中学受験生の「取りかかりが遅い」を直すためには

最難関中受験生だけでなく、多くの中学受験生を持つ親が悩むポイントに、「取りかかりが遅い」というのがあると思います。今回はこの点について少し思うところを書いてみたいと思います。

1.大人から見て子どもの動きが「遅い」のはなぜか

 タイトルにも書いたように、何事をするにも取りかかりが遅く、「早くやりなさい!」などと子どもに注意することはないでしょうか。しかも何度注意してもなかなか改善しない…注意する親の側も1000年に一度の大噴火、そして親子大戦争勃発…残念ながら、歴史は繰り返しますね…。

①「体感的な時間の流れ方」が大人と子どもとで違う

 動きが遅い理由の1つは、大人と子供とでは体感的な時間の流れ方が違うことにあると感じています。小学生の頃に長~く感じた6年間が、大人になった今となっては、1年また1年とどんどん過ぎていく、と感じることはありませんでしょうか。時間はいつも同じ速さで過ぎ去っていくのはそうなのですが、もし「人生」というものを誰もが同じ長さに感じているとしたらどうでしょうか。

 例えば親が40歳で過ごす1年、これは人生の40分の1ですが、子どもが12歳で過ごす1年は、人生の12分の1にすぎません。もし人生を120分だとしたら、大人にとってはその40分の1は「3分」ですが、子どもにとっては120分の12分の1で「10分」ということになります。同じ時間であっても、子どもは大人が感じる3倍以上のゆったりした時の流れの中で過ごしている、ということになります。我が子に注意をしたら、「あ~もう今やろうと思っていたのに!」と言って言い訳をしてきたことはありませんでしょうか。これはこの体感的な時間の流れ方の違いから起こっているのではないかなと感じています。

②「段取り力」が大人と子どもとで違う

 ①の考え方でいくと、大人が「入試まであと1年しかない!」と焦っている一方で、子どもは「入試まであと3年もあるさ」と受け止められているということです。あと1年しかなければ、いつ何をどうやって取り組むか、スケジュールを真剣に組み立てていくということになりますが、あと3年もあったら、そんなに厳密に計画を立てていこう、という子どもはあまりいないのではないでしょうか。

 ギリギリにならないとなかなかやろうとしない、というのもそうですし、そもそも現実的に実行可能な計画を立て、それに沿って物事をこなしていく、という経験も、大人と子どもとでは経験値が大きく違う部分です。子どもに何かスケジュールを立てさせても、「勉強を4時間ぶっ通しでやっていきなり寝る」…それ、実行できます?お風呂にも入らずにいきなり寝るんですか?ツッコミどころ満載のスケジュール表が出来上がりますよね…。

2.特に「就寝時刻」と「起床時刻」を守らせる

 寝起きの時刻は、生活リズムの鏡です。ここが乱れていると、だいたい勉強姿勢も乱れています。乱れていても、宿題はしっかり提出できるし、授業態度も問題なし、塾のテストの結果も悪くない、という子もいます。だからゲームをやって寝るのが夜遅くなってもまあいいか、と許してはいけません。それは親の前で「優等生」を演じている可能性があり、本人的には無理をしている可能性があります。いずれどこかで破綻していくはずなので、そこを見逃してはいけないのです。

 6年生スタート段階では、睡眠時間の理想は、個人差はありますが「8時間」と私は考えています。23時就寝、7時起床、のイメージです。入試直前期に、「7時間」になってしまうのが妥協できるラインで、その時間を確保した上で日々の勉強スケジュールは組み立ててほしいと思います。

 12歳の体には、やはり睡眠が身体的精神的な成長のために必要だからです。寝る子は育つ、というのは本当で、特に「精神的な成長」についてはそうだと実感しています。睡眠時間を削ってでも勉強時間を作り出せばその分成績もよくしていけるのでは、と考えがちですが、睡眠時間が少なくなると集中力が鍛えられなくなり、我慢ができなくなり、イライラすることが多くなり、当然親子げんかも増えます。

 中学受験というのは、世間一般から見たイメージとしては、「あんなに何時間も勉強させてかわいそう」というものがあります。「勉強=苦行」であればそうなるでしょうが、当の子どもたちは楽しいと思って取り組んでくれています。知ることの楽しさに触れてもらうのに限界はありません。私のような一介の中学受験塾講師を経験した人間も、睡眠時間を削ってほしいとは全く思っていません。限られた時間の中でどう効率よくこなしていくのか、を追求してほしいと考えています。

3.睡眠不足を解消させた実例

 一例を挙げると、入試をあと1か月後に控えた年末頃に急に成績が下降しだした生徒がいました。どうしたのかを聞いてみたところ、夜の1時や2時まで勉強しているとのことでした。入試が近づいてきて急に実感がわき、緊張するとこういう無理をしてしまうのですが、「23時には寝なさい」と指示して守らせたところ、成績は元通りになって結果甲陽学院中にも合格しました。

 また別の例では、6年夏頃に他の塾から転塾してきた生徒が、夜の3時4時まで勉強していたとのことで、これも即やめさせました。本人も表情が全くなく、いかにも楽しくない、という状態での転塾でしたが、睡眠をしっかりとらせ、ここから立て直していこう、という話をして励ましていったところ、大変表情も明るくなってくれました。

 こういう睡眠時間を削って無茶をする子の特徴は、時間にはルーズだが、宿題などやるべきことはやらないといけない、と考えているということです。(ごくまれに、親にやらされているケースもあります。最近「教育虐待」と言われるのはこういうケースでしょうか)根は真面目な部分もあるけれど、解決策を深く考えずに「睡眠時間を削って勉強時間を捻出する」という安易な方向に流れてしまうのですが、そうではなく、「限られた時間の中で効率的に勉強を回していく、かつ定着させていく」勉強になるように仕向けなければなりません。

4.解決策=「時間のレイアウト」づくり

 すぐに取りかかればもっと時間を上手く使えるのに、と親としては思っているのですが、いざ声をかけるとなると「早くやれ」しか言えず、改善できていないケースがほとんどではないでしょうか。この解決策は、「時間のレイアウト」を生徒本人にしっかり把握させることにあります。

 例えば、塾から帰ってきてから自分は何と何をして寝ることになるのか。こういうことを「家に帰ってきてから」考えているから動きが遅くなるのです。これは塾から家に帰りつくまでの間の移動時間で考えるべきことです。そこで考えておくから、帰ってから無駄な動きなく風呂に入り、軽食をとり、軽くその日の宿題に手を付けてから寝る、というようにスムーズに動けるようになります。

 「時間のレイアウト」を上手にできるようにさせるためには、「次に自分は何をすることになるのか」を常に考え続けさせることです。塾の授業前のスキマ時間に何をして過ごすか、それは家から塾に来るまでの移動時間(あるいは小学校にいる間に前もって)で考えることです。これを繰り返していけば、「とりかかりが遅い」という問題は解消していくことができますので、ぜひ意識してください。

 「いつまでたっても早く動かない!」と親の方がストレスをためてこんでしまうと、秋ごろには大人の側がもたなくなってしまいます。そうならないためにも、大人と子どもとで時間の流れの感じ方は違うこと、段取りの仕方を丁寧に教え込んでいってやることが必要、と思って粘り強く接していってあげてください。

今回もお読みいただきましてありがとうございました。ご質問やこういうテーマで書いてほしい、というご相談ごとがございましたら、コメントでお知らせください。

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