消えていった」という意味でしょう。

どちらにせよ深く考えることは無い、ハッピーな意味といえます。

福生十方(各地に福が生じ),安國寧家(国家は安寧する)の前に置かれる言葉ですから、このぐらいで深い意味がある言葉ではなかったのでしょう

「九陰真経」との関係

なぜ「禍滅九陰」の意味を知りたかったかというと、九陰真経と関係あると思っていたからです。

金庸先生がここから借用したのでは…と思ったのです。

調べてみるとほとんど関係がなかったので、拍子抜けしてしまいました。

ただ別の解釈もしました。
その解釈だと「禍滅九陰」はこう訳します。

「禍を滅して、陰を九とす」

九とは「陽」のことです。九は陽を表す数字で、陽数と呼ばれています。
つまり「陰を九とす」は「陰が陽に転じる」の意味です。

こう考えると、
「禍滅九陰」の意味は「禍がなくなり、世の中の気が良い方へ変わった」となります。

かなり捻った言葉の使い方なので、こう読まないとは思いますが、
おおよそ意味は一緒なので、複合的な印象を与える言葉なのかもしれません。

「九」が「陽」であることは説明しましたが、そもそも「九陰」という言葉が少し変な言葉なのです。

「たくさん陰」を表しつつ、陽を表す字がくっついているのです。

「陰極まれば陽」と言われますから、
まさに陰が極限に達し、陽に転じている様子が表されている言葉なのでないでしょうか。

なので「九陰」には、陰の力が陽に転じる人智不可知の絶大なパワーが意味されているように感じます。

金庸先生もひょっとしたら、こういった言葉の面白さから使用したのかもしれませんね。

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